婚約破棄で追放された「無能」な悪役令嬢?結構です!辺境でもふもふ神獣とチート農業してたら、聖女と崇められる

黒崎隼人

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第2話「ようこそ辺境へ!ここが私の畑です」

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 王都を出発してから、馬車に揺られること二週間。きらびやかだった街並みはとうの昔に姿を消し、窓の外の景色は日に日に寂しさを増していった。そしてついに、私の新しい生活の舞台となる辺境の村に到着した。
「……ここが」
 馬車を降りて見渡した光景に、私は思わず息をのんだ。
 聞いてはいたけれど、想像以上だ。家はまばらで、どれも古びていて活気がない。道行く人々の服装も質素で、その表情はどこか疲弊しているように見える。そして何より、目に映る土地のほとんどが、赤茶けて痩せ細っていた。石ころだらけで、雑草すらまばらにしか生えていない。
(これは……思った以上にやりがいがありそうね!)
 普通なら絶望するところだろう。けれど、私の心は武者震いしていた。この荒れ果てた土地を、緑あふれる豊かな大地に変える。これこそ、私が求めていたものだ。
 護衛として同行してくれた騎士が、心配そうに声をかけてきた。
「アリア様、このような場所で本当に……?」
「ええ、大丈夫よ。私の家はどこかしら?」
 村長だという初老の男性に案内されたのは、村はずれにある小さな一軒家だった。長い間使われていなかったのか、少し古びてはいるけれど、掃除をすれば快適に過ごせそうだ。家の裏には、そこそこ広い土地が広がっている。ここが私の畑になる場所だ。
 両親が持たせてくれた資金で、村長から正式に家と土地を買い取る。突然現れた元貴族の私に、村の人々は遠巻きに様子をうかがっているだけだった。まあ、無理もないだろう。
 護衛の騎士たちには十分に礼を言って王都へ返した。ここからは、本当に一人だ。
「さて、と。まずは土作りからね!」
 翌日から、私は早速行動を開始した。まずは、前世の知識を活かして、畑の区画整理から。日当たりや風通しを考えながら、どこに何を植えるか計画を立てる。その作業だけでも楽しくて、自然と笑みがこぼれた。
 一通り計画が決まったところで、いよいよ私のチート能力の出番だ。
 スキル【大地の恵み】。
 私は畑の中央に立つと、両手をそっと地面につけた。
「豊かな実りをもたらす大地よ。私の声に応え、その力を目覚めさせて」
 そう心の中で強く念じると、手のひらから温かい光が溢れ出し、地面に吸い込まれていった。すると、どうだろう。私の手を中心に、地面が淡い金色の光を放ち始めたのだ。乾いてひび割れていた土が、見る見るうちに潤いを取り戻し、石ころは砂のように細かくなって土に溶けていく。そして、カチカチだった赤土は、しっとりとした生命力あふれる黒土へと変わっていく。
 光は波紋のように広がり、あっという間に畑全体を覆い尽くした。
「ふぅ……。こんなものかしら」
 立ち上がって自分の畑を見渡し、私は満足げに頷いた。指で触れてみると、ふかふかで、ほんのりと温かい。これならどんな作物だって元気に育つだろう。
 あまりの劇的な変化に、遠くから見ていた村人たちが息をのむのが分かった。まあ、いきなり畑が光り輝いたら、誰だって驚く。
 土作りが終われば、次はいよいよ種まきだ。持参したカブやジャガイモ、ニンジンの種を、丁寧に一粒ずつ蒔いていく。
「元気に育つのよ」
 まるで我が子に語りかけるように声をかけ、優しく土をかぶせた。前世では、こんなふうに作物の世話をすることが、何よりの幸せだった。まさか異世界で、しかもチート能力付きで実現できるなんて、夢のようだ。
 それからの毎日は、農業一筋。朝は鳥の声で目覚め、畑に出て作物の様子を見る。水をやり、雑草を抜き、愛情を込めて世話をする。夜は、自分で作った簡単な食事をとり、明日への期待を胸に眠りにつく。
 王宮にいた頃のような、豪華なドレスも、きらびやかな宝石もない。けれど、今の私には、泥に汚れた作業着と、太陽の下で働く充実感があった。
 そして、種をまいてから一週間後のこと。信じられない光景が私の目の前に広がっていた。
「うそ……もうこんなに大きくなってる!」
 普通なら、ようやく小さな双葉が出るか出ないかという時期のはずなのに、私の畑では、青々とした葉が元気よく茂っていたのだ。成長速度が、明らかに異常だ。これも【大地の恵み】の効果なのだろう。
 さらに数日後、カブは驚くほどの大きさになり、まるで子供の頭ほどのサイズにまで育っていた。みずみずしい葉をかき分けて引き抜くと、真っ白でつやつやとした美しいカブが姿を現す。
「すごい……!」
 試しに一つ、泥を洗い落としてかじってみる。
 シャクッ! と軽快な音が響いた瞬間、口の中に衝撃的な甘さと瑞々しさが広がった。果物かと錯覚するほどの甘みと、きめ細やかで滑らかな食感。筋っぽさなど一切ない。
「お、美味しい……!」
 思わず叫んでしまうほどの美味しさだった。これが、私の育てた野菜。
 あまりの出来栄えに興奮した私は、収穫したての野菜をいくつか籠に入れ、村長の家を訪ねた。いつも遠巻きに私を見ていた村長は、突然の訪問に少し驚いた様子だった。
「これは……アリア様が?」
「ええ。少し採れすぎたので、よかったら召し上がってください」
 村長は、私の差し出した巨大なカブを見て、目を丸くしている。
 その日の夕食後、村長の奥さんが血相を変えて私の家に駆け込んできた。
「アリア様! あのカブは一体……!? 食べた夫の腰の痛みが、すっかり良くなってしまったんです!」
 聞けば、長年腰痛に悩まされていた村長が、私のカブを入れたスープを一杯飲んだだけで、痛みが嘘のように消えてしまったというのだ。
「まさか……」
 私の野菜には、ただ美味しいだけじゃない、特別な力が宿っているのかもしれない。
 この出来事をきっかけに、私の作る規格外の野菜の噂は、静かに、しかし確実に、この寂れた辺境の村に広まっていくことになるのだった。
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