「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人

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第二章「最強になった俺と聖女様、世界の真の黒幕を倒しに行きます。」

第67話「星詠みの羅針盤」

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 宝物庫の前に現れたオルダスは一人ではなかった。
 その背後にはゲルドをはじめとする数人の黒装束の兵士が控えている。
 やはり手引きをしていたか。

 俺たちは壁に彫られた彫像の陰に身を潜め、息を殺して彼らの様子を窺う。

「……ここか。アルストリア王家が代々秘宝を隠してきた場所」

 オルダスは感慨深げに宝物庫の巨大な扉を見上げた。
 扉には複雑な魔法印が幾重にも刻まれ、強力な封印が施されているのが一目でわかる。

「ゲルド殿、周囲の警戒を怠るな。万が一にもネズミ一匹近づけるでないぞ」

「はっ」

 ゲルドたちが四方に散って警戒態勢に入る。

 オルダスは扉の前まで進むと懐から小さなナイフを取り出した。
 そして躊躇なく自らの手のひらを深く切り裂く。
 滴り落ちる血を彼は扉の中央にある紋章に塗り付け始めた。

「……我がアルベイン家の祖先は王家の分家。その血にはわずかながら王家の魔力が流れている。この程度の封印、開けられぬはずがない……!」

 彼が呪文を唱えると血を吸った紋章が鈍い赤色の光を放ち始めた。
 扉に刻まれた魔法印が一つ、また一つとその輝きを失っていく。

 ギギギギ……。

 長い年月閉ざされていた扉が、重々しい音を立ててゆっくりと開き始めた。

『今だ!』

 俺がギルバート隊長に目配せをする。

「何奴っ!」

 ゲルドが俺たちの気配に気づき叫んだ。
 だがもう遅い。

「オルダス宰相! いや、裏切り者オルダス! 貴様の野望もここまでだ!」

 ギルバート隊長が通路の奥から剣を構えて躍り出た。
 彼の手にはいつの間にか騎士団の精鋭たちが十数名付き従っている。

「ギルバート! なぜお前がここに……!」

 オルダスは甥の裏切りに驚愕の表情を浮かべた。

「叔父上! あなたの野望は全て我らが突き止めた!神妙にお縄につかれよ!」

「フン……! この裏切り者の小僧が!」

 オルダスは舌打ちするとゲルドたちに命じた。

「ゲルド! こいつらをここで始末しろ! わしはその間に『鍵』を手に入れる!」

「御意!」

 ゲルド率いる黒装束の兵士たちとギルバート率いる王宮騎士団が、宝物庫の前で激しい戦闘を開始した。
 剣と剣がぶつかり合う甲高い金属音が廊下に響き渡る。

 その混乱の隙にオルダスは開かれた宝物庫の中へと姿を消した。

「カイ殿、ルミナ殿! 宰相を!」

 ギルバートの叫び声に俺とルミナは頷き合う。

「ここは任せました!」

 俺たちは騎士たちの戦いをすり抜け、オルダスの後を追って宝物庫の中へと飛び込んだ。

 宝物庫の中は山のように積まれた金銀財宝と強力な魔力を放つ武具で満ちあふれていた。
 だがオルダスはそれらには目もくれず、部屋の最奥にある厳重にガラスケースで覆われた一つの台座へと一直線に向かっていた。

 その台座の上にそれはあった。

 黄金で作られた美しい羅針盤。
 その盤面には星々が描かれ、中央の針はゆっくりと、しかし確かにどこかの方角を指し示している。

『星詠みの羅針盤』。

「ハハハ! ついに手に入れたぞ!」

 オルダスはガラスケースを魔法で破壊すると、狂喜の声を上げて羅針盤を手に取った。

「これで全ての楔は我がものとなる! この大陸は我がアルベイン家のものだ!」

 その背中に俺は静かに剣の切っ先を向けた。

「……残念だったな、宰相。そのお宝は俺たちがいただく」

 俺の声にオルダスははっと振り返った。

「小僧! なぜお前が……! 『竜の墓場』へ行ったのではなかったのか!?」

「お前が書いた脚本通りに動いてやるほど俺はお人好しじゃないんでね」

「……ぐぬぬ……! 最初からこの時を狙っていたというのか!」

 オルダスは憎悪に満ちた目で俺を睨みつける。

「だが、まだだ! まだ終わらんぞ!」

 彼は懐から一つの黒い水晶を取り出した。
 それはラスク鉱山や砂漠の遺跡で見た楔に似ているが、どこか違う。
 もっと人工的で邪悪な魔力を放っていた。

「これはザルヴァークが残した邪神の力の結晶! これさえあればお前たちなど……!」

 オルダスは水晶を高く掲げ、その力を自らの身体に吸収し始めた。

「うおおおおおっ!」

 彼の身体がみるみるうちに膨れ上がっていく。
 皮膚は黒く変色し、角や鉤爪が生えてくる。
 もはや人間の姿ではない。
 禍々しい悪魔のような姿へと変貌を遂げていた。

「さあ、小僧! 聖女! 我が新たな力の最初の贄となれ!」

 羅針盤を巡る最後の戦いの火蓋が今、切られた。
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