婚約破棄で追放された「無能」な悪役令嬢?結構です!辺境でもふもふ神獣とチート農業してたら、聖女と崇められる

黒崎隼人

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エピローグ「聖樹の村より、愛をこめて」

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 あの騒動から、数年の月日が流れた。
 私が領主を務めることになった「聖樹の領」は、今や大陸でも有数の豊かさを誇る土地となっている。私の育てる作物は相変わらずで、その加工品は多くの国々へ輸出され、人々の健康を支えている。
 そして、私個人の生活にも、大きな変化があった。
「アリア、少し休憩にしないか? 君が好きなカモミールティーを淹れたよ」
 穏やかな声と共に、愛する夫――リアムが、畑仕事をする私の元へバスケットを持ってきてくれた。
「まあ、ありがとう、あなた」
 そう、私とリアムは、あの後すぐに結婚した。領主と、その夫であり敏腕の宰相。私たちは公私ともに、最高のパートナーとして、この領地を治めている。
 私たちは、畑のそばに立てた小さなガゼボの椅子に腰掛けた。リアムの淹れてくれたハーブティーは、いつも心が安らぐ味がする。
「今年のトマトも、最高の出来になりそうだな」
「ええ。あなたと、皆のおかげよ」
 私たちの周りでは、ハルトさんをはじめ、かつて訳ありでこの村に流れ着いた者たちが、今では領地の中心メンバーとして働いてくれている。みんな、この土地を愛し、誇りに思ってくれている。
 ふと、足元に温かい感触がした。見ると、すっかり成獣となって威厳を増したモカが、私の足に頭をすり寄せている。その背中には、モカとそっくりな、真っ白でふわふわの小さな子狼が二匹乗っかっていた。
「こら、お前たち。お母さんを困らせるんじゃないぞ」
 私が言うと、子狼たちはきゃんきゃんと可愛らしい声で鳴いた。モカは、立派なお母さんになったのだ。森には、モカの頼もしい旦那さんもいる。
 平和で、穏やかで、満ち足りた毎日。これこそが、私がずっと夢見ていたスローライフだ。
「そういえば、王都の新国王からまた手紙が来ていたよ。『ぜひ一度、王宮晩餐会へ』とね。もちろん、丁重にお断りしておいたが」
 リアムが悪戯っぽく笑う。
「ふふ、ありがとう。もう、あそこに戻る気はないわ」
 私には、この場所がある。この温かい太陽と、豊かな大地と、そして何より、愛する家族たちが。
 リアムが、そっと私の手を握る。
「アリア。君に出会えて、僕は世界一の幸せ者だ」
「私もよ、リアム。あなたと出会えて、本当によかった」
 私たちは見つめ合い、どちらからともなく唇を寄せた。
 遠くで、村の教会の鐘が鳴っている。子供たちの楽しそうな笑い声が聞こえる。畑の作物は、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
 ――ああ、幸せだ。
 かつて悪役令嬢と呼ばれた私は、今、この聖樹の村で、最高の幸せを噛みしめている。
 婚約破棄してくれてありがとう、殿下。あなたのおかげで、私は本当の宝物を見つけることができました。
 これからも、この愛する土地で、大切な人たちと一緒に、美味しい野菜を作りながら生きていこう。
 聖樹の村より、愛をこめて。私の物語は、これからも続いていく。
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