17 / 21
第16章:アグリア公国の誕生、そして永遠の誓い
しおりを挟む
戦争は終わった。エルグランド王国は、クーデターと自滅によって、事実上崩壊した。ヴェルフェン公爵が率いる暫定評議会は、旧王国の立て直しに追われ、もはや辺境領に干渉する力も、意思もなかった。
辺境伯領は、この戦争に勝利したことで、誰からも干渉されない、事実上の独立国家となった。
バルトロ辺境伯をはじめ、周辺の領主たち、そして領民の誰もが、一つのことを確信していた。この新しい時代を導くことができるのは、ロゼリア・フォン・ヴェルフェン、その人しかいないと。
領地の中央広場に、巨大な舞台が設けられた。そこに集まった全ての領民が見守る中、バルトロ辺境伯が、代表としてロゼリアの前にひざまずいた。
「ロゼリア様! 貴女様こそ、我らが新しい国の指導者にふさわしいお方です! どうか、我らの女王として、この国を統治してください!」
「女王陛下!」「女王陛下!」と、地鳴りのような歓声が巻き起こる。
しかし、ロゼリアは静かに首を振った。そして、隣に立つカイの手を取った。
「皆さん、聞いてください。私がこの地で成し遂げたことがあるとすれば、それは私一人の力ではありません。この土地の声を誰よりも知る、この人、カイ・シルベストリがいてくれたからです」
彼女は、カイこそが、かつてこの地を治めていた正統な後継者であることを皆に告げた。
「そして、私が女王になるべきではありません。なぜなら、私には王家の血は流れていないからです。しかし、カイにはこの地を守り続けてきた、領主の血が流れています。新しい国の王にふさわしいのは、彼をおいて他にいません」
民衆は、最初は戸惑ったが、すぐにロゼリアの真意を理解した。彼女の謙虚さと、カイへの深い信頼。そして、カイがこれまで領民のために尽くしてきた姿を、誰もが知っていた。
歓声は、やがてカイの名を呼ぶ声に変わっていった。
「カイ様こそ、我らの王だ!」「カイ国王、万歳!」
民衆の熱狂的な支持を受け、カイは、少し戸惑いながらも、覚悟を決めた顔で一歩前に出た。彼は、農業を意味する古い言葉から、新しい国の名を「アグリア公国」とすることを宣言した。そして、初代公王として即位することを、民衆の前で誓った。
戴冠式が終わり、熱狂が最高潮に達したその時。初代公王となったカイは、民衆が見守る前で、ロゼリアに向き直り、彼女の前に片膝をついた。
「ロゼリア・フォン・ヴェルフェン。いや、ロゼリア。私の、たった一人の女神よ」
彼は、ロゼリアの手を取り、その瞳をまっすぐに見つめた。
「私が王になれたのは、貴女がいたからだ。この国があるのは、貴女がいてくれたからだ。だから、どうか……私の妃として、そして、このアグリア公国の母として、永遠に私の隣で、共に歩んでほしい」
それは、国の創生を祝う場で捧げられた、公王からのプロポーズだった。
ロゼリアの瞳から、大粒の涙が溢れた。彼女は、これ以上ないほどの幸福感に包まれながら、震える声で答えた。
「はい……喜んで。カイ、私の、たった一人の王様」
彼女は涙と共に、最高の笑顔で頷いた。
二人は、万雷の拍手と祝福の中で、固く、固く結ばれる。悪役令嬢として追放された一人の女性が、全ての逆境を乗り越え、新しい国の母となった瞬間だった。彼女の物語は、最高のハッピーエンドを迎えたのだ。
辺境伯領は、この戦争に勝利したことで、誰からも干渉されない、事実上の独立国家となった。
バルトロ辺境伯をはじめ、周辺の領主たち、そして領民の誰もが、一つのことを確信していた。この新しい時代を導くことができるのは、ロゼリア・フォン・ヴェルフェン、その人しかいないと。
領地の中央広場に、巨大な舞台が設けられた。そこに集まった全ての領民が見守る中、バルトロ辺境伯が、代表としてロゼリアの前にひざまずいた。
「ロゼリア様! 貴女様こそ、我らが新しい国の指導者にふさわしいお方です! どうか、我らの女王として、この国を統治してください!」
「女王陛下!」「女王陛下!」と、地鳴りのような歓声が巻き起こる。
しかし、ロゼリアは静かに首を振った。そして、隣に立つカイの手を取った。
「皆さん、聞いてください。私がこの地で成し遂げたことがあるとすれば、それは私一人の力ではありません。この土地の声を誰よりも知る、この人、カイ・シルベストリがいてくれたからです」
彼女は、カイこそが、かつてこの地を治めていた正統な後継者であることを皆に告げた。
「そして、私が女王になるべきではありません。なぜなら、私には王家の血は流れていないからです。しかし、カイにはこの地を守り続けてきた、領主の血が流れています。新しい国の王にふさわしいのは、彼をおいて他にいません」
民衆は、最初は戸惑ったが、すぐにロゼリアの真意を理解した。彼女の謙虚さと、カイへの深い信頼。そして、カイがこれまで領民のために尽くしてきた姿を、誰もが知っていた。
歓声は、やがてカイの名を呼ぶ声に変わっていった。
「カイ様こそ、我らの王だ!」「カイ国王、万歳!」
民衆の熱狂的な支持を受け、カイは、少し戸惑いながらも、覚悟を決めた顔で一歩前に出た。彼は、農業を意味する古い言葉から、新しい国の名を「アグリア公国」とすることを宣言した。そして、初代公王として即位することを、民衆の前で誓った。
戴冠式が終わり、熱狂が最高潮に達したその時。初代公王となったカイは、民衆が見守る前で、ロゼリアに向き直り、彼女の前に片膝をついた。
「ロゼリア・フォン・ヴェルフェン。いや、ロゼリア。私の、たった一人の女神よ」
彼は、ロゼリアの手を取り、その瞳をまっすぐに見つめた。
「私が王になれたのは、貴女がいたからだ。この国があるのは、貴女がいてくれたからだ。だから、どうか……私の妃として、そして、このアグリア公国の母として、永遠に私の隣で、共に歩んでほしい」
それは、国の創生を祝う場で捧げられた、公王からのプロポーズだった。
ロゼリアの瞳から、大粒の涙が溢れた。彼女は、これ以上ないほどの幸福感に包まれながら、震える声で答えた。
「はい……喜んで。カイ、私の、たった一人の王様」
彼女は涙と共に、最高の笑顔で頷いた。
二人は、万雷の拍手と祝福の中で、固く、固く結ばれる。悪役令嬢として追放された一人の女性が、全ての逆境を乗り越え、新しい国の母となった瞬間だった。彼女の物語は、最高のハッピーエンドを迎えたのだ。
31
あなたにおすすめの小説
「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。
腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。
魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。
多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~
汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。
――というのは表向きの話。
婚約破棄大成功! 追放万歳!!
辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19)
第四王子の元許嫁で転生者。
悪女のうわさを流されて、王都から去る
×
アル(24)
街でリリィを助けてくれたなぞの剣士
三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
「さすが稀代の悪女様だな」
「手玉に取ってもらおうか」
「お手並み拝見だな」
「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」
**********
※他サイトからの転載。
※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
侯爵令嬢は追放され、他国の王子様に溺愛されるようです
あめり
恋愛
アーロン王国の侯爵令嬢に属しているジェーンは10歳の時に、隣国の王子であるミカエル・フォーマットに恋をした。知性に溢れる彼女は、当時から内政面での書類整理などを担っており、客人として呼ばれたミカエルとも親しい関係にあった。
それから7年の月日が流れ、相変わらず内政面を任せられている彼女は、我慢の限界に来ていた。
「民への重税……王族達いい加減な政治にはついて行けないわ」
彼女は現在の地位を捨てることを決意した。色々な計略を経て、王族との婚約を破断にさせ、国家追放の罪を被った。それも全て、彼女の計算の上だ。
ジェーンは隣国の王子のところへと向かい、寵愛を受けることになる。
婚約破棄ありがとうございます! やりたかった薬草配りができて幸せです
er
ファンタジー
婚約破棄された侯爵令嬢フィリアは、亡き母の遺志を継ぎ薬草師として貧民街で無償治療を始める。しかし悪徳商会に告発され裁判に。協力を申し出た第二王子レオニードは、彼女を商会を潰す「囮」として利用するつもりだった。だが、誰にでも分け隔てなく優しいフィリアの純粋さに触れ、次第に心を動かされていく。
追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!
六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。
家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能!
「ここなら、自由に生きられるかもしれない」
活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。
「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる