元悪役令嬢、偽聖女に婚約破棄され追放されたけど、前世の農業知識で辺境から成り上がって新しい国の母になりました

黒崎隼人

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エピローグ:女神の微笑みと、温かな家族の食卓

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 アグリア公国建国から、五年。
 かつて「灰色の谷」と呼ばれた場所は、今や緑豊かな美しい公国の首都「アグリア」として、目覚ましい発展を遂げていた。街道は整備され、市場は活気に満ち、人々の笑い声が絶えない平和な日々が流れている。
 公王カイとその妃ロゼリアは、国民から「父」「母」として深く敬愛されていた。カイは実直な政治で国を安定させ、ロゼリアは持ち前の知識で農業や教育の発展を支え続けている。
 そして、二人の間には、三歳になる愛らしい王子も生まれていた。父カイ譲りの鳶色の瞳と、母ロゼリア譲りの輝く金色の髪を持つ、国の宝だ。
 ある日の夕暮れ。公国の城にある、王族のプライベートな食堂では、温かな夕食の準備が整っていた。食卓に並ぶのは、豪華絢爛な料理ではない。公国の畑で採れたばかりの新鮮な野菜をふんだんに使った、素朴だが心のこもった料理ばかりだ。艶やかに輝くポタトのグラタン、色とりどりの野菜サラダ、そして湯気の立つ具沢山のスープ。
「母上、これ、おいしい!」
 小さな王子が、ロゼリアが作ったスープを嬉しそうに頬張っている。その姿を、カイが父親の優しい目で見守っていた。
「ロゼリア、お前が作るスープは、世界一だな」
「まあ、お上手ですこと、陛下」
 ロゼリアは悪戯っぽく微笑みながら、夫と息子の皿にサラダを取り分ける。
 ごく普通の、ありふれた家族の光景。だが、これこそが、ロゼリアが何よりも手に入れたかった宝物だった。
 王宮での華やかだが偽りに満ちた日々でもなく、悪役令嬢という与えられた役でもない。愛する夫と、愛しい我が子に囲まれて過ごす、この穏やかで温かい時間。
 ふと窓の外に目をやると、夕焼けに染まる豊かな国土が広がっていた。あの絶望の地から始まった物語が、こんなにも幸せな今に繋がっていることが、まるで奇跡のように感じられた。
 ロゼリアは、心からの幸福を噛みしめる。
(私の居場所は、ここにあったのね)
 かつての悪役令嬢は、過去の全てを乗り越え、かけがえのない家族と、守るべき国を手に入れた。食卓を囲む彼女の微笑みは、まさに国全体を優しく照らし出す、太陽そのものだった。
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