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第二章「最強になった俺と聖女様、世界の真の黒幕を倒しに行きます。」
第65話「盤上の駒、盤外の神」
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部屋に戻ると俺のただならぬ様子にルミナが心配そうに声をかけてきた。
「カイ? どうかしたの、顔色が……」
「……ルミナ、聞いてくれ。とんでもないことになった」
俺は先ほど中庭で盗み聞きしたオルダスとゲルドの会話を、一言一句正確に彼女に伝えた。
話が進むにつれてルミナの顔からもみるみる血の気が引いていく。
「そんな……宰相が影の教団と繋がっていたなんて……」
「ああ。それだけじゃない。奴は教団さえも利用して何か別のとんでもないことを企んでる。俺たちはまんまとその計画の駒にされちまったんだ」
絶望的な状況。
王城の中は完全に敵の庭だ。
迂闊に動けばすぐに捕らえられ口を封じられてしまうだろう。
「……どうすればいいの……? このままじゃ、私たち……」
不安に震えるルミナを見て俺はぐっと拳を握りしめた。
そうだ、俺がしっかりしなければ。
「……大丈夫だ、ルミナ」
俺はできるだけ冷静な声で言った。
「奴は俺たちを駒だと思っている。俺たちが楔を手に入れるのを待っている。ならその駒としての役割を逆手に取ってやるんだ」
「逆手に取る?」
「ああ。奴の筋書き通りに動くフリをして、その裏で俺たちは俺たちの手札を揃える。そして奴が『チェックメイト』だと思ったその瞬間に盤ごとひっくり返してやるのさ」
俺の瞳に宿る闘志の光を見て、ルミナの表情にも少しずつ覚悟の色が戻ってきた。
「……ええ。そうね。私たちは誰かの駒なんかじゃない。カイ、あなたがそう言うなら私はあなたを信じるわ」
俺たちは頷き合った。
方針は決まった。
問題はどうやって手札を揃えるかだ。
この王城の中で俺たちに協力してくれる信頼できる人間は……。
『……一人だけ、いるかもしれない』
俺の脳裏にあの実直な騎士の顔が浮かんだ。
ギルバート・フォン・アルベイン。
オルダスと同じアルベイン家の人間。
だが彼のあの真っ直ぐな瞳はオルダスのような濁った野望の色はしていなかった。
彼はただ純粋に国と王に忠誠を誓っている。
そんな気がした。
賭けるしかない。
***
翌日の早朝、俺は一人で騎士団の練兵場へと向かった。
そこではギルバート隊長が夜明け前から一人で剣の素振りをしているのが常だった。
「……カイ殿か。早いな。訓練か?」
俺の姿に気づいたギルバートが汗を拭いながら声をかけてくる。
「ギルバート隊長。少しお話があります。二人きりで」
俺のただならぬ雰囲気を察したのか、ギルバートは真剣な表情でうなずいた。
俺たちは練兵場の隅へと移動する。
俺は単刀直入に切り出した。
「オルダス宰相は裏切り者です」
その言葉にギルバートの顔色が変わった。
「……何を言っている。宰相は我が叔父上だぞ。不敬なことを言うものではない」
声は厳しいが、その瞳は激しく揺れていた。
「昨夜、俺は見てしまいました。宰相が影の教団の幹部ゲルドと密会しているのを」
俺は昨夜の会話の内容を全て話した。
アルベイン家の野望、血の儀式……。
俺の話を聞き終えたギルバートは愕然とした表情でその場に立ち尽くしていた。
「……そん、な……叔父上が……。我がアルベイン家が……」
彼は信じられないというように何度も首を振る。
「嘘だと思われても構いません。ですがこれは事実です。隊長、あなたも薄々気づいていたんじゃないですか? 宰相の最近のやり方に何かおかしいと」
俺の言葉にギルバートははっとしたように顔を上げた。
「……確かに。最近の叔父上は少し変わられた。国王陛下のご意向を捻じ曲げるような進言をしたり、私に騎士団の機密情報を不自然なほど尋ねてきたり……」
彼はこれまで感じていた違和感の点と点が一本の線で繋がっていくのを感じていた。
「俺は隊長を信じたい。あなたの忠誠はアルベイン家ではなく、国王陛下とこの国にこそあるはずだ。違いますか?」
俺の問いにギルバートは長い間沈黙した。
その顔には一族への想いと騎士としての忠誠との間で激しく葛藤する色が浮かんでいた。
やがて彼は意を決したように顔を上げた。
その瞳にはもう迷いはなかった。
「……分かった。カイ殿、君を信じよう」
彼は俺の前で騎士の礼を取り、深く頭を下げた。
「我が名はギルバート・フォン・アルベイン。アルストリア王国、王宮騎士団第一部隊隊長。この剣、この命、全てを懸けて国王陛下とこの国を裏切り者から守ることをここに誓う」
俺は安堵の息をついた。
俺たちの最初の、そして最強の協力者を手に入れた瞬間だった。
オルダスは俺たちを盤上の駒だと思っているだろう。
だが彼は知らない。
盤の外には駒の動きを全て見通し、盤そのもののルールさえも書き換えることができる『プレイヤー』がいることを。
俺たちの反撃のチェスが今、静かに始まった。
「カイ? どうかしたの、顔色が……」
「……ルミナ、聞いてくれ。とんでもないことになった」
俺は先ほど中庭で盗み聞きしたオルダスとゲルドの会話を、一言一句正確に彼女に伝えた。
話が進むにつれてルミナの顔からもみるみる血の気が引いていく。
「そんな……宰相が影の教団と繋がっていたなんて……」
「ああ。それだけじゃない。奴は教団さえも利用して何か別のとんでもないことを企んでる。俺たちはまんまとその計画の駒にされちまったんだ」
絶望的な状況。
王城の中は完全に敵の庭だ。
迂闊に動けばすぐに捕らえられ口を封じられてしまうだろう。
「……どうすればいいの……? このままじゃ、私たち……」
不安に震えるルミナを見て俺はぐっと拳を握りしめた。
そうだ、俺がしっかりしなければ。
「……大丈夫だ、ルミナ」
俺はできるだけ冷静な声で言った。
「奴は俺たちを駒だと思っている。俺たちが楔を手に入れるのを待っている。ならその駒としての役割を逆手に取ってやるんだ」
「逆手に取る?」
「ああ。奴の筋書き通りに動くフリをして、その裏で俺たちは俺たちの手札を揃える。そして奴が『チェックメイト』だと思ったその瞬間に盤ごとひっくり返してやるのさ」
俺の瞳に宿る闘志の光を見て、ルミナの表情にも少しずつ覚悟の色が戻ってきた。
「……ええ。そうね。私たちは誰かの駒なんかじゃない。カイ、あなたがそう言うなら私はあなたを信じるわ」
俺たちは頷き合った。
方針は決まった。
問題はどうやって手札を揃えるかだ。
この王城の中で俺たちに協力してくれる信頼できる人間は……。
『……一人だけ、いるかもしれない』
俺の脳裏にあの実直な騎士の顔が浮かんだ。
ギルバート・フォン・アルベイン。
オルダスと同じアルベイン家の人間。
だが彼のあの真っ直ぐな瞳はオルダスのような濁った野望の色はしていなかった。
彼はただ純粋に国と王に忠誠を誓っている。
そんな気がした。
賭けるしかない。
***
翌日の早朝、俺は一人で騎士団の練兵場へと向かった。
そこではギルバート隊長が夜明け前から一人で剣の素振りをしているのが常だった。
「……カイ殿か。早いな。訓練か?」
俺の姿に気づいたギルバートが汗を拭いながら声をかけてくる。
「ギルバート隊長。少しお話があります。二人きりで」
俺のただならぬ雰囲気を察したのか、ギルバートは真剣な表情でうなずいた。
俺たちは練兵場の隅へと移動する。
俺は単刀直入に切り出した。
「オルダス宰相は裏切り者です」
その言葉にギルバートの顔色が変わった。
「……何を言っている。宰相は我が叔父上だぞ。不敬なことを言うものではない」
声は厳しいが、その瞳は激しく揺れていた。
「昨夜、俺は見てしまいました。宰相が影の教団の幹部ゲルドと密会しているのを」
俺は昨夜の会話の内容を全て話した。
アルベイン家の野望、血の儀式……。
俺の話を聞き終えたギルバートは愕然とした表情でその場に立ち尽くしていた。
「……そん、な……叔父上が……。我がアルベイン家が……」
彼は信じられないというように何度も首を振る。
「嘘だと思われても構いません。ですがこれは事実です。隊長、あなたも薄々気づいていたんじゃないですか? 宰相の最近のやり方に何かおかしいと」
俺の言葉にギルバートははっとしたように顔を上げた。
「……確かに。最近の叔父上は少し変わられた。国王陛下のご意向を捻じ曲げるような進言をしたり、私に騎士団の機密情報を不自然なほど尋ねてきたり……」
彼はこれまで感じていた違和感の点と点が一本の線で繋がっていくのを感じていた。
「俺は隊長を信じたい。あなたの忠誠はアルベイン家ではなく、国王陛下とこの国にこそあるはずだ。違いますか?」
俺の問いにギルバートは長い間沈黙した。
その顔には一族への想いと騎士としての忠誠との間で激しく葛藤する色が浮かんでいた。
やがて彼は意を決したように顔を上げた。
その瞳にはもう迷いはなかった。
「……分かった。カイ殿、君を信じよう」
彼は俺の前で騎士の礼を取り、深く頭を下げた。
「我が名はギルバート・フォン・アルベイン。アルストリア王国、王宮騎士団第一部隊隊長。この剣、この命、全てを懸けて国王陛下とこの国を裏切り者から守ることをここに誓う」
俺は安堵の息をついた。
俺たちの最初の、そして最強の協力者を手に入れた瞬間だった。
オルダスは俺たちを盤上の駒だと思っているだろう。
だが彼は知らない。
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俺たちの反撃のチェスが今、静かに始まった。
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