「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人

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第二章「最強になった俺と聖女様、世界の真の黒幕を倒しに行きます。」

第64話「宰相の黒い野望」

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 王城での生活はこれまでの旅とは全く違うものだった。

 日中は王国の書庫にこもり、ルミナと共に古文書の山と格闘する。
 残る三つの楔に関する断片的な情報を一つ一つ繋ぎ合わせていく。
 夜は騎士団の訓練に参加し、ギルバート隊長直々に剣術の稽古をつけてもらった。

 王国からの全面的なバックアップは絶大だった。
 情報収集の速度はこれまでとは比較にならない。
 わずか数日で俺たちは第五の楔が眠る『竜の墓場』への最も安全で効率的なルートを割り出すことに成功した。

「すごいわ、カイ。あなたの剣筋、以前よりもさらに鋭くなったみたい」

 訓練の後、汗を拭う俺にルミナが感心したように言う。

「ああ。ギルバート隊長の教えは的確だからな。俺の自己流の剣術の無駄な動きを全て削ぎ落としてくれる」

「カイ殿の吸収力こそ驚異的ですよ。まるでスポンジが水を吸うように技を習得していく」

 隣でギルバート隊長が豪快に笑う。
 彼のような実直で信頼できる騎士が味方にいるのは心強かった。

 全てが順調に進んでいるように見えた。

 だが俺の心の中のあの黒い影の予感は消えていなかった。

 宰相、オルダス。

 彼はことあるごとに俺たちの前に現れた。
 王からの激励の言葉を伝えに来たり、調査の進捗を尋ねてきたり。
 その態度は常に丁寧で協力的だった。

 だが俺は彼の笑顔の裏に隠された冷たい計算を感じずにはいられなかった。

「……なあ、ルミナ。あの宰相、どう思う?」

 ある夜、部屋で俺はルミナにそう切り出した。

「オルダス宰相? とても物腰の柔らかい有能な方だと思うけれど……」

「……そうか。俺の考えすぎかな」

 ルミナにはオルダスの裏の顔は見えていないようだった。
 彼女のような清らかな心を持つ人間には彼の巧妙に隠された邪気は感じ取れないのかもしれない。

 その疑念が確信に変わったのは、出発を三日後に控えた夜のことだった。

 俺は夜中にふと喉の渇きを覚えて部屋を出て厨房へ向かおうとしていた。
 その途中、中庭に面した渡り廊下で月明かりに照らされた二つの人影を見つけた。

 一つは宰相オルダス。
 そしてもう一人のフードを目深にかぶった黒装束の男の姿に俺は息をのんだ。

『剛腕のゲルド』。
 影の教団の幹部の一人。

 なぜ奴が王城の中に!?

 俺は咄嗟に柱の陰に身を隠し、息を殺して二人の会話に耳を澄ませた。

「……計画は順調かね、ゲルド殿」

 オルダスの普段の穏やかな口調とは似ても似つかない、冷たく支配的な声が聞こえてきた。

「はっ。オルダス様のお力添えのおかげで我らの勢力もずいぶんと回復いたしました。各地に潜伏していた同胞たちも続々と我らの元へ集結しております」

「そうか。それは結構なことだ」

 オルダスは満足そうにうなずく。

「して、例の『鍵』の在り処は掴めたのかね?」

「はい。王家の宝物庫の最深部。厳重な封印が施されておりますが、オルダス様の手引きさえあれば……」

 鍵。
 砂漠で聞いたあの言葉だ。
 楔の本物の在り処を示すという。

「うむ。それはこちらで手筈を整えよう。お前たちは来るべき時に備え力を蓄えておけ。あの小僧どもが楔を手に入れたその時が好機となる」

「……はっ。しかしオルダス様。シンとレンの動きが気になりますが」

 ゲルドの言葉にオルダスはフンと鼻を鳴らした。

「あの二人もいずれは我らが手に落ちる。あの者たちが求める『真の主』の復活には我がアルベイン家に代々伝わる『血の儀式』が必要不可欠。そのことをあの者たちはまだ知らぬ」

 アルベイン……?
 どこかで聞いた名だ。
 そうだ、ギルバート隊長の……。

「全ては我が手の中よ。邪神も真の主も、そしてあのイレギュラーの小僧の力も……。全ては我がアルベイン家がこの大陸の真の覇者となるための礎となるのだ!」

 月明かりの下でオルダスの顔が狂気じみた野望に歪んでいた。

 俺は全身から血の気が引いていくのを感じた。

 最大の敵は外にいたのではない。
 この王城の心臓部に巣食っていたのだ。

 そして俺たちはその邪悪な蜘蛛が張り巡らせた巨大な巣のど真ん中に自ら飛び込んでしまっていたのだ。

 俺は音を立てないようにその場から後ずさると、急いで部屋へと戻った。

 このことをどうする?
 ギルバート隊長に話す?
 いや、彼はオルダスと同じアルベイン家の人間だ。
 信用できるのか?
 王に直接訴える?
 証拠もなしに宰相を告発などできるはずがない。

 俺たちは完全に孤立していた。

『……裏をかくか』

 砂漠で誓ったあの言葉を思い出す。

 今度こそ俺が奴らの脚本をめちゃくちゃに書き換えてやる。

 俺の心に冷たい、しかし燃えるような闘志の炎が灯った。
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