過労死転生したので怠惰に生きたいと言ったら、神様が寝てるだけで最強になれるスキルをくれました

黒崎隼人

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第3話「女騎士団長と絶対不可侵領域」

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 ユウマの家を中心とした森が、一部の冒険者や薬草採りの間で「奇跡の森」として噂になり始めた頃、森が属するアルストリア王国は、もう一つの不可解な現象を観測していた。
 森の一角が、直径数キロにわたって謎の結界に覆われているというのだ。
 最初に異変に気付いたのは、上空を偵察していたワイバーンライダーだった。突如、見えない壁に激突し、騎獣が負傷したのだ。その後、調査のために派遣された王国の魔術師団は、あらゆる解析魔法を試みたが、結界の構造を読み取ることすらできなかった。物理攻撃はもちろん、高位の破壊魔法を撃ち込んでも、結界は揺らぎもせず、ただ静かにそこにあるだけだった。
 内部の様子を窺うこともできず、進入も不可能。王国首脳部にとって、この謎の結界は正体不明の脅威以外の何物でもなかった。もしこれが敵国の作った魔法兵器であったなら、王都すら危険に晒される可能性がある。
 事態を重く見た王国は、最後の切り札として、一人の騎士を派遣することを決定した。
 その名はセラフィーナ・フォン・アルストリア。国王の姪であり、王国騎士団の頂点に立つ騎士団長だ。白銀の鎧に身を包み、腰には魔法剣を帯びた、白銀の髪を持つ絶世の美女。その実力は王国最強と謳われ、数々の武勲を立ててきた生ける伝説である。
「――これが、報告にあった結界か」
 セラフィーナが現地に到着すると、そこには異常な光景が広がっていた。結界の周辺には、なぜかこの地に引き寄せられたのであろう、巨大なワイバーンの群れがいた。そのうちの一頭が、けたたましい咆哮と共に結界へ突撃する。しかし、結界に触れた瞬間、まるでゴムまりのように弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「なんと強固な……。魔法攻撃だけでなく、あれほどの物理衝撃すら完全に無効化するとは」
 部下の騎士たちが息をのむ。セラフィーナは冷静に状況を分析していた。結界からは一切の魔力反応が感じられない。それが逆に、術者の計り知れない実力を示唆していた。
 実はこれこそ、ユウマが安眠のために家の周囲に設定した、自動【警備結界(虫除けレベル)】が暴走した姿だった。彼の願いは「とにかく静かに眠りたい」。その命令を忠実に実行するため、スキルはユウマの無限の魔力を使い、蚊や羽虫一匹通さない完璧な結界を構築した。結果として、ワイバーンの突撃や高位魔法すら通さない、大陸最強クラスの防御力を誇る「絶対不可侵領域」へと変貌してしまっていたのだ。
 セラフィーナは数日間にわたり、結界を突破する方法を模索した。剣で斬りつけても、魔力を流し込んでも、びくともしない。時間経過で弱まる気配もなく、まさに鉄壁。調査は完全に手詰まりかと思われた。
 その時、事件は唐突に起きた。
「……ん? 結界が……消えた?」
 一人の魔術師が驚きの声を上げる。それまで確かに存在していた見えない壁の圧力が、忽然と消え失せていたのだ。
「なぜだ!? 何が起きた!?」
 現場が混乱に陥る中、セラフィーナだけは冷静だった。
「理由の解明は後だ! これは好機! 私一人で内部を調査する! お前たちはここで待機せよ!」
 彼女はすぐさま馬を駆り、結界があった空間へと突入した。いつ再び結界が張られるか分からない。一瞬の油断も許されない状況だった。
 しかし、この結界の消滅が、ユウマがベッドの上で寝返りをうった拍子に、一瞬だけ魔力の供給が乱れただけのことなど、彼女が知る由もなかった。
 結界内部の森は、外とは比較にならないほど生命力に満ち溢れていた。見たこともない植物が輝きを放ち、空気が澄み切っている。その中心に、セラフィーナは一軒の小さな家を発見した。
(この家の主が、結界の術者か……!)
 最大限の警戒をしながら、ゆっくりと家に近づく。すると、玄関から一人のハーフエルフの少女――リアが出てきた。手には洗濯物の入ったカゴを持っている。
「あら? お客様でしょうか?」
 リアは屈託のない笑顔でセラフィーナに話しかけてきた。あまりに無防備な様子に、セラフィーナは拍子抜けする。
「私は王国騎士団のセラフィーナ。この結界について調査に来た。あなたは何者だ?」
「わたくしはリアと申します。ユウマ様にお仕えするメイドです。結界、ですか? ああ、ユウマ様がお作りになった、安眠のためのものでしょうか」
 あっさりと肯定され、セラフィーナはさらに面食らう。あれほどの絶対的な結界を「安眠のため」だと? いったい、ユウマとは何者なのだ。魔王か、あるいは古代竜の化身か。
「そのユウマ殿に話を聞きたい。案内してもらおう」
 緊張を隠し、セラフィーナは家に上がる。リアに案内されたのは、簡素だが清潔な寝室だった。そして、全ての謎の中心人物が、そこにいた。
 ベッドの上で、毛布にくるまり、すやすやと寝息を立てている、一人の男。
 伝説級の結界を操る大魔術師のイメージとはあまりにかけ離れた、無防備でだらしない姿。
 セラフィーナが呆然と立ち尽くしていると、ユウマがもぞりと身じろぎした。
「んー……あと、ごふん……」
 寝ぼけた声で、そんなことを呟く。
 その瞬間、セラフィーナの中で何かが崩れ落ちる音がした。王国を震撼させた「絶対不可侵領域」。その中心で、寝ぼけている男。
 数々の修羅場を乗り越えてきたエリート騎士、セラフィーナ・フォン・アルストリアの常識は、この日、木っ端微塵に砕け散った。
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