57 / 87
第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」
第24話「大森林の奥へ」
しおりを挟む
エリアスに導かれ、俺たちは大森林の最深部を歩いていた。
そこは、まさに精霊の庭と呼ぶにふさわしい場所だった。木々の間を流れる小川の水は、それ自体が淡い光を放っているかのようで、川底の小石の一つ一つまでくっきりと見えた。時折、羽の生えた小さな光の粒のような生き物――森の精霊ピクシーが、俺たちの周りを興味深そうに飛び回っては、姿を消していく。
「すごいな……。おとぎ話の世界みたいだ」
「ここは、世界の創世から姿を変えていない、原初の森の一部だからな。時間の流れすら、外の世界とは違う」
エリアスは、懐かしむような目で周囲を見渡しながら言った。
旅は、信じられないほど順調に進んだ。凶暴な魔物の気配は一切なく、むしろ森の動物たちが、俺たちを歓迎するかのように姿を見せることすらあった。銀色の毛並みを持つ美しい狐が、道案内をするかのように、しばらく俺たちの前を走ったりもした。
穏やかな旅路の中、俺はエリアスの言葉を何度も思い出していた。
『力の源は、君の心だ』
嘆きの沼で、俺は確かに、呪いの核の悲しみを感じ取った。そして、それを癒したいと、心から願った。だからこそ、あの奇跡は起きたのかもしれない。
もし、俺があの時、核の憎悪に飲み込まれていたら? もし、俺がこの力を、自分の欲望のために使おうとしたら?
ぞっとするような想像が、頭をよぎる。この力は、俺が思っている以上に、繊細で危険なものなのだ。俺は、この力と、そして自分自身の心と、真剣に向き合わなければならない。
隣を歩くルミナも、物思いに沈んでいるようだった。エルドラナが近づくにつれて、彼女の表情には、安堵と共に、ある種の覚悟のようなものが浮かんでいた。
彼女は、自分の故郷で、何と向き合うことになるのだろうか。逃げ出した場所へ戻るというのは、きっと簡単なことではないはずだ。
「……なあ、ルミナ」
俺は、彼女に声をかけた。
「エルドラナに着いたら、どうするんだ? 君の一族の人たちとか、いるのか?」
俺の問いに、ルミナは少しだけ視線を伏せた。
「……分からないわ。私が逃げ出した時、両親は私を逃がすために教団と戦っていた。他の同族たちがどうなったのかも、分からない。もしかしたら、もう誰もいないのかもしれない」
その声は、震えていた。
「でも、行かなければならないの。確かめないと。そして、もし誰もいなくても……私が、一族の聖なる力を受け継いでいかなければならない。それが、私の使命だから」
彼女の瞳には、悲しみと、それを乗り越えようとする強い意志が宿っていた。
俺は、彼女に何と声をかければいいのか分からなかった。ただ、そっと彼女の隣に寄り添って歩くことしかできない。
やがて、三日ほど歩き続けた頃、エリアスが足を止めた。
「……着いたぞ」
目の前に、信じられない光景が広がっていた。
巨大な崖がそそり立ち、その中央から、膨大な量の水が滝となって流れ落ちている。だが、それはただの水ではなかった。滝の水そのものが、虹色の光を放っているのだ。
光の粒子が、水しぶきとなって舞い上がり、周囲を幻想的な光で満たしている。
「『虹の飛泉(アイリスフォール)』……。聖樹の都、エルドラナへの、唯一の入り口だ」
エリアスが、厳かに告げる。
この光の滝の向こうに、ルミナの故郷が、そして俺たちの旅の目的地がある。
俺は、ゴクリと唾を飲み込み、目の前の壮大で美しい光景を、ただ見つめていた。
そこは、まさに精霊の庭と呼ぶにふさわしい場所だった。木々の間を流れる小川の水は、それ自体が淡い光を放っているかのようで、川底の小石の一つ一つまでくっきりと見えた。時折、羽の生えた小さな光の粒のような生き物――森の精霊ピクシーが、俺たちの周りを興味深そうに飛び回っては、姿を消していく。
「すごいな……。おとぎ話の世界みたいだ」
「ここは、世界の創世から姿を変えていない、原初の森の一部だからな。時間の流れすら、外の世界とは違う」
エリアスは、懐かしむような目で周囲を見渡しながら言った。
旅は、信じられないほど順調に進んだ。凶暴な魔物の気配は一切なく、むしろ森の動物たちが、俺たちを歓迎するかのように姿を見せることすらあった。銀色の毛並みを持つ美しい狐が、道案内をするかのように、しばらく俺たちの前を走ったりもした。
穏やかな旅路の中、俺はエリアスの言葉を何度も思い出していた。
『力の源は、君の心だ』
嘆きの沼で、俺は確かに、呪いの核の悲しみを感じ取った。そして、それを癒したいと、心から願った。だからこそ、あの奇跡は起きたのかもしれない。
もし、俺があの時、核の憎悪に飲み込まれていたら? もし、俺がこの力を、自分の欲望のために使おうとしたら?
ぞっとするような想像が、頭をよぎる。この力は、俺が思っている以上に、繊細で危険なものなのだ。俺は、この力と、そして自分自身の心と、真剣に向き合わなければならない。
隣を歩くルミナも、物思いに沈んでいるようだった。エルドラナが近づくにつれて、彼女の表情には、安堵と共に、ある種の覚悟のようなものが浮かんでいた。
彼女は、自分の故郷で、何と向き合うことになるのだろうか。逃げ出した場所へ戻るというのは、きっと簡単なことではないはずだ。
「……なあ、ルミナ」
俺は、彼女に声をかけた。
「エルドラナに着いたら、どうするんだ? 君の一族の人たちとか、いるのか?」
俺の問いに、ルミナは少しだけ視線を伏せた。
「……分からないわ。私が逃げ出した時、両親は私を逃がすために教団と戦っていた。他の同族たちがどうなったのかも、分からない。もしかしたら、もう誰もいないのかもしれない」
その声は、震えていた。
「でも、行かなければならないの。確かめないと。そして、もし誰もいなくても……私が、一族の聖なる力を受け継いでいかなければならない。それが、私の使命だから」
彼女の瞳には、悲しみと、それを乗り越えようとする強い意志が宿っていた。
俺は、彼女に何と声をかければいいのか分からなかった。ただ、そっと彼女の隣に寄り添って歩くことしかできない。
やがて、三日ほど歩き続けた頃、エリアスが足を止めた。
「……着いたぞ」
目の前に、信じられない光景が広がっていた。
巨大な崖がそそり立ち、その中央から、膨大な量の水が滝となって流れ落ちている。だが、それはただの水ではなかった。滝の水そのものが、虹色の光を放っているのだ。
光の粒子が、水しぶきとなって舞い上がり、周囲を幻想的な光で満たしている。
「『虹の飛泉(アイリスフォール)』……。聖樹の都、エルドラナへの、唯一の入り口だ」
エリアスが、厳かに告げる。
この光の滝の向こうに、ルミナの故郷が、そして俺たちの旅の目的地がある。
俺は、ゴクリと唾を飲み込み、目の前の壮大で美しい光景を、ただ見つめていた。
10
あなたにおすすめの小説
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~
御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。
異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。
前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。
神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。
朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。
そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。
究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
転生したら無自覚に世界最強になっていた件。周りは僕を崇めるけど、僕自身は今日も日雇い仕事を探しています。
黒崎隼人
ファンタジー
トラックに轢かれ異世界に転生した元サラリーマンの星野悠。
彼に与えられたのは「異常な魔力」と「無自覚に魔術を使う能力」。
しかし自己評価が低すぎる悠は、自分のチート能力に全く気づかない。
「困っている人を助けたい」――その純粋な善意だけで、魔物を一撃で消滅させ、枯れた大地を蘇らせ、難病を癒してしまう。
周囲が驚愕し、彼を英雄と崇めても、本人は「たまたまです」「運が良かっただけ」と首を傾げるばかり。
これは、お人好しな青年が、無自覚なまま世界を救ってしまう、心温まる勘違いと奇跡の物語。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる