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第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」
第3話「ギルドと世界の常識」
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ルミナに案内され、森の中を二時間ほど歩いただろうか。彼女は驚くほど森の地理に詳しく、獣道のような場所を迷いなく進んでいく。道中、何度か魔物らしき気配を感じたが、そのたびにルミナが何かをすると、気配は遠ざかっていった。どうやら、魔物を避ける術も持っているらしい。
「着いたわ。ここがリムベルの町よ」
不意に視界が開け、目の前に現れた光景に俺は息をのんだ。
高い木の柵で囲まれた、中世ヨーロッパを思わせる町並み。石畳の道を行き交う人々は、商人風の男、腰に剣を下げた屈強な男たち、ローブ姿の魔術師らしき人物など、まさにファンタジーの世界そのものだ。
「すげぇ……」
思わず感嘆の声が漏れる。映画のセットみたいだ。いや、セットなんかじゃない。人々の活気、パンの焼ける香ばしい匂い、家畜の鳴き声。すべてが本物だ。俺は本当に、異世界に来てしまったんだ。
町の門では、槍を持った衛兵が二人立っていた。俺たちは特に咎められることもなく、すんなりと町の中に入れた。
「まず、あなたはどうするつもり?」
町に入ってすぐ、ルミナが立ち止まって俺に問いかけた。
「どうするって言われても……。とりあえず、この世界のことを知りたい。お金もないし、仕事を見つけないと」
スマホはただの文鎮だし、財布に入っている日本円がここで使えるとは思えない。まずは日銭を稼ぐ方法を見つけなければ、野垂れ死にだ。
「仕事……。あなた、何かできることはあるの?」
ルミナが疑わしそうな目で見てくる。
「えーっと……。一応、大学生だから勉強はそこそこ。あとは、まあ、人並みに家事とか……」
言っている自分でも情けなくなる。剣も魔法も使えない、ただの現代人がこの世界でできることなんて限られているだろう。
ルミナは呆れたように、またため息をついた。
「……仕方ないわね。冒険者ギルドに行きましょう。そこなら、あなたみたいな人でもできる仕事が見つかるかもしれない」
「冒険者ギルド!」
なんて胸躍る響きだろうか。ゲームで何度も聞いたことのある施設が、この世界には実在するらしい。
ルミナに連れられて町の中心部へ向かう。道中、彼女は最低限の常識を教えてくれた。この国がアルストリア王国であること、通貨の単位が「リド」であること、そして魔物を倒したり様々な依頼をこなしたりする「冒険者」という職業が存在すること。
やがて、ひときわ大きな木造の建物の前にたどり着いた。入口には剣と盾をかたどった看板が掲げられ、「冒険者ギルド リムベル支部」と書かれている。
ギルドの中は、外の喧騒が嘘のように熱気に満ちていた。屈強な男たちが酒を飲みながら談笑し、カウンターでは依頼の受注が行われている。壁には、おびただしい数の依頼書、いわゆるクエストボードというやつだろうか、それが貼られていた。
「すごいな……」
完全に雰囲気に飲まれている俺の腕を、ルミナがぐいっと引っ張る。
「行くわよ」
彼女は人混みをかき分け、カウンターへと向かう。俺も慌ててその後に続いた。
カウンターの向こうには、快活そうな笑顔が魅力的な、栗色の髪をポニーテールにした女性がいた。
「あら、ルミナちゃん。いらっしゃい。……と、そちらの方は?」
受付嬢はルミナと顔なじみのようだ。そして、物珍しそうな視線を俺に向けてくる。
「リリスさん。この人、カイって言うの。事情があって、ギルドに登録したいんだけど」
「へぇ、新人さん! 大歓迎よ! 登録には身分証が必要だけど、持ってるかしら?」
受付嬢――リリスさんの言葉に、俺は首を横に振る。
「それが……持ってないんだ。というか、俺、記憶が曖昧で……」
異世界から来ました、なんて言っても信じてもらえないだろう。咄嗟に記憶喪失のフリをすることにした。我ながらベタな設定だとは思う。
「まあ、大変だったのね。身分証がない場合は、保証人がいれば仮登録ができるわ。ルミナちゃん、あなたが保証人になる?」
リリスさんの問いに、ルミナは一瞬ためらった後、小さくうなずいた。
「……ええ。私が保証人になるわ」
「え、いいのか? ルミナ」
「あなたをこのまま放っておくわけにもいかないでしょう。その代わり、ちゃんと働いて、私に借りた分は返してもらうから」
彼女はぷいっとそっぽを向いて言う。なんだかんだで、面倒見がいいのかもしれない。
「ありがとう、ルミナ!」
「べ、別にあなたのためじゃないから。勘違いしないで」
そんな典型的な台詞を吐くルミナを見て、リリスがくすくすと笑った。
「はいはい。じゃあ、こちらの書類に名前を書いて。それと、この水晶に手をかざしてちょうだい。魔力や適性を測るためのものだから」
渡された羊皮紙に、見よう見まねで「カイ」とサインする。そして、言われた通りに水晶玉に手をかざした。
すると、水晶は一瞬、本当にごくかすかに淡い光を放っただけで、すぐに元に戻った。
「うーん……魔力はほとんどないみたいね。適性も……判定不能? 珍しいわね」
リリスさんが不思議そうに首をかしげる。
「まあ、でも登録は問題ないわ。はい、これがあなたのギルドカード。ランクは一番下のFからね。頑張って依頼をこなして、ランクを上げていってね!」
手渡されたのは、一枚の銅製のプレートだった。そこには俺の名前と、Fというランクが刻まれている。こうして俺は、晴れて異世界の冒険者になった。
『これから、どうなることやら……』
手の中のギルドカードを握りしめながら、俺は期待と不安が入り混じったため息を、一つ大きくついた。
「着いたわ。ここがリムベルの町よ」
不意に視界が開け、目の前に現れた光景に俺は息をのんだ。
高い木の柵で囲まれた、中世ヨーロッパを思わせる町並み。石畳の道を行き交う人々は、商人風の男、腰に剣を下げた屈強な男たち、ローブ姿の魔術師らしき人物など、まさにファンタジーの世界そのものだ。
「すげぇ……」
思わず感嘆の声が漏れる。映画のセットみたいだ。いや、セットなんかじゃない。人々の活気、パンの焼ける香ばしい匂い、家畜の鳴き声。すべてが本物だ。俺は本当に、異世界に来てしまったんだ。
町の門では、槍を持った衛兵が二人立っていた。俺たちは特に咎められることもなく、すんなりと町の中に入れた。
「まず、あなたはどうするつもり?」
町に入ってすぐ、ルミナが立ち止まって俺に問いかけた。
「どうするって言われても……。とりあえず、この世界のことを知りたい。お金もないし、仕事を見つけないと」
スマホはただの文鎮だし、財布に入っている日本円がここで使えるとは思えない。まずは日銭を稼ぐ方法を見つけなければ、野垂れ死にだ。
「仕事……。あなた、何かできることはあるの?」
ルミナが疑わしそうな目で見てくる。
「えーっと……。一応、大学生だから勉強はそこそこ。あとは、まあ、人並みに家事とか……」
言っている自分でも情けなくなる。剣も魔法も使えない、ただの現代人がこの世界でできることなんて限られているだろう。
ルミナは呆れたように、またため息をついた。
「……仕方ないわね。冒険者ギルドに行きましょう。そこなら、あなたみたいな人でもできる仕事が見つかるかもしれない」
「冒険者ギルド!」
なんて胸躍る響きだろうか。ゲームで何度も聞いたことのある施設が、この世界には実在するらしい。
ルミナに連れられて町の中心部へ向かう。道中、彼女は最低限の常識を教えてくれた。この国がアルストリア王国であること、通貨の単位が「リド」であること、そして魔物を倒したり様々な依頼をこなしたりする「冒険者」という職業が存在すること。
やがて、ひときわ大きな木造の建物の前にたどり着いた。入口には剣と盾をかたどった看板が掲げられ、「冒険者ギルド リムベル支部」と書かれている。
ギルドの中は、外の喧騒が嘘のように熱気に満ちていた。屈強な男たちが酒を飲みながら談笑し、カウンターでは依頼の受注が行われている。壁には、おびただしい数の依頼書、いわゆるクエストボードというやつだろうか、それが貼られていた。
「すごいな……」
完全に雰囲気に飲まれている俺の腕を、ルミナがぐいっと引っ張る。
「行くわよ」
彼女は人混みをかき分け、カウンターへと向かう。俺も慌ててその後に続いた。
カウンターの向こうには、快活そうな笑顔が魅力的な、栗色の髪をポニーテールにした女性がいた。
「あら、ルミナちゃん。いらっしゃい。……と、そちらの方は?」
受付嬢はルミナと顔なじみのようだ。そして、物珍しそうな視線を俺に向けてくる。
「リリスさん。この人、カイって言うの。事情があって、ギルドに登録したいんだけど」
「へぇ、新人さん! 大歓迎よ! 登録には身分証が必要だけど、持ってるかしら?」
受付嬢――リリスさんの言葉に、俺は首を横に振る。
「それが……持ってないんだ。というか、俺、記憶が曖昧で……」
異世界から来ました、なんて言っても信じてもらえないだろう。咄嗟に記憶喪失のフリをすることにした。我ながらベタな設定だとは思う。
「まあ、大変だったのね。身分証がない場合は、保証人がいれば仮登録ができるわ。ルミナちゃん、あなたが保証人になる?」
リリスさんの問いに、ルミナは一瞬ためらった後、小さくうなずいた。
「……ええ。私が保証人になるわ」
「え、いいのか? ルミナ」
「あなたをこのまま放っておくわけにもいかないでしょう。その代わり、ちゃんと働いて、私に借りた分は返してもらうから」
彼女はぷいっとそっぽを向いて言う。なんだかんだで、面倒見がいいのかもしれない。
「ありがとう、ルミナ!」
「べ、別にあなたのためじゃないから。勘違いしないで」
そんな典型的な台詞を吐くルミナを見て、リリスがくすくすと笑った。
「はいはい。じゃあ、こちらの書類に名前を書いて。それと、この水晶に手をかざしてちょうだい。魔力や適性を測るためのものだから」
渡された羊皮紙に、見よう見まねで「カイ」とサインする。そして、言われた通りに水晶玉に手をかざした。
すると、水晶は一瞬、本当にごくかすかに淡い光を放っただけで、すぐに元に戻った。
「うーん……魔力はほとんどないみたいね。適性も……判定不能? 珍しいわね」
リリスさんが不思議そうに首をかしげる。
「まあ、でも登録は問題ないわ。はい、これがあなたのギルドカード。ランクは一番下のFからね。頑張って依頼をこなして、ランクを上げていってね!」
手渡されたのは、一枚の銅製のプレートだった。そこには俺の名前と、Fというランクが刻まれている。こうして俺は、晴れて異世界の冒険者になった。
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