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第15章:王都の崩壊と、哀れな聖女の末路
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アルフォンスが、辺境での意味のない戦に固執し、身動きが取れなくなっている間。王都では、ついに抑えられていた不満が、大規模な爆発を起こしていた。
きっかけは、ヴェルフェン公爵をはじめとする、良識派の大貴族たちが起こしたクーデターだった。
彼らは、もはやアルフォンス王子と聖女リナに国を任せてはおけないと判断した。リナが隣国のスパイであり、王国の混乱を招いていたという決定的な証拠(ロゼリアが密かにヴェルフェン公爵に送っていた情報だ)を突きつけ、国王に聖断を迫ったのだ。
老齢の国王は、息子の愚かさと、自分がリナの嘘を見抜けなかったことを嘆き、退位を決断。ヴェルフェン公爵を中心とする暫定評議会に、国の全権を委任した。
クーデターは、瞬く間に成功した。アルフォンス派の貴族たちは次々と粛清され、リナは全ての罪が白日の下に晒された。
「聖女は偽物だった!」
「我々を騙し、隣国に国を売ろうとしていた悪女だ!」
真実を知った民衆の怒りは、凄まじかった。彼らは神殿に押し寄せ、リナを吊るし上げようとした。リナは、わずかな手下と共に、命からがら王都を脱出する。もはや彼女に、聖女の威厳も、可憐な少女の面影もなかった。あるのは、恐怖に歪んだ醜い顔だけだ。
彼女は、最後の頼みの綱である隣国、ガルバニア帝国を目指して逃亡した。しかし、帝国も、もはや価値のなくなった彼女を助けるつもりはなかった。国境付近で、リナは帝国の兵士にあっさりと捕縛される。彼女の末路がどうなったか、エルグランド王国に伝わることはなかった。おそらく、全ての秘密を闇に葬るため、静かに処理されたのだろう。哀れな偽りの聖女は、誰にも知られることなく、その生涯を終えた。
一方、前線で孤立していたアルフォンスの元にも、ついに王都陥落の報が届いた。
父王は退位し、ヴェルフェン公爵が実権を握り、リナは国賊として追われる身となった。自分が信じていた全てが、足元から崩れ落ちていく。
「そん、な……馬鹿な……リナが……父上が……」
大義名分を失い、味方であるはずの王都からも見捨てられたアルフォンス軍は、完全に崩壊した。兵士たちは次々と武器を捨てて逃げ出し、あるいは辺境領に投降した。
数日後、たった一人の捕虜として、アルフォンスはロゼリアの前に引き出された。
彼は、ぼろぼろの鎧をまとい、虚ろな目で地面を見つめていた。かつての傲慢な王太子の姿は、どこにもない。ただの、全てを失った惨めな男がそこにいるだけだった。
ロゼリアは、静かに彼を見下ろした。その瞳に、憎しみや侮蔑の色はなかった。あるのは、深い憐れみだけだ。
「アルフォンス殿下。あなたの戦争は、終わりました」
その言葉は、彼が始めた愚かな物語の、完全な終焉を告げていた。
きっかけは、ヴェルフェン公爵をはじめとする、良識派の大貴族たちが起こしたクーデターだった。
彼らは、もはやアルフォンス王子と聖女リナに国を任せてはおけないと判断した。リナが隣国のスパイであり、王国の混乱を招いていたという決定的な証拠(ロゼリアが密かにヴェルフェン公爵に送っていた情報だ)を突きつけ、国王に聖断を迫ったのだ。
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「聖女は偽物だった!」
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一方、前線で孤立していたアルフォンスの元にも、ついに王都陥落の報が届いた。
父王は退位し、ヴェルフェン公爵が実権を握り、リナは国賊として追われる身となった。自分が信じていた全てが、足元から崩れ落ちていく。
「そん、な……馬鹿な……リナが……父上が……」
大義名分を失い、味方であるはずの王都からも見捨てられたアルフォンス軍は、完全に崩壊した。兵士たちは次々と武器を捨てて逃げ出し、あるいは辺境領に投降した。
数日後、たった一人の捕虜として、アルフォンスはロゼリアの前に引き出された。
彼は、ぼろぼろの鎧をまとい、虚ろな目で地面を見つめていた。かつての傲慢な王太子の姿は、どこにもない。ただの、全てを失った惨めな男がそこにいるだけだった。
ロゼリアは、静かに彼を見下ろした。その瞳に、憎しみや侮蔑の色はなかった。あるのは、深い憐れみだけだ。
「アルフォンス殿下。あなたの戦争は、終わりました」
その言葉は、彼が始めた愚かな物語の、完全な終焉を告げていた。
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