追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます

黒崎隼人

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第8話:村を救った井戸

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 ミリアとの生活にも慣れてきたある日のこと。俺は村の広場で、村長や村人たちが深刻な顔で話し合っているのを見かけた。
「どうしたんですか、村長?」
 俺が声をかけると、村長は深いため息をついた。
「おお、レオ君か。実はな、水のことでのう……」
 話を聞くと、このアッシュフィールド村は慢性的な水不足に悩まされているらしかった。村にある井戸は一つだけで、それも最近は水量が減ってきているという。雨が少ない時期が続けば、畑は枯れ、飲み水すら事欠く事態になりかねない。
「新しい井戸を掘ろうにも、どこに水脈があるかわからんし、硬い岩盤があってな……。わしらだけではどうにもならんのじゃ」
 村人たちの顔には、諦めと疲労の色が浮かんでいた。この村の静かな雰囲気は、活気がないことの裏返しでもあったのだ。
 俺は、自分に何かできないかと考えた。
 水脈、そして硬い岩盤。
 ……もしかしたら、俺のスキルが使えるかもしれない。

 その日の午後、俺は一人で村の外れにある広大な空き地に来ていた。
 目を閉じ、地面に手を当てる。そして、意識を集中させてスキルを発動させた。
【解析】
 俺の意識が、まるで地面の下に潜っていくかのように、地中の情報が頭の中に流れ込んできた。
 地表から数メートルは柔らかい土の層。その下には、村長が言っていた通り、分厚い岩盤が広がっている。だが、さらに深く意識を潜らせていくと――あった。
 岩盤のさらに下、地下30メートルの地点。膨大な量の水が流れる、巨大な地下水脈が存在していた。
「これなら……いける!」
 俺は確信した。

 次に必要なのは、岩盤を砕くための道具だ。
 俺はアイテムボックスから、以前【分解】してストックしておいた大量の鉄鉱石と、道端で拾った硬い鉱石を取り出した。
 それらを【合成・創造】で組み合わせる。俺がイメージしたのは、頑丈で、一点に力を集中できる巨大なドリルと、それを支えるための強固な櫓(やぐら)だ。
 目の前に、まるで工場の機械のような、無骨で巨大な掘削道具が出現する。
 通りかかった村人が、それを見て目を剥いていたが、俺は気にせず作業に取り掛かった。

 創造した掘削機を動かすには動力が必要だ。俺はこれもスキルで解決した。分解で手に入れた魔石の欠片を動力源にした、簡易的な魔道具を創造したのだ。
 ゴゴゴゴゴ……!
 鈍い音を立てて、巨大なドリルが回転を始める。俺はそれを操作し、狙いを定めた地面へと突き立てた。
 ガガガガガッ!
 凄まじい轟音と共に、ドリルが地面を掘り進んでいく。土を掘り、そして、硬い岩盤に到達した。普通のつるはしでは歯が立たないであろう岩盤を、俺の創造したドリルは、まるで豆腐のように砕きながら進んでいく。

 その頃には、村中の人々が何事かと集まってきていた。
「な、なんだありゃ!?」
「レオ君が、一人で地面を掘っとるぞ!」
 ミリアも心配そうに見守っている。俺は彼女に安心させるように頷くと、再び作業に集中した。
 どれくらいの時間が経っただろうか。
 ドリルの手応えが、ふっと軽くなった。水脈に到達したのだ。
 次の瞬間、
 ゴオオオオオッ!!
 とてつもない水しぶきと共に、掘った穴から大量の水が天高く噴き上がった。
「「「うおおおおおおおっ!!」」」
 村人たちから、割れんばかりの歓声が上がる。
 それは、長年の悩みから解放された、喜びの雄叫びだった。子供たちは噴き出す水にはしゃぎ、大人たちは抱き合って喜んでいる。
 村長は、涙を流しながら俺の手を握った。
「レオ君……君は、この村の救世主だ……! ありがとう、本当にありがとう!」
 村人たちからの称賛と感謝の言葉が、シャワーのように俺に降り注ぐ。
 パーティーにいた頃は、どれだけ頑張っても罵倒しかされなかった。だが、ここでは、俺の力が確かに誰かの役に立ち、喜ばれている。
 その事実が、誇らしくて、嬉しくて、たまらなかった。
 噴き上げる水しぶきを浴びながら、俺はミリアと顔を見合わせて笑い合った。この村が、俺の本当の居場所になりつつあることを、強く実感した一日だった。
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