「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人

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第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」

第49話「風切り渓谷へ」

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 クロスロードの町で二日間の準備期間を終え、俺とルミナは新たな目的地である風切り渓谷へと旅立った。
 町で雇った乗り合い馬車に揺られ、俺たちは北東へと続く街道を進む。

 街道を外れると道は次第に険しくなり、緑豊かな平原はゴツゴツとした岩肌が目立つ山岳地帯へと姿を変えていった。
 馬車の窓から吹き込む風も、日ごとに冷たさを増していく。

「すごい……。本当に風が強いのね」

 馬車を降り風切り渓谷の入り口に立ったルミナが、風で煽られる髪を押さえながら言った。
 目の前には巨大な亀裂が大地を永遠に引き裂いているかのような、壮大な渓谷が広がっていた。
 谷底は見えず、ただごうごうと音を立てて吹き抜ける風の音だけが絶えず響き渡っている。

「ここから先は馬車は入れない。自分たちの足で進むしかないな」

 俺たちは御者に礼を言って別れると、渓谷の縁に沿って続くかろうじて道と呼べるような狭い岩棚を慎重に歩き始めた。
 一歩足を踏み外せば奈落の底だ。
 俺たちはロープで互いの身体を結び、安全を確保しながら進む。

「カイ、上!」

 ルミナの鋭い声に俺ははっと空を見上げた。
 数羽の翼を持つ巨大なトカゲのような魔物が、上空を旋回している。
 ワイバーンだ。
 どうやら俺たちを獲物と見定めたらしい。

「キシャアアアッ!」

 甲高い叫び声と共に一羽が急降下してくる。
 その鋭い爪が俺たちの頭上めがけて迫ってきた。

「させるか!」

 俺は腰の剣を抜き放つ。
 エルドラナでエリアスに鍛え直してもらったこの剣は、軽く振るだけで風を切り裂くような鋭い音を立てた。

 この剣に、『風の力を宿し斬撃を飛ばす力』を!
 俺が《概念編集》で剣に新たな能力を付与すると、刀身が淡い緑色の光を帯びた。

「はあっ!」

 俺が剣を振るうと三日月状の真空の刃が、ワイバーン目掛けて飛んでいく。

「ギャン!?」

 真空の刃はワイバーンの翼を正確に切り裂いた。
 翼を傷つけられたワイバーンはバランスを崩し、悲鳴を上げながら谷底へと落ちていく。

「すごいわ、カイ! そんなこともできるようになったのね!」

「ああ! 世界樹との対話で、力の応用範囲が広がったんだ!」

 だが敵はまだいる。
 残りのワイバーンたちが仲間をやられたことに怒り狂い、一斉に襲いかかってきた。

「ルミナ、援護を!」

「任せて! 聖なる光よ、邪を射抜け! ホーリィアロー!」

 ルミナが放った光の矢が、一羽のワイバーンの眉間を正確に貫く。
 俺も次々と真空の刃を放ち応戦する。
 狭い足場での戦いは不利だが、今の俺たちなら問題ない。
 エルドラナでの死闘、ラスク鉱山での連携。
 それらの経験が俺たちを確実に成長させていた。
 俺が敵の動きを止めルミナがとどめを刺す。
 あるいはその逆も。
 阿吽の呼吸で俺たちはワイバーンの群れを退けていく。

 全てのワイバーンを撃退した頃には、俺たちの息は少し上がっていた。

「ふう……。なかなか手ごわい歓迎だったな」

「ええ。でも今の私たちなら大丈夫ね」

 俺たちは互いの顔を見合わせ、にやりと笑った。
 そして再び歩き始めた俺たちの目に、信じられない光景が飛び込んできた。
 渓谷の遥か彼方、分厚い雲の切れ間に巨大な建造物の影が見えたのだ。
 それはまるで空に浮かんでいるかのように、現実離れした威容を誇っていた。

「あれだ……!」

「天空神殿……!」

 間違いなく俺たちが目指す場所。
 だがどうやってあそこまで行くというのか。
 道はここで途切れている。
 俺たちが途方に暮れかけた、その時。
 谷底から何かがゆっくりと姿を現した。
 それは雲のように白い鱗を持つ巨大な竜だった。
 その背中には神々しいまでのオーラが揺らめいている。

 風の古竜。
 この渓谷の、主だった。
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