「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人

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第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」

第39話「追いかける光」

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「ルミナ……なんで……」

「分かるわよ。あなたが何を考えているかくらい」

 ルミナはゆっくりと俺に近づいてきた。
 その表情は怒っているようでもあり、泣き出しそうでもあった。

「どうして何も言わずにいなくなろうとするの? 私に相談の一つもなしに」

「……言えるわけないだろ」

 俺は彼女から視線をそらし、うつむいた。

「言ったら君は絶対に止める。君を困らせたくなかったんだ」

「困る?」

 彼女の声のトーンが少しだけ鋭くなる。

「私が一番困るのはあなたが黙っていなくなることよ! 私が一番悲しいのは、あなたが私を頼ってくれないことよ!」

 その声は悲痛な叫びだった。

「俺がいると君を不幸にする。聖女としての君の道を、俺が邪魔してしまうんだ。ソフィアラさんの言う通り、俺は……」

「あなたのいない未来なんて、私にとっては不幸そのものよ!」

 ルミナは俺の言葉を遮るように叫んだ。
 その瞳からは大粒の涙が、いくつもいくつもこぼれ落ちていた。

「聖女としての使命……? そんなもの、あなたがいなければ何の意味もない! 私が戦ってこられたのはあなたがいたから。私が前を向けたのは、あなたが隣にいてくれたから。私にとっての希望は一族の未来なんかじゃない。あなたよ、カイ!」

 彼女は俺の胸にその顔をうずめて泣きじゃくった。
 小さな肩が激しく震えている。
 俺はそんな彼女を、ただ抱きしめることしかできなかった。

 なんて馬鹿だったんだろう。
 俺は彼女のためだと思い込んで、一番彼女を傷つけることをしようとしていた。
 彼女の心を、何も分かっていなかった。

「……ごめん」

 俺の口から出たのはその一言だけだった。

「ごめん、ルミナ。俺、間違ってた」

「……ううん」

 ルミナは俺の胸に顔をうずめたまま、首を横に振った。

「謝らないで。ただ……もうどこにも行かないで。一人で全部背負おうとしないで。私の前からいなくならないで……」

「……ああ。約束する」

 俺は彼女の髪を優しく撫でながら、強く強く誓った。

「もう絶対に、お前のそばを離れない」

 どれくらいの時間そうしていただろうか。
 やがてルミナは顔を上げ、涙で濡れた瞳で俺をじっと見つめた。
 そして彼女はそっと背伸びをすると、俺の唇に自分の唇を優しく重ねた。
 それは月の光のように淡く清らかで、そしてどこまでも温かい誓いの口づけだった。

 ***

 その様子を神殿の柱の陰から、二つの影が見つめていた。

「……やれやれ。若いというのは羨ましいものだね」

 ソフィアラはそう言って呆れたように、しかしどこか優しい笑みを浮かべていた。
 その隣でエリアスもまた、静かにうなずいていた。

「ですがよろしいのですか、長老殿」

「……あれほどまでに固い絆で結ばれた二人を、引き裂くことなど誰にもできはしないさ。わたくしたち年寄りができることと言えば……」

 ソフィアラは月の光の下で寄り添う俺とルミナの姿を、愛おしげに見つめた。

「あの二人の未来を、信じてやることくらいだよ」

 彼女の覚悟もまた、決まったようだった。
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