「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人

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第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」

第15話「絶体絶命の策」

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「カイ!」

 吹き飛ばされた俺を見て、ルミナが叫ぶ。その一瞬の隙を、レンが見逃すはずもなかった。

「よそ見は、命取り」

 レンの短剣が、ルミナの張っていた光のバリアを突き破り、彼女の肩を浅く切り裂いた。

「きゃあ!」

 赤い血が、白い衣服に滲む。

「ルミナ!」

 痛みと怒りで、俺の頭に血が上った。身体のダメージを無視して立ち上がり、再びシンに斬りかかる。だが、その動きは完全に冷静さを欠いていた。

「感情的な攻撃は、隙を生むだけだ」

 シンは俺の剣を軽くいなすと、流れるような動きで俺の背後に回り込み、首筋に手刀を打ち込んできた。

「ぐっ……!」

 強烈な衝撃が走り、俺は膝から崩れ落ちる。意識が遠のきそうになるのを、必死でこらえた。

 もう、ボロボロだった。ルミナも肩を押さえ、苦しそうに息をしている。魔力も、体力も、限界に近い。

「終わりだ。聖女は生かして連れてこいとのことだが……」

 シンが、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

「イレギュラーのお前は、ここで死ね」

 シンの手が、俺の頭上へ振り上げられる。もう、避ける力は残っていない。

『ここまで、なのか……?』

 ルミナをエルドラナに送り届けるって、誓ったのに。こんなところで、終わってたまるか。

『何か……何か、最後の手段は……!』

 脳をフル回転させる。この状況を打破できる、一発逆転の策。

 《概念編集》。この力で、まだ試していないことが一つだけあった。

 物質の情報を書き換える。それは、無機物だけに限った話なのか? 生物は? 人間は? 例えば……俺自身は?

 危険な考えだ。自分の身体を書き換えるなんて、何が起こるか分からない。失敗すれば、人間でなくなってしまうかもしれない。

 でも、もうこれしか残されていない。

『賭けるしかない……!』

 レンが、とどめを刺すために、倒れているルミナに近づいていくのが見えた。もう、時間がない。

 俺は、最後の力を振り絞り、自分自身の身体に意識を集中させた。

『俺の身体を……この皮膚を、筋肉を、骨を……一時的に、鋼鉄の硬さに書き換えろ!』

 全身に、これまで感じたことのない激痛が走った。

「ぐ……あああああああっ!!」

 肉が引き裂かれ、骨がきしむような、耐えがたい痛み。まるで、身体の内側から、別の何かに作り変えられていくようだ。視界が真っ赤に染まる。

「な、何だ!?」

 俺の異変に気づき、シンが驚きの声を上げる。

 俺の皮膚が、みるみるうちに鈍い灰色の光沢を帯びていく。それは、まるで金属のような質感だった。

 レンがルミナにとどめを刺そうと振り下ろした短剣。俺は、その間に滑り込むように身体を割り込ませた。

「邪魔!」

 レンの短剣が、俺の腕に突き立てられる。

 キィィィィン!

 甲高い金属音が響く。信じられないことに、レンの刃は俺の皮膚を貫けず、火花を散らして弾かれたのだ。

「なっ……!?」

 レンが、初めて驚愕の表情を浮かべる。

「お前の相手は……俺だろ……!」

 俺は、鋼鉄と化した腕で、レンの身体を力任せに薙ぎ払った。レンは紙切れのように吹き飛び、木の幹に叩きつけられてうめき声を上げる。

「レン!」

 シンが叫ぶ。

 だが、代償はあまりにも大きかった。身体を鋼鉄に変えた影響で、関節がうまく動かない。全身が鉛のように重く、凄まじい疲労感が俺を襲う。

「ぐ……ぅ……」

 立っているのがやっとで、膝がガクガクと震える。おそらく、この状態は長くは続かない。

 俺が作った、ほんの一瞬の隙。しかし、戦況を覆すには至らない。

 体勢を立て直したシンが、今度は警戒を最大にして、俺に短剣を構えた。

「面白い……。面白いが、そこまでだ!」

 シンの身体から、黒いオーラのようなものが立ち上る。あれは、ただの殺気じゃない。魔力だ。

 もはや、これまでか。そう、誰もが思った、その瞬間だった。

 ヒュッ! ヒュン!

 風を切る音が、森に響き渡った。

 次の瞬間、シンの足元や、レンのすぐ横の木の幹に、数本の矢が突き立っていた。

「なっ!?」

 シンとレンが、矢の飛んできた方向を鋭く睨む。

 森の奥深くから、凛とした、それでいて厳しい声が響き渡った。

「そこまでだ、異邦の者よ。聖なる森を、これ以上穢すことは許さない」

 その声に、俺はかろうじて顔を上げた。

 そこに立っていたのは、俺たちが今まで見たこともない、美しい存在だった。
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