過労死転生したので怠惰に生きたいと言ったら、神様が寝てるだけで最強になれるスキルをくれました

黒崎隼人

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第1話「転生と最高の怠惰生活」

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「……ここは?」
 意識が浮上すると、目の前には真っ白な空間が広がっていた。床も壁も天井もなく、ただ光だけが存在する場所だ。そして、その中心に人の形をしているが輪郭の曖昧な、光そのもののような存在が立っていた。
『目が覚めたかね。気の毒に。三十にもならずに過労で死ぬとは』
 どこからともなく、穏やかで荘厳な声が響く。ああ、そうか。俺は死んだのか。
 最後の記憶は、鳴り響くキーボードの音、モニターの明かり、山積みの資料、そして胸に走った鋭い痛み。会社の床に倒れ込み、薄れていく意識の中で思ったのは、「もう働かなくていいんだ」という、どうしようもない安堵感だった。
 俺、佐藤優(さとうゆう)、享年二十九。広告代理店勤務のサラリーマン人生は、あまりにもあっけなく幕を閉じたらしい。
「あなたが神様、というやつですか?」
『いかにも。まあ、君たちの尺度で言うならば、だがね。君の魂は少々特殊でな。あまりの勤勉さと、その果ての死に様があまりに不憫で、私が拾い上げたというわけだ』
 神と名乗る存在は、どこか面白がるような口調で続ける。
『褒美をやろう。どんな願いも一つだけ叶えてやる。富か? 名声か? それとも絶世の美女か?』
 選択肢を提示され、俺は一秒も迷わなかった。富も名声も、手に入れればそれを維持するための労働が発生する。美女がいれば、機嫌を取るという感情労働が始まる。そんなものは真っ平ごめんだ。俺の望みは、たった一つ。
「とにかく楽をして、働かず、怠惰に生きたい。二度と『頑張る』なんて言葉は聞きたくない。ただ、無為にだらしなく、生きていきたいんです」
 即答だった。あまりに淀みない欲望の告白に、神は一瞬、光の揺らめきを止めた。
『……ほう。そこまで強く願うか。実に清々しいほどの堕落への渇望。面白い。ある意味で、それはどんな強欲よりも純粋な願いかもしれんな』
 神は呆れを通り越し、感心したように頷いた。
『よかろう。その強すぎる願い、叶えてやろう。君を新しい世界に転生させる。そして、その怠惰な生活を盤石にするための力を授けよう』
 神が指を鳴らすと、俺の魂に膨大な何かが流れ込んでくるのが分かった。温かく、それでいて底が見えない、圧倒的なエネルギー。
『無限の魔力を与える。そして、君の願いを形にするためのユニークスキル、【生活自動化(ニート・イズ・ゴッド)】だ。一度実行した生活に関する行動は、魔力がある限り永続的に自動化される。君が怠惰であればあるほど、その恩恵を最大限に受けられるだろう』
 なんという素晴らしいスキル。まさに俺のためにあるような力だ。
『さあ、行くがいい。新しい名はユウマだ。君だけの理想郷を築きたまえ』
 光に包まれ、俺の意識は再び遠のいていった。

 次に目覚めた時、俺は柔らかなベッドの上にいた。木の匂いがする小さな家の中。窓からは木漏れ日が差し込み、小鳥のさえずりが聞こえる。見渡せば、最低限の家具が揃った、こぢんまりとした部屋だった。
「ここが俺の新しい生活の舞台か……」
 ユウマとして生まれ変わった俺は、早速ベッドから起き上がり、スキルを試すことにした。まずは掃除だ。部屋の隅にあった箒を手に取り、床を丁寧に掃き、雑巾で窓や床を拭き上げる。最後にゴミをまとめて家の外のゴミ箱へ。
「よし。【生活自動化】、起動。今の掃除を登録」
 心の中で念じると、ふわりと魔力が体を包む感覚があった。するとどうだ。手から離れた箒と雑巾がひとりでに動き出し、俺がやった手順通りに、いや、それ以上に完璧な掃除を始めたではないか。床の小さな塵一つ見逃さず、窓は寸分の曇りもなく磨き上げられていく。
「最高だ……!」
 次は料理。キッチンには幸い、基本的な食材と調理器具が揃っていた。俺は前世で多少自炊をしていた経験を活かし、ありったけの食材で数種類の料理――パンを焼き、シチューを煮込み、サラダを作った。これも一度ずつ丁寧に作り上げ、スキルに登録。すると、俺が食べ終わった皿が自動で流しに運ばれて洗浄され、次に腹が減ったと念じれば、温かい料理がひとりでにテーブルに並ぶようになった。
 薪割り、井戸からの水汲み、洗濯。生活に必要な全ての労働を、一度ずつ丁寧に実行していく。無限の魔力のおかげか、体はまったく疲れない。そして、その全てを【生活自動化】に登録し終えた頃には、完璧な自動生活システムが構築されていた。
 俺は再びベッドに倒れ込む。喉が渇いたと思えば、浄化された水が入ったコップが枕元にすっと現れる。少し肌寒いと思えば、暖炉の火が自動で大きくなる。
 ベッドから一歩も、指一本動かす必要すらない。文化的な最低限度の生活が、全自動で保障される理想郷。
「これだ……。これこそが、俺の求めていた人生だ……」
 至福の表情で天井を仰ぐ。もう二度と働く必要はない。ただ、この安らぎの中で生きていけばいいのだ。
 しかし、この完璧な怠惰生活をさらに盤石にするため、家の周りに小さな家庭菜園を作り、水やりのために【回復魔法(小)】を自動化させたことが、後に世界を揺るがす最初の引き金になるとは。俺の無限の魔力が、その些細な生活魔法に、俺自身も知らない影響を与え始めていることなど、この時の俺は知る由もなかった。
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