過労死転生したので怠惰に生きたいと言ったら、神様が寝てるだけで最強になれるスキルをくれました

黒崎隼人

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第2話「世話焼きメイドと奇跡の森」

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 ユウマが森の奥で至高の怠惰生活を始めてから、数年の歳月が流れていた。
 彼は相変わらず、その生活のほとんどをベッドの上で過ごしている。朝、目が覚めれば温かい朝食が枕元に運ばれ、昼は自動でページがめくられる本を読み、夜は完璧な温度に保たれた布団の中で眠りに落ちる。まさに理想郷。彼のユニークスキル【生活自動化(ニート・イズ・ゴッド)】は、無限の魔力を燃料に、今日も完璧に稼働し続けていた。
 その中でも、家庭菜園に設定された【回復魔法(小)】の自動散布は、彼の生活を支える重要なシステムの一つだった。毎日決まった時刻になると、菜園の上空に小さな魔法陣が浮かび、柔らかな光の雨を降らせる。これで野菜は勝手に育ち、収穫も自動化されているため、ユウマは新鮮な食材に困ることはなかった。
 だが、彼には一つだけ想定外のことがあった。彼の魔力は「無限」であり、その質も神から与えられた規格外のものだったのだ。本来ならジョウロで水をやる程度の力であるはずの【回復魔法(小)】は、彼の魔力によって超高濃度の生命エネルギーの奔流と化していた。その恩恵は小さな家庭菜園に留まるはずもなく、霧散しては周囲の森一帯に降り注ぎ続けていたのである。
 結果、ユウマの家を中心とした森は、数年のうちに異様な変貌を遂げていた。木々は天を突くほどの巨木となり、地面には希少な薬草があたり一面に自生し、一年中、色とりどりの花が咲き乱れる。空気は清浄な生命力で満たされ、動物たちは穏やかで賢く、凶暴な魔物などは寄り付きもしない。
 人知れず、後に「奇跡の森」と呼ばれる聖域が、一人の男の怠惰な生活の結果として誕生していた。

 そんなある日のこと。一人の少女が、その森に足を踏み入れていた。
 彼女の名はリア。銀色の髪を三つ編みにし、尖った耳を持つハーフエルフの少女だ。彼女は病気の母を救うため、幻とされる「万病に効く薬草」を求めてこの森の深くへとやってきたのだが、あまりに濃密な生命力に方向感覚を失い、完全に道に迷ってしまっていた。
「はあ、はあ……もう、だめ……」
 数日間の探索で体力は尽き、持ってきた食料も底をついていた。空腹と疲労で意識が朦朧とする中、彼女は森の開けた場所に、ぽつんと立つ一軒の小さな家を発見する。
「家……? こんな森の奥に……?」
 最後の力を振り絞って近づくと、リアは信じられない光景を目の当たりにする。家の窓は、まるで意志を持っているかのようにひとりでにキュッキュと磨かれている。庭の畑では、トマトやジャガイモが最適な熟れ具合になると、ひとりでに収穫されてカゴの中に収まっていく。家全体が、まるで生きているかのように整然と機能していたのだ。
(な、何なの……ここは……魔法? それとも、ドワーフが作ったという絡繰り屋敷?)
 恐る恐る玄関の扉をノックするが、返事はない。だが、扉はひとりでにゆっくりと開いた。誘われるように中へ入ると、家の中もまた塵一つなく清潔に保たれている。そして、リビングの奥にある寝室のベッドで、だらしなく寝息を立てている一人の黒髪の青年――ユウマの姿が目に入った。
「人が……いた。あの、すみません……」
 声をかけるが、ユウマは「んん……」と寝返りをうつだけで起きる気配はない。不審に思いながらも、リアの体は限界だった。ぷつりと意識の糸が切れ、彼女はその場に崩れ落ちてしまった。

 どれくらいの時間が経っただろうか。リアが次に目を覚ますと、彼女はリビングのソファに寝かされており、目の前のテーブルには湯気の立つシチューと焼きたてのパンが置かれていた。
「……え?」
 状況が飲み込めないまま、あまりの空腹に耐えかねて、リアは恐る恐るスプーンを手に取った。そして、シチューを一口食べた瞬間、彼女の目に衝撃が走る。
「おいしい……!」
 口の中に広がるのは、野菜の優しい甘みと、じっくり煮込まれた肉の旨味。一口食べるごとに、疲弊しきった体に生命力が満ちていくのが分かる。パンは外がカリッとして中は驚くほどふんわりと柔らかい。夢中で食べ進め、あっという間に完食してしまった。
(こんなに美味しい料理、王宮の料理長でも作れない……。いったい誰が……?)
 ふと、彼女は思い出す。この家の不可解な現象と、ベッドで眠り続ける男の姿を。そして、この森全体に満ちる、尋常ではない生命エネルギー。全てのピースが、リアの頭の中で一つに繋がった。
(間違いないわ……! このお方は、この奇跡の森を司る、偉大なる森の精霊様なんだ! 普段は眠っておられるけれど、そのお力が森を生かし、私のような迷い人を助けるために、この奇跡の料理を与えてくださったんだわ!)
 それは、あまりにも壮大な勘違いだった。だが、目の前の奇跡を前にして、リアがそう結論付けるのも無理はなかった。
 全てを理解した(と信じ込んだ)リアは、ソファから立ち上がると、ユウマが眠る寝室に向かって深く、深く頭を下げた。
「偉大なる精霊様! 助けていただき、本当にありがとうございます! このご恩、どうお返しすれば……。そうだわ! 精霊様は常に眠っておられるご様子。ならば、この私が精霊様のお側でお世話をさせていただくのが、私の使命に違いありません!」
 完全に使命感に燃えたリアは、早速、空になった食器を片付けようとキッチンへ向かった。すると、皿がひとりでに流しへ飛んでいき、洗浄されて食器棚に戻っていく。
「こ、これも精霊様の御業……! 素晴らしい! でも、私がいるからには、もうお力を使わせるわけにはいきません!」
 彼女は【生活自動化】システムと戦うように、家の手伝いを始めた。こうして、ユウマが次に目を覚ました時、彼の家には見知らぬハーフエルフの少女が、甲斐甲斐しく掃除をしていた。
「……誰だ?」
「はっ! お目覚めですか、ユウマ様! わたくし、リアと申します! 今日から、ユウマ様のお世話をさせていただきます!」
 キラキラした瞳で詰め寄るリアに、ユウマは一瞬で全てを察した。
(ああ……なんか知らんが面倒なことになったな……。まあ、追い出すのも面倒だし……メイドがいれば、さらに生活が楽になる……か?)
 究極の面倒くさがり屋は、ほんの少しだけ思考を巡らせ、そして結論を出した。
「……好きにしろ」
 その一言が、勘違い少女リアにとって神聖なる許可の言葉に聞こえたのは、言うまでもない。
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