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第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」
第46話「封印の楔」
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正気を取り戻したクリスタル・ドレイクは、俺たちに道を開けるように静かに空洞の隅へと移動した。
その瞳には先ほどまでの凶暴性はなく、理知的な光が宿っている。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
俺が声をかけると彼は小さくうなずいたように見えた。
俺とルミナは元凶である黒水晶へと、向き直る。
禍々しい瘴気を放ち続けるそれからは、嘆きの沼の核と同じように負の感情が渦巻いているのが感じられた。
「カイ、これを浄化するのね?」
「ああ。だけどただ浄化するだけじゃ、ダメかもしれない」
俺はソフィアラから預かった古文書の記述を思い出していた。
『邪神の力は、世界の理に打ち込まれた『楔』によって各地に封印されている。楔は聖なる力を持つが、同時に邪神の怨念をも封じ込めている……』
この黒水晶は嘆きの沼のものとは少し違う。
あれはどこかから飛来した魔力の核だった。
だがこれはまるでこの大地に、最初から突き刺さっていたかのような強固な存在感がある。
「ルミナ。これはたぶん、『封印の楔』の一つだ」
「封印の楔……!?」
ルミナが息をのむ。
「影の教団の残党がこれを狙って、ここに何か仕掛けをしたのかもしれない。そのせいで楔の封印が弱まって、瘴気が漏れ出してしまったんだ」
俺の推測に、ルミナもうなずいた。
「だとしたらただ浄化するだけでは、封印そのものを破壊してしまう危険があるわ。慎重にやらないと」
「ああ。俺の力でこの楔を『正常な状態』に戻す。楔にかけられた邪悪な干渉だけを取り除いて、封印を再構築するんだ」
それはこれまでの《概念編集》の中でも、最も繊細なコントロールを要求される作業になるだろう。
俺は黒水晶の前に立ち深く息を吸った。
そしてその冷たい表面に、両手でそっと触れる。
凄まじい量の負のエネルギーが、俺の精神に流れ込んできた。
だが世界樹との対話を経た今の俺の心は、それに揺らぐことはない。
この『汚染され、封印の弱まった楔』を……『邪な干渉を退け、古の力を正しく封じる聖なる楔』に!
俺は楔そのものを変えるのではなく、楔が持つ「役割」を本来あるべき姿へと修正するイメージを強く描いた。
俺の手のひらから黄金の光がほとばしり、黒水晶へと流れ込んでいく。
水晶の表面に刻まれた見えない呪印のようなものが、光を浴びて修復されていくのが俺には分かった。
不気味な紫色の光は徐々にその色を失い、やがて澄み切った水晶のような清らかな輝きへと変わっていった。
空洞を満たしていた瘴気は完全に消え去り、代わりに神聖さすら感じさせる清浄な空気が満ちていく。
「……成功、か」
俺は額の汗を拭い、安堵のため息をついた。
「すごいわ、カイ。完璧な制御だった」
ルミナが駆け寄ってくる。
その時だった。
「――実に見事な手際だ。おかげで手間が省けた」
冷たく感情の読めない声が、空洞に響き渡った。
俺たちがはっとして振り返ると、そこにはいつの間にか二つの人影が立っていた。
銀色の短髪の男と、黒い長髪の女。
「お前たちは……シン! レン!」
エルドラナで俺たちを追い詰めた影の双刃。
なぜこいつらがここに!?
「久しぶりだな、イレギュラー。そして聖女」
シンはまるで散歩でもしているかのような、余裕の態度で言った。
「その楔は我らがいただく。お前たちが不安定な封印を解き、扱いやすい状態に『再構築』してくれたおかげで、ずいぶんと楽に手に入れられそうだ」
「何!?」
こいつら、俺が封印を再構築するのを待っていたというのか?
「封印が弱まった状態では楔に宿る力が不安定で、回収が難しい。だがお前があれを『正常な状態』に戻した。つまり我々にとっては最も扱いやすい状態にしてくれた、というわけだ」
レンが淡々と説明する。
俺は利用されたのだ。
こいつらの、手のひらで踊らされていた。
「ふざけるな!」
俺は剣を構え、シンに斬りかかった。
だがシンはそれを指二本で、いともたやすく挟み止めた。
「なっ……!?」
エルドラナの時とは比べ物にならない。
こいつら、さらに強くなっている。
「お前たちとの遊びはまた今度だ。我らの目的はこれだからな」
シンはそう言うと俺を軽くいなし、レンと共に浄化された封印の楔へと向かう。
「待て!」
俺が追いかけようとするのを、クリスタル・ドレイクがその巨体で制した。
行くな、と。
彼らは危険すぎると、その目が訴えていた。
シンは楔に手を触れると何かの呪文を唱え始めた。
すると楔はゆっくりと大地から引き抜かれ、彼の手に収まるほどの大きさに縮小していった。
「さて、と。一つ目はいただいた」
シンは手に入れた楔を満足そうに眺めると、俺たちに一瞥をくれた。
「残りの楔はあと六つ。せいぜい我らより先に見つけ出すことだ。もっともお前たちに見つけられるような場所に、置いてあるかは分からんがな」
そう言い残すとシンとレンの姿は、まるで影に溶けるようにその場からかき消えた。
後には楔が引き抜かれぽっかりと穴の開いた大地と、呆然と立ち尽くす俺たちだけが残された。
その瞳には先ほどまでの凶暴性はなく、理知的な光が宿っている。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
俺が声をかけると彼は小さくうなずいたように見えた。
俺とルミナは元凶である黒水晶へと、向き直る。
禍々しい瘴気を放ち続けるそれからは、嘆きの沼の核と同じように負の感情が渦巻いているのが感じられた。
「カイ、これを浄化するのね?」
「ああ。だけどただ浄化するだけじゃ、ダメかもしれない」
俺はソフィアラから預かった古文書の記述を思い出していた。
『邪神の力は、世界の理に打ち込まれた『楔』によって各地に封印されている。楔は聖なる力を持つが、同時に邪神の怨念をも封じ込めている……』
この黒水晶は嘆きの沼のものとは少し違う。
あれはどこかから飛来した魔力の核だった。
だがこれはまるでこの大地に、最初から突き刺さっていたかのような強固な存在感がある。
「ルミナ。これはたぶん、『封印の楔』の一つだ」
「封印の楔……!?」
ルミナが息をのむ。
「影の教団の残党がこれを狙って、ここに何か仕掛けをしたのかもしれない。そのせいで楔の封印が弱まって、瘴気が漏れ出してしまったんだ」
俺の推測に、ルミナもうなずいた。
「だとしたらただ浄化するだけでは、封印そのものを破壊してしまう危険があるわ。慎重にやらないと」
「ああ。俺の力でこの楔を『正常な状態』に戻す。楔にかけられた邪悪な干渉だけを取り除いて、封印を再構築するんだ」
それはこれまでの《概念編集》の中でも、最も繊細なコントロールを要求される作業になるだろう。
俺は黒水晶の前に立ち深く息を吸った。
そしてその冷たい表面に、両手でそっと触れる。
凄まじい量の負のエネルギーが、俺の精神に流れ込んできた。
だが世界樹との対話を経た今の俺の心は、それに揺らぐことはない。
この『汚染され、封印の弱まった楔』を……『邪な干渉を退け、古の力を正しく封じる聖なる楔』に!
俺は楔そのものを変えるのではなく、楔が持つ「役割」を本来あるべき姿へと修正するイメージを強く描いた。
俺の手のひらから黄金の光がほとばしり、黒水晶へと流れ込んでいく。
水晶の表面に刻まれた見えない呪印のようなものが、光を浴びて修復されていくのが俺には分かった。
不気味な紫色の光は徐々にその色を失い、やがて澄み切った水晶のような清らかな輝きへと変わっていった。
空洞を満たしていた瘴気は完全に消え去り、代わりに神聖さすら感じさせる清浄な空気が満ちていく。
「……成功、か」
俺は額の汗を拭い、安堵のため息をついた。
「すごいわ、カイ。完璧な制御だった」
ルミナが駆け寄ってくる。
その時だった。
「――実に見事な手際だ。おかげで手間が省けた」
冷たく感情の読めない声が、空洞に響き渡った。
俺たちがはっとして振り返ると、そこにはいつの間にか二つの人影が立っていた。
銀色の短髪の男と、黒い長髪の女。
「お前たちは……シン! レン!」
エルドラナで俺たちを追い詰めた影の双刃。
なぜこいつらがここに!?
「久しぶりだな、イレギュラー。そして聖女」
シンはまるで散歩でもしているかのような、余裕の態度で言った。
「その楔は我らがいただく。お前たちが不安定な封印を解き、扱いやすい状態に『再構築』してくれたおかげで、ずいぶんと楽に手に入れられそうだ」
「何!?」
こいつら、俺が封印を再構築するのを待っていたというのか?
「封印が弱まった状態では楔に宿る力が不安定で、回収が難しい。だがお前があれを『正常な状態』に戻した。つまり我々にとっては最も扱いやすい状態にしてくれた、というわけだ」
レンが淡々と説明する。
俺は利用されたのだ。
こいつらの、手のひらで踊らされていた。
「ふざけるな!」
俺は剣を構え、シンに斬りかかった。
だがシンはそれを指二本で、いともたやすく挟み止めた。
「なっ……!?」
エルドラナの時とは比べ物にならない。
こいつら、さらに強くなっている。
「お前たちとの遊びはまた今度だ。我らの目的はこれだからな」
シンはそう言うと俺を軽くいなし、レンと共に浄化された封印の楔へと向かう。
「待て!」
俺が追いかけようとするのを、クリスタル・ドレイクがその巨体で制した。
行くな、と。
彼らは危険すぎると、その目が訴えていた。
シンは楔に手を触れると何かの呪文を唱え始めた。
すると楔はゆっくりと大地から引き抜かれ、彼の手に収まるほどの大きさに縮小していった。
「さて、と。一つ目はいただいた」
シンは手に入れた楔を満足そうに眺めると、俺たちに一瞥をくれた。
「残りの楔はあと六つ。せいぜい我らより先に見つけ出すことだ。もっともお前たちに見つけられるような場所に、置いてあるかは分からんがな」
そう言い残すとシンとレンの姿は、まるで影に溶けるようにその場からかき消えた。
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