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第10話「プロポーズ」
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執務室の窓から、柔らかな午後の光が差し込んでいる。私の手を優しく包み込む、アレクサンダー王子の手の温もりが、確かな安心感を与えてくれていた。
彼の言う通りだった。私はこのグレンドール村で、自分の力で立ち、村を豊かにし、人々の信頼を得ることができた。もう、離婚歴のある元王太子妃という過去に、卑屈になる必要はない。私が築き上げてきたこの現実こそが、今の私自身なのだ。
「アレクサンダー殿下……」
私が口を開こうとした、その時。彼は私の言葉を遮るように、そっと人差し指を私の唇に当てた。
「その呼び方は、もうやめにしないか?」
彼は悪戯っぽく微笑むと、私の手を握ったまま片膝をつき、私を見上げた。その真摯な青い瞳に、私は息をのんだ。
「リセラ・ヴァイスハルト。私は、君を心から愛している。私の妃として、ベルガリア王国に来てはくれないだろうか。私と共に、新しい未来を築いてほしい」
それは、あまりにも真っ直ぐで、心のこもったプロポーズだった。
王族が片膝をつくことの意味。それが、相手に対する最大級の敬意と、揺るぎない愛情の証であることを、私は知っていた。彼は、私を一人の人間として深く尊重し、その上で、生涯の伴侶にと望んでくれている。
涙が、頬を伝って流れ落ちた。それは、悲しみの涙ではない。喜びと、感謝と、そして愛しさに満ちた、温かい涙だった。
「……はい。喜んで」
私は、涙で濡れた笑顔で、精一杯にうなずいた。
「あなたの妃にしてください、アレクサンダー様」
初めて呼んだ彼の名前に、彼もまた、幸せそうに目を細めた。彼は立ち上がると、私の涙を指で優しく拭い、そっと唇を重ねた。それは、これまでの全ての苦労が報われるような、甘く優しいキスだった。
私たちの婚約の知らせは、すぐに両国に伝えられた。ベルガリア王国は、王子の決断を歓迎し、国中が祝福ムードに包まれた。民衆は、自らの手で奇跡の楽園を築き上げた賢女リセラを、未来の王妃として熱狂的に支持した。
一方、アルトリア王国は、複雑な空気に包まれた。特に、王宮は激震に見舞われた。
自分が捨てた元妻が、ライバル国の王子の妃となる。ルドルフにとって、それは耐え難い屈辱であり、自らの愚かさを永遠に突きつけられる宣告に等しかった。彼は執務室に閉じこもり、荒れる日が続いたという。
そして、この知らせに最も激しい衝撃を受けたのが、セリーナだった。
彼女の妨害工作は、アレクサンダーの手によって白日の下に晒され、彼女の「聖女」としての評判は完全に失墜していた。人々は彼女を「偽りの聖女」「悪しき女」と呼び、軽蔑の目を向けるようになった。ルドルフの寵愛も、急速に冷え切っていくのを感じていた。
そんな中で、リセラが隣国の王妃になるというニュース。それは、セリーナにとって完全な敗北を意味していた。
「どうして……どうしてあの女ばっかり! 主役は私のはずなのに!」
セリーナは自室で調度品を叩き壊し、ヒステリックに叫んだ。彼女の焦りは、ついに致命的な過ちを犯させることになる。彼女は、自らに残された最後の切り札である「聖女の力」を使い、ルドルフの心を完全に自分に縛り付けようとしたのだ。
しかし、その魔力は不完全で、邪な心を持った者が使えば、相手の精神を蝕む危険な代物だった。セリーナの術は暴走し、ルドルフは一時的に心神喪失の状態に陥ってしまった。
王子を害した。その罪は、何よりも重い。セリーナの本性はついに王家の知るところとなり、彼女は聖女の地位を剥奪され、塔に幽閉されることとなった。ルドルフとの結婚も、もちろん解消。彼女が手に入れたと思ったすべては、砂の城のように崩れ去った。
そんなアルトリア王国の混乱をよそに、グレンドール村では、私とアレクサンダーの結婚式の準備が着々と進められていた。ユリアやエルヴィン、そして村の皆が、自分のことのように喜び、準備に奔走してくれた。
「リセラ様が、本当の幸せを掴まれて、私、本当に嬉しいです!」
ユリアは涙ながらにそう言ってくれた。
「リセラ様は、我々グレンドールの、そしてベルガリア王国の宝です。アレクサンダー王子は、実に良いお方を見つけられた」
エルヴィンは、父親のような優しい目をして、私たちの未来を祝福してくれた。
私は、私が愛し、育てたこの土地の人々に囲まれながら、人生で最も幸福な時間を過ごしていた。悪役令嬢としての運命は、もうどこにもない。私の前には、愛する人と共に歩む、光り輝く道だけが広がっていた。
彼の言う通りだった。私はこのグレンドール村で、自分の力で立ち、村を豊かにし、人々の信頼を得ることができた。もう、離婚歴のある元王太子妃という過去に、卑屈になる必要はない。私が築き上げてきたこの現実こそが、今の私自身なのだ。
「アレクサンダー殿下……」
私が口を開こうとした、その時。彼は私の言葉を遮るように、そっと人差し指を私の唇に当てた。
「その呼び方は、もうやめにしないか?」
彼は悪戯っぽく微笑むと、私の手を握ったまま片膝をつき、私を見上げた。その真摯な青い瞳に、私は息をのんだ。
「リセラ・ヴァイスハルト。私は、君を心から愛している。私の妃として、ベルガリア王国に来てはくれないだろうか。私と共に、新しい未来を築いてほしい」
それは、あまりにも真っ直ぐで、心のこもったプロポーズだった。
王族が片膝をつくことの意味。それが、相手に対する最大級の敬意と、揺るぎない愛情の証であることを、私は知っていた。彼は、私を一人の人間として深く尊重し、その上で、生涯の伴侶にと望んでくれている。
涙が、頬を伝って流れ落ちた。それは、悲しみの涙ではない。喜びと、感謝と、そして愛しさに満ちた、温かい涙だった。
「……はい。喜んで」
私は、涙で濡れた笑顔で、精一杯にうなずいた。
「あなたの妃にしてください、アレクサンダー様」
初めて呼んだ彼の名前に、彼もまた、幸せそうに目を細めた。彼は立ち上がると、私の涙を指で優しく拭い、そっと唇を重ねた。それは、これまでの全ての苦労が報われるような、甘く優しいキスだった。
私たちの婚約の知らせは、すぐに両国に伝えられた。ベルガリア王国は、王子の決断を歓迎し、国中が祝福ムードに包まれた。民衆は、自らの手で奇跡の楽園を築き上げた賢女リセラを、未来の王妃として熱狂的に支持した。
一方、アルトリア王国は、複雑な空気に包まれた。特に、王宮は激震に見舞われた。
自分が捨てた元妻が、ライバル国の王子の妃となる。ルドルフにとって、それは耐え難い屈辱であり、自らの愚かさを永遠に突きつけられる宣告に等しかった。彼は執務室に閉じこもり、荒れる日が続いたという。
そして、この知らせに最も激しい衝撃を受けたのが、セリーナだった。
彼女の妨害工作は、アレクサンダーの手によって白日の下に晒され、彼女の「聖女」としての評判は完全に失墜していた。人々は彼女を「偽りの聖女」「悪しき女」と呼び、軽蔑の目を向けるようになった。ルドルフの寵愛も、急速に冷え切っていくのを感じていた。
そんな中で、リセラが隣国の王妃になるというニュース。それは、セリーナにとって完全な敗北を意味していた。
「どうして……どうしてあの女ばっかり! 主役は私のはずなのに!」
セリーナは自室で調度品を叩き壊し、ヒステリックに叫んだ。彼女の焦りは、ついに致命的な過ちを犯させることになる。彼女は、自らに残された最後の切り札である「聖女の力」を使い、ルドルフの心を完全に自分に縛り付けようとしたのだ。
しかし、その魔力は不完全で、邪な心を持った者が使えば、相手の精神を蝕む危険な代物だった。セリーナの術は暴走し、ルドルフは一時的に心神喪失の状態に陥ってしまった。
王子を害した。その罪は、何よりも重い。セリーナの本性はついに王家の知るところとなり、彼女は聖女の地位を剥奪され、塔に幽閉されることとなった。ルドルフとの結婚も、もちろん解消。彼女が手に入れたと思ったすべては、砂の城のように崩れ去った。
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