「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人

文字の大きさ
58 / 87
第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」

第25話「虹の飛泉と聖樹の都」

しおりを挟む
 目の前にそびえ立つ、虹色の光を放つ巨大な滝『虹の飛泉(アイリスフォール)』。その壮大さと神々しさに、俺とルミナはただ圧倒されていた。水しぶきが肌にかかるたび、まるで全身が清められていくような不思議な感覚に陥る。

「この滝の向こうに、エルドラナがある。だが、ただ進んでも、永遠に滝の裏側へはたどり着けない」

 先導するエリアスが、静かに言った。

「この飛泉は、それ自体が強力な結界なのだ。聖なる血を引く者か、我ら森のエルフが認めた者でなければ、都への道は開かれん」

 エリアスはそう言うと、滝壺のほとりにある苔むした祭壇のような岩の前に立った。彼は懐からエルフの里で受け取ったお守りと同じ意匠のペンダントを取り出し、祭壇のくぼみにはめ込む。

 そして、古エルフ語だろうか、厳かで美しい響きの呪文を唱え始めた。

 すると、ペンダントがまばゆい光を放ち、その光が滝の水面に走った。ごうごうと流れ落ちていた滝の水が、まるで意思を持ったかのように、中央から静かに左右に分かれていく。

 モーセの海割りのように、滝の中に一本の道が現れた。道の向こうは、光り輝く空間が広がっており、その先の様子をうかがい知ることはできない。

「さあ、行くぞ。道が開いている時間は限られている」

 エリアスの声に促され、俺とルミナは顔を見合わせ、力強くうなずくと、光の道へと足を踏み入れた。エリアスが俺たちの後から続き、彼が道を通り抜けると、分かれていた滝は再び元の轟音を立てて一つに戻った。

 光のトンネルを抜けた先。そこに広がっていた光景に、俺は今度こそ、本当に言葉を失った。

 天を突くほど巨大な、一本の大樹。その幹はあまりにも太く、地平線の端から端まで根を張っているかのようだ。枝葉は空を覆い尽くし、一枚一枚の葉が、木漏れ日を浴びてエメラルドのように輝いている。

 そして、その大樹の巨大な枝や幹に抱かれるようにして、白亜の美しい都が築かれていた。建物はどれも流れるような曲線を描き、自然の地形と完全に一体化している。家々の窓からは柔らかな光が漏れ、吊り橋が建物と建物を結んでいる。

 ここが、聖樹の都、エルドラナ。ルミナの故郷。

「……ただいま」

 ルミナの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。それは、長い逃亡の旅の終わりを告げる、安堵の涙だった。

 俺たちが都の入り口に立つと、どこからともなく、人々が集まってきた。皆、ルミナと同じように、どこか神聖な雰囲気をまとった美しい人々だった。だが、その数は驚くほど少ない。そして、一人一人の表情には、安堵と共に、深い疲労の色が浮かんでいた。

「……ルミナ様!」

 集団の中から、一人の老婆がよろよろと歩み寄ってきた。白髪を後ろでまとめ、深いしわが刻まれた顔をしているが、その翠色の瞳は、ルミナのものとよく似ていた。

「ソフィアラお祖母様!」

 ルミナは老婆の元へ駆け寄り、その胸に顔をうずめて泣きじゃくった。老婆――ソフィアラは、ルミナの頭を優しく、何度も撫でている。

 感動的な再会の場面。だが、俺の目には、ソフィアラの表情に浮かんだ一瞬の陰りが見えていた。それは、ただ孫娘との再会を喜ぶだけではない、もっと複雑で、悲しい感情のように思えた。

 エリアスが、ソフィアラに歩み寄り、静かに頭を下げた。

「森のエルフより、盟約に従い、聖女をお連れした。長老ソフィアラ殿」

「エリアス殿……。遠路はるばる、感謝いたします。そして、ルミナを……よくぞ、ここまで……」

 ソフィアラの声は、感謝と共に、絞り出すような響きを持っていた。

 再会の喜びが少し落ち着いた頃、ソフィアラの視線が、ルミナの後ろに立つ俺に向けられた。その瞳は、まるで俺の魂の奥底まで見透かすかのように、鋭く、そして深い。

「……そして、そちらの若者は?」

「彼はカイ。私の命の恩人であり、共に旅をしてきた、かけがえのないパートナーです」

 ルミナが、はっきりと俺を紹介する。

 ソフィアラは、俺を一瞥すると、何も言わずに再びルミナに視線を戻した。

「長旅で疲れたでしょう。さあ、中へ。話は、それからにしましょう」

 その言葉には、どこか聞かせたくない話がある、という響きが含まれている気がして、俺の胸に、小さな不安の種が蒔かれたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~

御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。 異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。 前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。 神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。 朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。 そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。 究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

転生したら無自覚に世界最強になっていた件。周りは僕を崇めるけど、僕自身は今日も日雇い仕事を探しています。

黒崎隼人
ファンタジー
トラックに轢かれ異世界に転生した元サラリーマンの星野悠。 彼に与えられたのは「異常な魔力」と「無自覚に魔術を使う能力」。 しかし自己評価が低すぎる悠は、自分のチート能力に全く気づかない。 「困っている人を助けたい」――その純粋な善意だけで、魔物を一撃で消滅させ、枯れた大地を蘇らせ、難病を癒してしまう。 周囲が驚愕し、彼を英雄と崇めても、本人は「たまたまです」「運が良かっただけ」と首を傾げるばかり。 これは、お人好しな青年が、無自覚なまま世界を救ってしまう、心温まる勘違いと奇跡の物語。

処理中です...