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第15話:亀裂
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水晶の迷宮での一件は、「紅蓮の剣」の内部に決定的な亀裂を生じさせた。
拠点に戻った彼らを待っていたのは、海斗の怒声だった。
「玲奈! お前のせいだ! お前の魔法が役に立たないから、あんな屈辱を味わうことになったんだぞ!」
「……っ!」
海斗からの罵倒に、玲奈は唇を噛み締め、うつむくことしかできなかった。いつもなら「私の魔法は完璧よ!」と反論するところだが、クロに見せつけられた圧倒的な実力差の前では、どんな言葉も虚しく響くだけだった。
「吾郎もそうだ! 大会での失態を取り返そうともせず、役立たずが!」
「な、なんだと! 俺はちゃんと戦ってただろうが!」
吾郎が反論するが、海斗の苛立ちは収まらない。
「うるさい! お前たちが弱いから、俺が立てた計画が全て狂うんだ!」
玲奈と吾郎は、クロという存在に、もはや恐怖を感じ始めていた。
あの男は自分たちのスキルを全てお見通しで、その上で、それを遥かに上回る力でねじ伏せてくる。まるで、自分たちの天敵として現れたかのような存在。
「なあ、海斗……。あいつ、本当に何者なんだよ……。俺、もうあいつと戦うのは……」
弱気な発言をする吾郎を、海斗は冷たく睨みつけた。
「腑抜けたことを言うな! 次は必ず勝つ。そのためにお前たちももっと強くなれ!」
海斗は一方的にそう言い放つと、部屋を出て行ってしまった。
残された玲奈と吾郎の間に、重い沈黙が流れる。
「……海斗さん、変わっちゃったわね」
玲奈が、ぽつりとつぶやいた。
「ああ。昔は、もっと俺たちのことを……」
吾郎も、同意するようにうなずく。
英雄と讃えられ、名声を手に入れるにつれて海斗は変わってしまった。仲間を道具のように扱い、自分の成功のためだけにパーティーを動かすようになった。玲奈と吾郎は海斗のその変化に薄々気づきながらも、彼のカリスマ性に引かれてこれまで目を背けてきた。
しかし、クロという絶対的な強者の出現が、彼らに現実を直視させた。
(海斗さんは、本当に私たちのことを仲間だと思ってくれているの……?)
玲奈の心に、初めて海斗への疑念が芽生える。それは、彼女が抱いていた恋心に冷たい水を浴びせるような感覚だった。
一方、一人になった海斗は自室で荒々しくテーブルを殴りつけていた。
「クソッ! クソッ! クソォォォッ!」
彼の脳裏から、クロの圧倒的な力が離れない。
吾郎の【金剛力】を上回る力。玲奈の【エクスプロージョン】を完璧に模倣し、凌駕する魔力。そして、あの不気味なほどの落ち着きと、全てを見透かすような瞳。
(あいつは、俺たちのスキルを全て知っている。それも、まるで自分が使っていたかのように……)
そこで、海斗の思考が再びあの忌まわしい過去へと繋がった。
自分がスキルを奪い、ダンジョンに置き去りにした、あの男。
(……湊……? まさか、本当にあいつなのか? だが、どうやって生き延びた? どうやって、あんな力を……?)
あまりの強さに、信じることができない。だが、状況証拠が少しずつ、その最悪の可能性を指し示していた。もし、クロが本当に湊だとしたら。
彼の目的は、一つしかない。
(復讐……か)
海斗の背筋に、冷たい汗が流れた。
もしそうなら、奴は俺たちが奪ったスキルを全て取り返しに、そして俺たちを破滅させるために現れたことになる。
「……上等じゃないか」
恐怖は、やがて黒い闘志へと変わった。
「もしお前が本当に湊なら、もう一度地獄に突き落としてやる。今度こそ、確実に息の根を止めてな」
海斗の瞳に、狂気じみた光が宿る。
盤石だと思われた英雄パーティー「紅蓮の剣」は、外側からだけでなく、内側からも確実に崩壊の音を立て始めていた。
拠点に戻った彼らを待っていたのは、海斗の怒声だった。
「玲奈! お前のせいだ! お前の魔法が役に立たないから、あんな屈辱を味わうことになったんだぞ!」
「……っ!」
海斗からの罵倒に、玲奈は唇を噛み締め、うつむくことしかできなかった。いつもなら「私の魔法は完璧よ!」と反論するところだが、クロに見せつけられた圧倒的な実力差の前では、どんな言葉も虚しく響くだけだった。
「吾郎もそうだ! 大会での失態を取り返そうともせず、役立たずが!」
「な、なんだと! 俺はちゃんと戦ってただろうが!」
吾郎が反論するが、海斗の苛立ちは収まらない。
「うるさい! お前たちが弱いから、俺が立てた計画が全て狂うんだ!」
玲奈と吾郎は、クロという存在に、もはや恐怖を感じ始めていた。
あの男は自分たちのスキルを全てお見通しで、その上で、それを遥かに上回る力でねじ伏せてくる。まるで、自分たちの天敵として現れたかのような存在。
「なあ、海斗……。あいつ、本当に何者なんだよ……。俺、もうあいつと戦うのは……」
弱気な発言をする吾郎を、海斗は冷たく睨みつけた。
「腑抜けたことを言うな! 次は必ず勝つ。そのためにお前たちももっと強くなれ!」
海斗は一方的にそう言い放つと、部屋を出て行ってしまった。
残された玲奈と吾郎の間に、重い沈黙が流れる。
「……海斗さん、変わっちゃったわね」
玲奈が、ぽつりとつぶやいた。
「ああ。昔は、もっと俺たちのことを……」
吾郎も、同意するようにうなずく。
英雄と讃えられ、名声を手に入れるにつれて海斗は変わってしまった。仲間を道具のように扱い、自分の成功のためだけにパーティーを動かすようになった。玲奈と吾郎は海斗のその変化に薄々気づきながらも、彼のカリスマ性に引かれてこれまで目を背けてきた。
しかし、クロという絶対的な強者の出現が、彼らに現実を直視させた。
(海斗さんは、本当に私たちのことを仲間だと思ってくれているの……?)
玲奈の心に、初めて海斗への疑念が芽生える。それは、彼女が抱いていた恋心に冷たい水を浴びせるような感覚だった。
一方、一人になった海斗は自室で荒々しくテーブルを殴りつけていた。
「クソッ! クソッ! クソォォォッ!」
彼の脳裏から、クロの圧倒的な力が離れない。
吾郎の【金剛力】を上回る力。玲奈の【エクスプロージョン】を完璧に模倣し、凌駕する魔力。そして、あの不気味なほどの落ち着きと、全てを見透かすような瞳。
(あいつは、俺たちのスキルを全て知っている。それも、まるで自分が使っていたかのように……)
そこで、海斗の思考が再びあの忌まわしい過去へと繋がった。
自分がスキルを奪い、ダンジョンに置き去りにした、あの男。
(……湊……? まさか、本当にあいつなのか? だが、どうやって生き延びた? どうやって、あんな力を……?)
あまりの強さに、信じることができない。だが、状況証拠が少しずつ、その最悪の可能性を指し示していた。もし、クロが本当に湊だとしたら。
彼の目的は、一つしかない。
(復讐……か)
海斗の背筋に、冷たい汗が流れた。
もしそうなら、奴は俺たちが奪ったスキルを全て取り返しに、そして俺たちを破滅させるために現れたことになる。
「……上等じゃないか」
恐怖は、やがて黒い闘志へと変わった。
「もしお前が本当に湊なら、もう一度地獄に突き落としてやる。今度こそ、確実に息の根を止めてな」
海斗の瞳に、狂気じみた光が宿る。
盤石だと思われた英雄パーティー「紅蓮の剣」は、外側からだけでなく、内側からも確実に崩壊の音を立て始めていた。
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