過労死転生したので怠惰に生きたいと言ったら、神様が寝てるだけで最強になれるスキルをくれました

黒崎隼人

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第4話「寝ている間に聖地化」

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「この男が、あれほどの結界を……? 信じられん……」
 セラフィーナは、ユウマの寝顔と、彼の傍らで「お静かに。ユウマ様が起きてしまわれます」と人差し指を口に当てるリアを交互に見比べ、理解が追いつかない頭を抱えていた。
 結局、ユウマが起きる気配は一向になく、セラフィーナもまた、この異常事態の根源である彼を監視するという名目で、ユウマの家に滞在することになった。リアは「ユウマ様をお守りする方が増えました!」と大喜びだが、ユウマ本人は、後からリアに報告を受けた際に「人が増えてうるさくなったな……」と不満を漏らしただけだった。しかし、追い出すという面倒な行為を選択するはずもなく、結局は放置することにした。
 こうして、一人の怠惰な男と、彼を精霊様と信じるメイド、そして常識が崩壊した女騎士という、奇妙な共同生活が始まった。
 ユウマの生活は、人が増えても何も変わらない。いや、むしろ怠惰さはさらに加速していた。
 喉が渇いた、と意識の片隅で思う。すると、枕元のサイドテーブルに、ひとりでに湧き出た清水が魔法で浄化され、最適な温度に冷やされた状態でコップに満たされて現れる。
 少し肌寒い、と感じる。すると、部屋の温度が即座に調整され、毛布が自動で彼の肩までかけられる。
 彼の【生活自動化】スキルは、もはや彼の微細な欲求すら先読みし、実現するレベルにまで達していた。彼はただ、ベッドの上で至福のまどろみに身を委ねるだけ。
 しかし、彼が寝ている間に、彼の生活を快適にするためだけに拡張され続けた自動化魔法は、家の外の世界に、本人がまったく意図しない形で絶大な影響を及ぼし始めていた。

 家の近くを流れる川があった。ユウマは、生活用水をより清浄にするため、その川の上流に自動【浄化魔法】を常時発動するように設定していた。彼の無限の魔力で強化された浄化魔法は、川の水を分子レベルで完璧に浄化し、あらゆる不純物を取り除いていた。
 その結果、川の下流にある村を長年苦しめていた原因不明の疫病が、ある日を境にぴたりと終息した。人々は、突然清らかになった川の水を「聖水」と呼び、奇跡に感謝した。

 ユウマは家の周囲に、虫だけでなく、動物や魔物が近づいて安眠を妨害しないよう、より広範囲の【警備結界】を設定し直した。その結界は、邪な意思を持つ生物を緩やかに遠ざける効果を持っていた。
 その結果、近くを通る街道から、盗賊や凶悪なモンスターの姿が完全に消えた。これまで危険で寂れていた街道は、王国で最も安全な交易路として生まれ変わり、多くの商人や旅人が行き交うようになって、周辺の街は活気を取り戻した。

 ユウマが住む「奇跡の森」から溢れ出した高濃度の生命エネルギーは、風に乗り、雨に混じって、周囲の大地へと広がっていった。
 その結果、何年も作物が育たなかった不毛の大地が、一夜にして緑豊かな穀倉地帯へと変貌した。人々は天の恵みに涙し、神に祈りを捧げた。

 病は去り、街道は安全になり、大地は豊かになる。一連の奇跡が、全て森のある方角から始まっていることに、人々が気付くのに時間はかからなかった。
 誰が言い出したのか、「奇跡の森には、我々を慈しむ偉大な賢者様がいらっしゃる」という噂が広まり始めた。顔も名前も知らない、しかし確かに存在するであろう恩人。人々は彼を「奇跡の森の賢者様」あるいは、その姿を見せないことから「眠れる救世主」と呼び、彼の住む森の方角に向かって、日々祈りを捧げるようになった。
 やがて、その噂は熱心な信者を生み、感謝と祈りを直接捧げようと、森を目指す巡礼者たちが現れ始めた。
 ユウマの家は、本人がまったく知らないうちに、神聖なる「聖地」と化していたのだ。
「また巡礼者の方々が……。セラフィーナさん、手伝ってください!」
「分かっている! 『賢者様は今、世界の平穏を祈るための深い瞑想に入っておられます。お静かに願います』と伝えるぞ!」
 家の前までやってくる巡礼者たちを、リアとセラフィーナが必死に対応する。もちろん、彼らが守っているのは世界の平穏を祈る賢者などではない。ただぐうすか眠っている怠惰な男の、安眠だけである。
「なんだか、外が騒がしいな……」
 ベッドの中で、ユウマは少しだけ眉をひそめた。しかし、その原因を追究するのも面倒で、彼は再び寝返りをうって、眠りの世界へと意識を沈めていくのだった。
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