異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人

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第4話「もふもふは突然に」

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 テリヤキ串の屋台は、連日大盛況だった。
 カイリソースの噂は口コミであっという間に広まり、俺たちの屋台は商業都市エトリアの名物となりつつあった。毎日、開店前から行列ができるほどだ。
 売上はうなぎのぼりで、リリアナの家の借金を返すのにも、少しずつ目処が立ってきた。なにより、自分たちの作ったもので人々が笑顔になってくれるのが、たまらなく嬉しかった。

「カイリ様、本日の売上です!」

 リリアナが、ぱんぱんに膨れた革袋を嬉しそうに差し出す。彼女の表情は、俺と出会った頃とは比べ物にならないくらい明るくなった。美味しいものを毎日食べられているせいもあるかもしれない。

「よし、今日も頑張ったな。お疲れさん、リリアナ」
「はい! ……あの、カイリ様。明日は、少し多めに材料を仕入れたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ、もちろん。だけど、何か理由があるのか?」
「はい。実は、鶏肉の代わりに、別の食材を使ってみてはどうかと……」

 リリアナが提案してきたのは、森で採れる「ジャンボマッシュ」という巨大なキノコや、「ロックボア」という猪に似た魔物の肉だった。
 なるほど。テリヤキソースは汎用性が高い。鶏肉だけでなく、他の食材にも絶対に合うはずだ。新しいメニューを開発すれば、客を飽きさせず、さらに売上を伸ばせるかもしれない。

「いいじゃないか、それ! 面白そうだ。よし、明日は早起きして、二人で森に食材調達に行こう!」
「本当ですか!? ありがとうございます!」

 リリアナは、本当に嬉しそうに笑った。彼女も、この仕事にやりがいを感じてくれているようだ。

***

 翌日の早朝。俺とリリアナは、簡単な冒険者のような装備を整え、街の東門から森へと向かった。
 朝の森は、ひんやりとした空気が心地いい。鳥のさえずりを聞きながら歩いていると、なんだかピクニックに来たような気分になる。

「カイリ様、鑑定スキルは本当に便利ですね。これなら、毒キノコを採ってしまう心配もありません」
「だろ? 地味だけど、こういう時には役立つんだ」

 俺たちは鑑定スキルを駆使して、食べられるキノコや山菜を手際よく採取していく。アイテムボックスがあるので、どれだけ採っても持ち運びには困らない。
 しばらく進むと、開けた場所に出た。そこには、猪に似た、しかし牙がやたらと大きい魔物が数頭、地面を掘り返していた。

「あれが、ロックボア……!」

 リリアナが息をのむ。
 【ロックボア: レベル5。硬い皮膚を持つ猪型の魔物。気性が荒く、突進は岩をも砕く。肉は硬いが、うまく処理すれば美味】

『レベル5か……。今の俺たちじゃ、まともに戦ったら瞬殺されるな』

 だが、肉はぜひとも手に入れたい。どうしたものかと思案していると、ロックボアたちが何かに怯えたように、一斉に森の奥へと逃げていった。

「どうしたんだろう?」
「何かに、気づいたのでしょうか……」

 俺たちが顔を見合わせていると、茂みの中から、か細い鳴き声が聞こえてきた。

「きゅぅん……」

 声のする方へ、おそるおそる近づいてみる。茂みをかき分けると、そこにいたのは……。

「わ……!」

 リリアナが、小さく声を上げた。
 そこにいたのは、一匹の小さな生き物だった。子犬くらいの大きさで、全身が雪のように真っ白な毛で覆われている。狼のようにも見えるが、そのつぶらな瞳はあまりにも愛らしく、まったく威圧感がない。
 その小さな生き物は、足にひどい怪我をしているようで、動けずにうずくまっていた。その足元には、罠と思しき鉄製の道具が転がっている。さっきのロックボアたちは、この罠を仕掛けた狩人か何かの気配を察して逃げたのかもしれない。
 俺は、その白い生き物を鑑定してみた。
 【フェンリル(幼体): レベル???。神獣と呼ばれる伝説の狼。成体は天災級の力を持つとされるが、幼体は非力。風の魔力を操る。極度に衰弱している】

『フェンリル!? マジかよ!』

 ゲームや神話に出てくる、あの伝説の魔獣だ。レベルが「???」になっているのが、そのヤバさを物語っている。こんなのが、なんで森の浅いところに……。

「カイリ様、この子、ひどい怪我を……。可哀想に……」

 リリアナが、今にも泣きそうな顔で白い子狼を見つめている。

「きゅぅん、きゅぅん……」

 子狼は、苦しげに鳴きながら、俺たちを警戒するように小さくうなっている。だが、その瞳に敵意はないように見えた。

『どうする……。神獣なんて、関わったらろくなことにならなそうだ。でも、このまま見捨てるなんて……』

 俺の良心が、激しく葛藤する。
 リリアナは、もう決めているようだった。彼女はゆっくりと子狼に近づき、しゃがみ込むと、優しく語りかけた。

「大丈夫よ、怖くないわ。痛かったでしょう……。もう、大丈夫だからね」

 その声に安心したのか、子狼のうなり声が止んだ。リリアナは、自分のスカートの裾を破ると、手際よく子狼の足に応急処置を施していく。その姿は、まるで聖母のようだ。
 手当が終わると、リリアナは俺を振り返った。その瞳は、何かを強く訴えかけている。

「……はぁ。わかった、わかったよ」

 俺はため息をつき、降参とばかりに両手を上げた。

「この子、連れて帰ろう。俺たちの家で、面倒を見てやろう」
「カイリ様! ありがとうございます!」

 リリアナの顔が、ぱあっと明るくなる。
 俺はアイテムボックスからポーション(ギルドで念のために買っておいた安物だ)を取り出し、子狼の傷口に振りかけてやった。そして、汚れないように布でそっと包むと、慎重に抱きかかえる。
 子狼は、俺の腕の中でおとなしくしていた。むしろ、すり寄ってくるような仕草さえ見せる。

「お前、名前はないのか? うーん、そうだな……。フェンリルだから、『フェン』ってのはどうだ?」
「フェン……。可愛い名前ですね!」

 俺の呼びかけに、腕の中の子狼が「きゅん!」と嬉しそうに一声鳴いた。どうやら、気に入ってくれたらしい。
 こうして、俺たちの家族に、もふもふで真っ白な神獣が新たに加わることになった。
 ロックボアの肉は手に入らなかったが、それ以上に得がたい、かけがえのない出会い。
 俺は、腕の中で安心したように寝息を立て始めたフェンを見つめながら、なんだか温かい気持ちになっていた。
 これから、もっと賑やかになりそうだ。そんな予感を胸に、俺たちは新たな家族を連れて、街への帰路についたのだった。
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