元悪役令嬢、偽聖女に婚約破棄され追放されたけど、前世の農業知識で辺境から成り上がって新しい国の母になりました

黒崎隼人

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第14章:辺境防衛戦と、女神の采配

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 一万の王国軍が辺境領に迫っている――その報は、すぐさまロゼリアの元にもたらされた。領民たちの間に動揺が走るが、ロゼリアは冷静だった。
「皆さん、恐れることはありません。私たちは、私たちの手で築いた故郷を、私たちの手で守るのです」
 政庁の広場に集まった領民たちの前で、ロゼリアは高らかに宣言した。その堂々たる姿に、人々は不安を振り払い、決意の表情を浮かべる。彼らはもはや、ただの農民ではない。自分たちの土地と家族を守るためなら、武器を取って戦う覚悟を持った、誇り高き民だった。
 辺境防衛戦の幕が切って落とされた。ロゼリアは、指導者として防衛の全指揮を執った。彼女の頭の中には、この土地の地形が、まるで掌にあるかのようにインプットされている。
「敵は数で勝り、練度も高い。まともに平野でぶつかれば、一瞬で蹂躙されるわ。私たちの武器は、この土地そのものよ」
 ロゼリアの作戦は、徹底したゲリラ戦と焦土作戦だった。
 まず、彼女はカイが率いる領民兵に命じ、王国軍が進軍してくるであろう谷間の街道に、無数の罠を仕掛けさせた。巧妙に隠された落とし穴、崖の上からの投石、狭い道でのバリケード。地の利を完璧に熟知した彼らは、神出鬼没に現れては王国軍の先鋒を攻撃し、すぐに森の奥へと姿を消した。
 王国軍は、本格的な戦闘に入る前から、じわじわと兵力を削られ、兵士たちの士気も著しく低下していった。
 一方、ゲオルグが率いるのは、バルトロ辺境伯の私兵と、腕に覚えのある領民たちで構成された少数精鋭の騎士団だ。彼らは、ロゼリアの指示通り、敵の最も脆弱な部分――補給部隊を狙った。
 ロゼリアは、前世の歴史から、大軍の弱点が兵站にあることを痛いほど理解していた。「戦争は、腹が減ってはできぬものよ」。彼女の指示は的確だった。ゲオルグの部隊は、夜陰に乗じて何度も奇襲をかけ、王国軍の食糧や物資を運ぶ部隊を叩きのめした。
 王国軍の総大将であるアルフォンスは、苛立ちを募らせていた。敵の姿はほとんど見えないのに、味方の被害だけが増えていく。進軍は遅々として進まず、兵士たちの間には疲労と不満が蔓延し始めていた。
「ええい、臆病者め! 姿を現せ、ロゼリア!」
 彼がどれだけ叫んでも、ロゼリアは決して前線には出てこない。彼女は、後方の指揮所で戦況の全てを把握し、冷静に次の手を打っていた。その采配は、まるで未来を予知しているかのようだと、味方の誰もが舌を巻いた。人々は、彼女を「豊穣の女神」だけでなく、「戦の女神」としても崇めるようになっていた。
 防衛戦が始まって十日が過ぎた。王国軍は、辺境領の中心部にたどり着くことすらできず、補給もままならない状況で、完全に立ち往生していた。アルフォンスは、自分が有利なはずの戦場で、見えない敵に翻弄され、じわじわと首を絞められていることに、ようやく気づき始めていた。だが、もう遅かった。彼の軍は、すでにロゼリアの張り巡らせた蜘蛛の巣に、完全にかかっていたのだ。
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