「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人

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第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」

第33話「大司教ザルヴァーク」

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 ザルヴァークから放たれる魔力の奔流は、肌を刺すように痛かった。
 それはただ強大なだけではない。
 触れただけで精神を汚染されそうな、濃密な邪気が渦巻いていた。

「カイ! 離れて!」

 城壁の上からルミナの悲鳴のような声が聞こえる。
 だが俺は動けなかった。
 蛇に睨まれた蛙のように、ザルヴァークの圧倒的な存在感に身体が金縛りにあったように動かない。

「さて、どこまで耐えられるかな?」

 ザルヴァークは巨大なカマをこともなげに一振りした。
 特別な動きではない。
 ただ横に薙いだだけ。
 しかしその一振りから、漆黒の斬撃が放たれた。
 それは空間そのものを切り裂くかのような、鋭い衝撃波だった。

「ぐっ……!」

 俺はとっさに剣で防御するが衝撃を殺しきれず、数メートル後方まで吹き飛ばされた。
 両腕が痺れ、剣を取り落としそうになる。

 なんて威力だ……!
 ただの一振りで、これほどの……!
 俺が体勢を立て直す間もなく、ザルヴァークは次の攻撃を仕掛けてきた。
 今度は無数の黒い魔法弾を、雨のように降らせてくる。

「聖光の盾(ホーリーシールド)!」

 城壁の上からルミナが防御魔法を放ってくれる。
 光の盾が俺の頭上で黒い魔法弾を受け止めるが、その一枚一枚が邪神の鉄槌の一撃に匹敵するほどの威力を持っているようだった。
 光の盾は数秒ももたずに砕け散る。
 俺は地面を転がり、必死で魔法弾を回避する。

 その間にも戦場の他の場所では、激しい戦いが繰り広げられていた。
 エリアスはシンと互角の剣戟を繰り広げている。
 さすがはエルフの長、その技量はシンに勝るとも劣らない。
 しかしそのエリアスを援護しようとするエルフの戦士たちを、レンが的確に妨害していた。
 完璧な連携。
 エリアスがシンを打ち破るのは容易ではないだろう。

 俺が作り出した茨の鞭も、顔に傷のある男――彼の名は後で知ったが、教団の幹部の一人である『剛腕のゲルド』――がその名の通り規格外の腕力で、巨大な根を力任に引きちぎり破壊していた。
 戦況は再び膠着状態に陥っていた。
 そしてその均衡を崩す鍵は、間違いなく俺とザルヴァークの戦いの結果にかかっている。

 俺がこいつを倒さなければ、みんながやられる……!
 俺は痺れる腕に力を込め、剣を握り直す。
 そして再び《概念編集》を発動させる。

 俺の剣を、『邪を滅する聖なる光の剣』に!
 ミスリルもどきの剣が、まばゆい黄金の光を放ち始める。
 ルミナの聖なる力とはまた違う、俺自身の意志の光。
 世界樹との対話で得た、新たな力の発現だった。

「ほう、面白い」

 ザルヴァークは俺の剣の変化を見ても、全く動じない。

「その光、確かに邪を滅する力を持っているようだ。だがその器である貴様自身が、我の闇に耐えられるかな?」

 俺は光の剣を構え、ザルヴァークに向かって突進した。

「うおおおおおっ!」

 渾身の一撃を、ザルヴァークの胴体目掛けて叩き込む。
 しかしザルヴァークはそれを、持っていたカマの柄でいとも簡単に受け止めた。
 硬い金属音が響き、俺の全力の斬撃はぴたりと止められた。

「……なっ!?」

「光が強ければ影もまた濃くなる。その程度の理も分からぬか」

 ザルヴァークの仮面の奥の目が、嘲るように細められる。
 そして彼の身体からさらに濃密な闇があふれ出し、俺の光の剣を包み込んでいく。
 黄金の輝きが黒い闇に侵食され、みるみるうちに光を失っていく。

「俺の、力が……!」

 《概念編集》の効果が強制的に解除されていく。
 これが格の違いか。

「終わりだ、小僧」

 ザルヴァークのカマが、無防備になった俺の胸元目掛けて振り下ろされた。
 もう避けられない。
 死を覚悟した。
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