過労死した天才外科医、医療レベルが低すぎる異世界に転生。魔法と現代知識を駆使して、呪いと呼ばれた病を次々治療し聖医と呼ばれる

黒崎隼人

文字の大きさ
11 / 15

第10話「偽りの英雄と、敵への施し」

 その日、野戦病院はこれまでで最も激しい戦闘による負傷者でごった返していた。俺も医療チームも、不眠不休で治療に当たっていた。
 そんな中、一人の伝令兵が駆け込んできた。

「申し上げます! 魔王軍の幹部、『黒翼のヴァルガス』を捕虜にしました! しかし、深手を負っており、虫の息です!」

 魔王軍の幹部。敵の重要人物だ。兵士たちは色めき立った。

「すぐに情報を聞き出すんだ!」
「いや、いっそ殺してしまえ!」

 殺気立つ兵士たちを、俺は制した。

「どけ。俺が診る」
「聖医様!? 何を言われるのですか! こいつは敵ですぞ!」
「黙れ。俺の前では、誰もがただの患者だ」

 俺の気迫に、兵士たちは道を開けた。担架の上には、漆黒の鎧を纏った魔族の男が横たわっていた。その胸には、魔法で焼かれた酷い傷がある。
 診察すると、内臓まで達するほどの重傷だった。このままでは、数時間ももたないだろう。

「手術の準備を」

 俺が静かに告げると、医療チームだけでなく、周りの兵士たちも凍りついた。

「正気ですか、カナタ先生! 敵を、それも幹部を助けるなど……!」

 エリアナまでもが、信じられないという顔で俺を見ている。

「俺は医者だ。目の前で死にかけている者を見捨てることはできない。それが人間だろうと、魔族だろうと、関係ない」

 俺の決意は固かった。反対を押し切り、俺はヴァルガスの緊急手術を開始した。
 それは、これまでで最も困難な手術の一つだった。魔族の体の構造は、人間とは微妙に違う。だが、医学的な基本原則は同じはずだ。俺は前世の知識を総動員し、慎重に治療を進めていく。

 手術が終盤に差し掛かった、その時だった。

「全員、武器を捨てろ! 聖医カナタを、国家反逆罪の容疑で捕縛する!」

 野戦病院に、武装した王国騎士団がなだれ込んできた。率いているのは、宰相ダリウスの息がかかった騎士団長だ。

「反逆罪……? 何かの間違いだ!」

 レオンが剣を抜き、俺の前に立ちはだかる。しかし、騎士団の数はあまりにも多い。

「聖医殿が魔王軍と内通している証拠は挙がっている! おとなしく投降しろ!」

 騎士団長が突きつけてきたのは、捏造された映像が映る魔法の水晶だった。俺は全てを理解した。これは、宰相ダリウスが仕組んだ罠だ。そして、俺が今、敵であるはずの魔王軍幹部を手術しているこの光景は、その「証拠」を裏付ける、最悪の状況証拠となっていた。

「待ってくれ! 話を聞いてくれ!」

 俺の叫びもむなしく、騎士団は俺を取り囲む。
 万事休すかと思われた、その瞬間。
 手術台の上で意識を取り戻したヴァルガスが、ゆっくりと身を起こした。そして、彼の背中から、巨大な黒い翼が広がる。

「……貴様が、私を助けたのか。人間の医者よ」

 ヴァルガスは状況を即座に理解したようだった。彼は鋭い目で騎士団長をにらみつけると、その場にいる全員に聞こえるような大声で言った。

「この者は、我ら魔族の敵ではない。もしこの者に指一本でも触れるなら、魔王様は王国全土への総攻撃を命じられるだろう」

 ヴァルガスの言葉に、騎士団は動揺する。敵の幹部が、なぜ俺をかばうのか。
 その隙に、レオンが叫んだ。

「カナタ、エリアナ! 今のうちに逃げろ!」

 レオンと、彼を慕う一部の兵士たちが、俺たちの逃げ道を作るために騎士団と対峙する。

「しかし!」
「ぐずぐずするな! あんたはこんな所で終わるべき人間じゃないだろ!」

 レオンの言葉に背中を押され、俺はエリアナの手を引いて、野戦病院の裏手から脱出した。
 味方であるはずの王国から追われ、敵であるはずの魔族に助けられる。皮肉な運命だった。
 俺は、英雄から一転、国賊となった。真実を明らかにし、宰相の陰謀を暴くための、孤独な逃亡劇が始まった。

あなたにおすすめの小説

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

王宮追放された没落令嬢は、竜神に聖女へ勝手にジョブチェンジさせられました~なぜか再就職先の辺境で、王太子が溺愛してくるんですが!?~

結田龍
恋愛
「小娘を、ひっ捕らえよ!」 没落令嬢イシュカ・セレーネはランドリック王国の王宮術師団に所属する水術師だが、宰相オズウェン公爵によって、自身の娘・公爵令嬢シャーロットの誘拐罪で王宮追放されてしまう。それはシャーロットとイシュカを敵視する同僚の水術師ヘンリエッタによる、退屈しのぎのための陰湿な嫌がらせだった。 あっという間に王都から追い出されたイシュカだが、なぜか王太子ローク・ランドリックによって助けられ、「今度は俺が君を助けると決めていたんだ」と甘く告げられる。 ロークとは二年前の戦争終結時に野戦病院で出会っていて、そこで聖女だとうわさになっていたイシュカは、彼の体の傷だけではなく心の傷も癒したらしい。そんなイシュカに対し、ロークは甘い微笑みを絶やさない。 あわあわと戸惑うイシュカだが、ロークからの提案で竜神伝説のある辺境の地・カスタリアへ向かう。そこは宰相から実権を取り返すために、ロークが領主として領地経営をしている場所だった。 王宮追放で職を失ったイシュカはロークの領主経営を手伝うが、ひょんなことから少年の姿をした竜神スクルドと出会い、さらには勝手に聖女と認定されてしまったのだった。 毎日更新、ハッピーエンドです。完結まで執筆済み。 恋愛小説大賞にエントリーしました。

ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます

黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。 だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ! 捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……? 無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

​「役立たず」と捨てられた仮面聖女、隣国の冷徹皇帝に拾われて真の力が目醒める〜今さら戻ってこいと言われても溺愛されすぎて忙しいので無理です

まさき
恋愛
​「役立たずの偽聖女め、その不気味な仮面ごと消えてしまえ!」 ​十年もの間、仮面で素顔を隠し、身代わり聖女として国を支えてきたリゼット。 しかし、異母妹が聖女として目醒めたことで、婚約者の第一王子から婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。 ​捨てられた先は、凶悪な魔獣が跋扈する『死の森』。 死を覚悟したリゼットだったが、仮面の下の本音は違った。 ​(……あー、やっとあのブラック職場からおさらばですわ! さっさと滅びればいいんですわ、あんな国!) ​清々した気持ちで毒を吐くリゼットの前に現れたのは、隣国の冷徹皇帝・ガイウス。 彼はリゼットの仮面の下に隠された「強大すぎる魔力」と、表の顔とは裏腹な「苛烈な本性」を瞬時に見抜き、強引に連れ去ってしまう。 ​「気に入った。貴様は今日から、私のものだ」 ​バルディア帝国へと連行されたリゼットを待っていたのは、冷徹なはずの皇帝からの、逃げ場のない過保護な溺愛だった……。 ​一方、真の聖女(リゼット)を失った王国は、守護の結界が崩壊し絶体絶命の危機に陥る。 「戻ってきてくれ」と泣きつく王子たちに対し、皇帝の腕の中に収まったリゼットは、極上のスイーツを頬張りながら優雅に言い放つ。 ​「お断りいたしますわ。私、今とっても忙しい(溺愛されている)んですもの」 ​仮面の下で毒を吐くリアリスト聖女と、彼女を離さない執着皇帝の、大逆転溺愛ファンタジーが開幕! ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~

リーフレット
ファンタジー
​「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」 ​帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。 アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。 ​帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。 死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。 ​「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」

【完結】竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも
恋愛
転生したのは、web小説の世界だった。物語が始まる前の時間、隣国の竜王へ嫁ぐ薄幸の王女、デジレに。 結婚相手である竜王ワッツァは、冷酷非道で人間を蔑む恐ろしい竜人だ。彼はデジレを、半竜(半分竜で半分人間)である息子の養育係としかみていない。けれどその息子バートラフこそ、前世の「わたし」の最オシだった。 この世界のバートラフはまだ5歳。懸命に悪ガキぶっているけど、なんてかわいいの!? 小説のバートラフは、闇落ちして仲間の騎士たちに殺されてしまうけど、そんな未来は、絶対に許さないんだから!  幼いバートラフに対する、愛情いっぱいの子育ての日々が始まる。やがて彼の成竜への通過儀礼を経て、父の竜王は、デジレに対して執着を見せ始める。 ところが、竜と人間の戦争が始まってしまう。おとなになったバートラフは人間側につき、聖女の騎士団に入った。彼は、父の竜王に刃を向けられるのか? そして、転生者デジレに与えられたスキル「プロットを破断する者」を、彼女はどう発動させるのか。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。