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第3話「もふもふとの運命的な出会い」
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私の野菜が村長の腰痛を治したという噂は、あっという間に村中に広まった。最初は半信半疑だった村人たちも、私が配った野菜を食べて、その驚くべき効果を実感することになる。
「アリア様のジャガイモを食べたら、長年の肩こりが治ったよ!」
「うちの婆さんの膝の痛みが消えたんだ。ありがとう!」
畑仕事の合間に村へ行くと、以前の遠巻きな態度が嘘のように、人々が笑顔で話しかけてくれるようになった。物々交換でパンや干し肉を分けてくれる人もいて、私の食卓は日に日に豊かになっていく。人との温かい交流は、王宮では決して得られなかったものだ。
そんなある日の午後、私は森の散策に出かけることにした。畑に植える薬草や、食べられる木の実を探すためだ。村の人からは「森の奥は魔物が出るから危ない」と止められたが、私の農園を守るためにも、周囲の地理は把握しておきたい。
幸い、私のスキル【大地の恵み】は、植物だけでなく動物にも好かれるらしく、森の動物たちは私を見ても逃げるどころか、むしろ興味深そうに近寄ってくる。これなら、そうそう危険な目には遭わないだろう。
森は深く、静かで、ひんやりとした空気が心地よかった。木漏れ日が地面にまだら模様を描き、鳥のさえずりが耳に優しい。
しばらく歩いていると、ふと、茂みの奥からか細い鳴き声が聞こえてきた。
「くぅ……ん……」
苦しげな、助けを求めるような声。私は警戒しながらも、ゆっくりと声のする方へ近づいていった。
茂みをかき分けると、そこにいたのは一匹の狼だった。いや、ただの狼じゃない。子狼のようだが、成犬ほどの大きさがあり、何よりその毛並みは雪のように真っ白で、陽の光を浴びてキラキラと輝いている。神々しささえ感じる、美しい生き物だ。
しかし、その美しい生き物は、ぐったりと地面に横たわり、その後ろ足からは血が流れていた。どうやら、狩人が仕掛けた古い罠に掛かってしまったらしい。罠は錆びつき、深く足に食い込んでいた。
「大変……!」
私が近づくと、子狼は最後の力を振り絞るように唸り声を上げ、私を睨みつけた。その黄金色の瞳には、警戒と苦痛の色が浮かんでいる。
「大丈夫よ、怖がらないで。助けてあげるからね」
私はできるだけ優しい声で語りかけながら、ゆっくりと距離を詰めた。スキルのおかげか、私の言葉が通じたのか、子狼の警戒心が少しだけ和らいだように見えた。
私は慎重に罠に近づき、その構造を確かめる。幸い、それほど複雑な作りではない。渾身の力を込めて錆びた金属をこじ開けると、ようやく罠が外れた。
子狼は自由になった足を引きずりながら、私から距離を取ろうとする。
「待って。その傷、手当てしないと」
私は持っていたカバンから、手製の傷薬と清潔な布を取り出した。この傷薬は、私の畑で採れた薬草をすり潰して作ったもので、効果は絶大のはずだ。
「ちょっとしみるかもしれないけど、我慢してね」
そう言って、恐る恐る傷口に薬を塗り、布で優しく包帯を巻いていく。子狼は時折「クン」と小さな声を漏らしたが、暴れることはなかった。手当てが終わる頃には、すっかり私に身を任せるようになっていた。
「よし、これで大丈夫」
全ての処置を終え、私が安堵のため息をつくと、子狼は私の手をするりと舐めた。感謝してくれているのだろうか。
「どういたしまして」
頭を撫でてやると、その毛並みのあまりの心地よさに、私は思わず声を上げた。
「わ……! なにこの、もふもふ感……!」
指が埋もれるほど柔らかく、密集した毛は、まるで最高級のビロードのよう。ずっと触っていたくなるような、極上の手触りだ。
私は、この可愛らしいもふもふにすっかり心を奪われてしまった。
「そうだわ、あなたに名前をつけましょう。うーん、ふわふわで甘そうな色合いだから……『モカ』なんてどうかしら?」
私がそう言うと、子狼――モカは、嬉しそうに「わふん!」と一声鳴き、私の頬をぺろりと舐めた。どうやら、気に入ってくれたらしい。
しかし、モカはまだ足を引きずっていて、一人で森に返すのは心配だった。
「よかったら、私の家に来る? 美味しいスープを作ってあげる」
私がそう誘うと、モカはこくりと頷いたように見えた。私はモカの体をそっと支えながら、ゆっくりと家路についた。
家に帰り着き、温かい野菜スープを器に入れてやると、モカは夢中でそれを飲み始めた。よほどお腹が空いていたのだろう。スープを飲み干すと、満足げな顔で私を見上げ、尻尾をぱたぱたと振った。その仕草の愛らしいこと。
その夜、モカは私のベッドの足元で丸くなって眠った。すーすーと穏やかな寝息を立てるもふもふの塊を見ていると、私の心まで温かくなる。
翌朝、モカの足の傷は驚くべき速さで回復していた。私が作った薬の効果と、この子の持つ生命力の強さだろう。もう森に帰れるだろうに、モカは私の側を片時も離れようとしなかった。私が畑仕事をすれば、ちょこんと隣に座って見守り、私が家事をすれば、足元にじゃれついてくる。
どうやら、モカは私にすっかり懐いてしまったらしい。
こうして、私の辺境スローライフに、最高にもふもふで愛らしい家族が加わったのだった。
「アリア様のジャガイモを食べたら、長年の肩こりが治ったよ!」
「うちの婆さんの膝の痛みが消えたんだ。ありがとう!」
畑仕事の合間に村へ行くと、以前の遠巻きな態度が嘘のように、人々が笑顔で話しかけてくれるようになった。物々交換でパンや干し肉を分けてくれる人もいて、私の食卓は日に日に豊かになっていく。人との温かい交流は、王宮では決して得られなかったものだ。
そんなある日の午後、私は森の散策に出かけることにした。畑に植える薬草や、食べられる木の実を探すためだ。村の人からは「森の奥は魔物が出るから危ない」と止められたが、私の農園を守るためにも、周囲の地理は把握しておきたい。
幸い、私のスキル【大地の恵み】は、植物だけでなく動物にも好かれるらしく、森の動物たちは私を見ても逃げるどころか、むしろ興味深そうに近寄ってくる。これなら、そうそう危険な目には遭わないだろう。
森は深く、静かで、ひんやりとした空気が心地よかった。木漏れ日が地面にまだら模様を描き、鳥のさえずりが耳に優しい。
しばらく歩いていると、ふと、茂みの奥からか細い鳴き声が聞こえてきた。
「くぅ……ん……」
苦しげな、助けを求めるような声。私は警戒しながらも、ゆっくりと声のする方へ近づいていった。
茂みをかき分けると、そこにいたのは一匹の狼だった。いや、ただの狼じゃない。子狼のようだが、成犬ほどの大きさがあり、何よりその毛並みは雪のように真っ白で、陽の光を浴びてキラキラと輝いている。神々しささえ感じる、美しい生き物だ。
しかし、その美しい生き物は、ぐったりと地面に横たわり、その後ろ足からは血が流れていた。どうやら、狩人が仕掛けた古い罠に掛かってしまったらしい。罠は錆びつき、深く足に食い込んでいた。
「大変……!」
私が近づくと、子狼は最後の力を振り絞るように唸り声を上げ、私を睨みつけた。その黄金色の瞳には、警戒と苦痛の色が浮かんでいる。
「大丈夫よ、怖がらないで。助けてあげるからね」
私はできるだけ優しい声で語りかけながら、ゆっくりと距離を詰めた。スキルのおかげか、私の言葉が通じたのか、子狼の警戒心が少しだけ和らいだように見えた。
私は慎重に罠に近づき、その構造を確かめる。幸い、それほど複雑な作りではない。渾身の力を込めて錆びた金属をこじ開けると、ようやく罠が外れた。
子狼は自由になった足を引きずりながら、私から距離を取ろうとする。
「待って。その傷、手当てしないと」
私は持っていたカバンから、手製の傷薬と清潔な布を取り出した。この傷薬は、私の畑で採れた薬草をすり潰して作ったもので、効果は絶大のはずだ。
「ちょっとしみるかもしれないけど、我慢してね」
そう言って、恐る恐る傷口に薬を塗り、布で優しく包帯を巻いていく。子狼は時折「クン」と小さな声を漏らしたが、暴れることはなかった。手当てが終わる頃には、すっかり私に身を任せるようになっていた。
「よし、これで大丈夫」
全ての処置を終え、私が安堵のため息をつくと、子狼は私の手をするりと舐めた。感謝してくれているのだろうか。
「どういたしまして」
頭を撫でてやると、その毛並みのあまりの心地よさに、私は思わず声を上げた。
「わ……! なにこの、もふもふ感……!」
指が埋もれるほど柔らかく、密集した毛は、まるで最高級のビロードのよう。ずっと触っていたくなるような、極上の手触りだ。
私は、この可愛らしいもふもふにすっかり心を奪われてしまった。
「そうだわ、あなたに名前をつけましょう。うーん、ふわふわで甘そうな色合いだから……『モカ』なんてどうかしら?」
私がそう言うと、子狼――モカは、嬉しそうに「わふん!」と一声鳴き、私の頬をぺろりと舐めた。どうやら、気に入ってくれたらしい。
しかし、モカはまだ足を引きずっていて、一人で森に返すのは心配だった。
「よかったら、私の家に来る? 美味しいスープを作ってあげる」
私がそう誘うと、モカはこくりと頷いたように見えた。私はモカの体をそっと支えながら、ゆっくりと家路についた。
家に帰り着き、温かい野菜スープを器に入れてやると、モカは夢中でそれを飲み始めた。よほどお腹が空いていたのだろう。スープを飲み干すと、満足げな顔で私を見上げ、尻尾をぱたぱたと振った。その仕草の愛らしいこと。
その夜、モカは私のベッドの足元で丸くなって眠った。すーすーと穏やかな寝息を立てるもふもふの塊を見ていると、私の心まで温かくなる。
翌朝、モカの足の傷は驚くべき速さで回復していた。私が作った薬の効果と、この子の持つ生命力の強さだろう。もう森に帰れるだろうに、モカは私の側を片時も離れようとしなかった。私が畑仕事をすれば、ちょこんと隣に座って見守り、私が家事をすれば、足元にじゃれついてくる。
どうやら、モカは私にすっかり懐いてしまったらしい。
こうして、私の辺境スローライフに、最高にもふもふで愛らしい家族が加わったのだった。
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