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第9話:伝説の鍛冶師との出会い
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井戸掘りの後、俺は村の英雄になった。村人たちは会うたびに俺に感謝の言葉を述べ、畑で採れた野菜や果物を差し入れてくれるようになった。そんな彼らの善意が、素直に嬉しかった。
俺は創造した掘削機を【分解】して、元の素材に戻した。しかし、その過程で出た金属のクズ――俺にとっては不要な部分を、村の片隅にまとめて捨てておいた。
それが、新たな出会いを引き寄せることになるとは、思いもしなかった。
数日後、一人の老人が俺の家を訪ねてきた。
筋骨隆々とした体つきに、雪のように白い髭を編み込んでいる。いかにも頑固そうな顔つきをした、ドワーフの老人だった。
「お前さんが、レオとかいう兄ちゃんか」
しゃがれた声で、老人は言った。その手には、俺が捨てた金属のクズが握られている。
「はい、俺がレオですが……何か?」
「これだ。これをお前さんが作ったのか?」
老人は、金属のクズを俺の目の前に突きつけた。
「ええ、まあ……井戸を掘るのに使った道具の残りですけど」
すると、老人はカッと目を見開き、信じられないといった表情で俺を睨みつけた。
「残りだと!? こんなもんが、残りカスだと抜かすのか!?」
突然の剣幕に、俺はたじろぐ。隣にいたミリアも、警戒するように身構えた。
「こ、この金属が何か?」
「何か、だと? この純度……不純物がほとんど含まれておらん。こんな金属、ワシは生涯で一度も見たことがない! これは、そこらのオリハルコンなんぞより、よっぽど価値がある代物だぞ!」
老人は興奮した様子で捲し立てる。どうやら、俺がスキルで精製した金属は、彼の常識を遥かに超える品質だったらしい。
「なあ、兄ちゃん。どうやってこれを作った? どんな魔法の炉を使えば、こんな奇跡が起こせるんだ? 教えてくれ!」
老人は、子供のように目を輝かせて俺に詰め寄ってきた。
その時、たまたま通りかかった村長が、慌てて間に入った。
「ガルドさん! レオ君を困らせちゃいかん!」
「村長……」
村長は俺たちに、このドワーフの老人のことを教えてくれた。
彼の名前は、ガルド・アイアンハンマー。
かつて王都で、その名を知らぬ者はいないと言われたほどの「伝説の鍛冶師」だった。彼が打った剣は国宝級とされ、どんな名剣よりも鋭く、そして美しかったという。
しかし、彼は数年前に突然、全ての地位を捨てて引退し、この辺境の村で隠居生活を送っていたのだ。
ガルドは、俺が事情を話せないでいると察したのか、少し冷静さを取り戻した。
「……すまん、取り乱した。ワシはただ、最高の素材を前にして、職人の血が騒いだだけなんじゃ」
彼は寂しそうにそう言うと、俺が創造した金属を、まるで恋人でも見るかのような愛おしい目で見つめた。
「兄ちゃん。もし良ければ、ワシの工房に来てくれんか。お前さんが作ったこの金属で、ワシに一度、鎚を振るわせてくれ。もう二度と鎚は握らんと誓ったが……これを見せられちゃあ、黙ってはおれん」
伝説の鍛冶師の、魂からの願い。
俺は、彼の真剣な眼差しに、断るという選択肢を見つけられなかった。
それに、俺自身も興味があった。俺のスキルが生み出した素材が、伝説の職人の手にかかると、一体どんなものに生まれ変わるのか。
「わかりました。行きましょう、ガルドさんの工房へ」
俺の答えに、ガルドは顔をくしゃくしゃにして笑った。
この出会いが、俺と、そしてこのアッシュフィールド村の運命を、さらに大きく変えていくことになるのだった。
俺は創造した掘削機を【分解】して、元の素材に戻した。しかし、その過程で出た金属のクズ――俺にとっては不要な部分を、村の片隅にまとめて捨てておいた。
それが、新たな出会いを引き寄せることになるとは、思いもしなかった。
数日後、一人の老人が俺の家を訪ねてきた。
筋骨隆々とした体つきに、雪のように白い髭を編み込んでいる。いかにも頑固そうな顔つきをした、ドワーフの老人だった。
「お前さんが、レオとかいう兄ちゃんか」
しゃがれた声で、老人は言った。その手には、俺が捨てた金属のクズが握られている。
「はい、俺がレオですが……何か?」
「これだ。これをお前さんが作ったのか?」
老人は、金属のクズを俺の目の前に突きつけた。
「ええ、まあ……井戸を掘るのに使った道具の残りですけど」
すると、老人はカッと目を見開き、信じられないといった表情で俺を睨みつけた。
「残りだと!? こんなもんが、残りカスだと抜かすのか!?」
突然の剣幕に、俺はたじろぐ。隣にいたミリアも、警戒するように身構えた。
「こ、この金属が何か?」
「何か、だと? この純度……不純物がほとんど含まれておらん。こんな金属、ワシは生涯で一度も見たことがない! これは、そこらのオリハルコンなんぞより、よっぽど価値がある代物だぞ!」
老人は興奮した様子で捲し立てる。どうやら、俺がスキルで精製した金属は、彼の常識を遥かに超える品質だったらしい。
「なあ、兄ちゃん。どうやってこれを作った? どんな魔法の炉を使えば、こんな奇跡が起こせるんだ? 教えてくれ!」
老人は、子供のように目を輝かせて俺に詰め寄ってきた。
その時、たまたま通りかかった村長が、慌てて間に入った。
「ガルドさん! レオ君を困らせちゃいかん!」
「村長……」
村長は俺たちに、このドワーフの老人のことを教えてくれた。
彼の名前は、ガルド・アイアンハンマー。
かつて王都で、その名を知らぬ者はいないと言われたほどの「伝説の鍛冶師」だった。彼が打った剣は国宝級とされ、どんな名剣よりも鋭く、そして美しかったという。
しかし、彼は数年前に突然、全ての地位を捨てて引退し、この辺境の村で隠居生活を送っていたのだ。
ガルドは、俺が事情を話せないでいると察したのか、少し冷静さを取り戻した。
「……すまん、取り乱した。ワシはただ、最高の素材を前にして、職人の血が騒いだだけなんじゃ」
彼は寂しそうにそう言うと、俺が創造した金属を、まるで恋人でも見るかのような愛おしい目で見つめた。
「兄ちゃん。もし良ければ、ワシの工房に来てくれんか。お前さんが作ったこの金属で、ワシに一度、鎚を振るわせてくれ。もう二度と鎚は握らんと誓ったが……これを見せられちゃあ、黙ってはおれん」
伝説の鍛冶師の、魂からの願い。
俺は、彼の真剣な眼差しに、断るという選択肢を見つけられなかった。
それに、俺自身も興味があった。俺のスキルが生み出した素材が、伝説の職人の手にかかると、一体どんなものに生まれ変わるのか。
「わかりました。行きましょう、ガルドさんの工房へ」
俺の答えに、ガルドは顔をくしゃくしゃにして笑った。
この出会いが、俺と、そしてこのアッシュフィールド村の運命を、さらに大きく変えていくことになるのだった。
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