婚約破棄で追放された「無能」な悪役令嬢？結構です！辺境でもふもふ神獣とチート農業してたら、聖女と崇められる

番外編「白き聖獣は主を愛す」

　ボクの名前はモカ。森で一番強くて、一番もふもふの、森神狼だ。
　ボクには、世界で一番大好きな主がいる。アリアっていう名前の、太陽みたいな匂いがする優しいニンゲンだ。
　アリアと初めて会ったのは、ボクがニンゲンの作った意地悪な罠にかかって、もうダメかもしれないって思った時だった。痛くて、苦しくて、誰も助けてくれないって諦めかけていたボクの前に、アリアは現れた。
　他のニンゲンみたいに、ボクを怖がったり、石を投げたりしなかった。それどころか、「大丈夫よ」って、すごく優しい声で話しかけてくれたんだ。アリアの手は温かくて、その手で怪我した足に塗ってくれた薬は、ちょっとだけしみたけど、すぐに痛みが和らいでいくのが分かった。
　あの時、ボクは決めたんだ。このニンゲンのそばにいようって。このニンゲンを、一生守ろうって。
　アリアの家は、すごく居心地が良かった。アリアが作ってくれるご飯は、今まで食べたどんな木の実やお肉よりも、ずっとずっと美味しかった。特に、畑で採れるキラキラした野菜が入ったスープは最高だ。あれを食べると、体の中から力が湧いてくるんだ。
　アリアは毎日、畑に出る。ボクも毎日、アリアについていく。
　アリアが楽しそうに土をいじっている姿を見るのが、ボクは大好きだ。アリアが愛情を込めて育てた野菜は、太陽の味がする。ボクは、その野菜を狙う悪い虫や、畑を荒らそうとするイタズラなウサギを追い払うのが仕事だ。アリアが「ありがとう、モカ。助かるわ」って、ボクの頭を撫でてくれる。それが嬉しくて、ボクの尻尾はいつもぶんぶん揺れちゃうんだ。
　夜は、アリアのベッドの足元で眠る。アリアの穏やかな寝息を聞いていると、ボクも安心して眠れる。時々、アリアがボクのもふもふの毛に顔をうずめて「モカはあったかいなぁ」って言う。その時、ボクの心臓はすごくポカポカする。
　ボクの主は、ちょっと鈍感なところがある。
　最近、アリアの周りをうろちょろする、銀色の髪のニンゲンがいる。リアムって名前の、商人のオスだ。
　あいつ、アリアのこと、すごく特別な目で見てる。ボクには分かる。群れのメスを見る時の、オスの目だ。
　最初は、アリアに近づく悪いやつだと思って、すごく警戒した。でも、リアムはアリアをとても大切にしているみたいだった。アリアが笑うと、リアムも嬉しそうに笑う。アリアが困っていると、すぐに助けてくれる。
　だから、まあ、悪いやつじゃないんだろうなって、ちょっとだけ認めてやることにした。
　でも、この前、とんでもない奴らが村に来た。
　キンキラした服を着た、すごく嫌な匂いがするオスのニンゲン。アリアのことを、すごく偉そうな態度で怒鳴りつけたんだ。ボクの大切な主に、なんてことを！
　ボク、すごく頭にきちゃって、気づいたら、大きくなってた。父さんや母さん、森の仲間たちも、みんなボクと同じ気持ちだったみたいで、集まってきてくれた。
　ボクが「グルルル！」って唸ったら、キンキラのオスはすごくびっくりしてた。当たり前だ。アリアをいじめる奴は、誰であろうとボクが許さない。
　そしたら、リアムが颯爽と現れて、キンキラのオスを追い払ってくれた。うん、あいつ、なかなかやるじゃないか。今日のところは、グッジョブって褒めてやろう。
　戦いが終わって、アリアがボクに抱きついてくれた。ちょっとだけ泣きそうな顔をしてた。
　大丈夫、アリア。ボクがいる。父さんも母さんも、森のみんなもいる。そして、リアムもいる。
　みんなで、アリアを守るから。だから、もうそんな顔しないで。
　ボクは、主を慰めるように、その頬をぺろりと舐めた。
　アリアはボクの家族だ。ボクは、これからもずっと、この優しくて温かい主のそばにいる。アリアが作る美味しい野菜と、アリアの笑顔があれば、ボクは世界一幸せな森神狼なんだ。
　だからアリア、これからもずっと、ボクの主でいてね。わふん！