5 / 13
第4話「地上げ屋(?)登場!私の店は私が守る!」
しおりを挟む
騎士団御用達の不思議な食堂。その噂は、王都を駆け巡るうちに尾ひれがつき、良からぬ者たちの耳にも届いてしまった。
ある日の夜。開店準備を進めていたところ、店の扉が乱暴に開かれた。入ってきたのは、見るからに悪徳商人といった風情の肥えた男と、その用心棒らしき屈強な男たちだった。
「ここが噂の食堂か。なるほど、なかなか趣のある作りだ」
商人は値踏みするような視線で店内を見回し、梓に向かって高圧的に言い放った。
「俺は王都で商売をしているバルガスという者だ。単刀直入に言おう。この店を我々に譲渡してもらいたい。もちろん、相応の対価は支払う」
その後ろには、この国の実権を狙うヴァルター宰相の影がちらついている。宰相は、騎士団の強化に繋がるこの店の力を、自分のものにしようと画策していたのだ。
「お断りします。この店は、私にとって大切な場所なので」
梓が毅然とした態度で断ると、バルガスの顔が歪んだ。
「ほう。賢明ではないな。後悔することになるぞ」
捨て台詞を残して彼らが去った翌日から、陰湿な嫌がらせが始まった。王都から仕入れていた肉や野菜、小麦粉といった食材が、一切店に届かなくなったのだ。どの業者に連絡しても、バルガス様の命令で卸せないと断られてしまう。
現代のスーパーで買い出しをして持ち込むにも、毎日大勢の冒険者や騎士たちの胃袋を満たすほどの量となれば、梓一人の力と資金では限界があった。
食材がなければ、料理は作れない。食堂は、開店休業状態に追い込まれてしまった。
「私のせいで……」
カウンターに突っ伏し、落ち込む梓。そんな彼女の頭を、小さな手が優しく撫でた。
「アズサ様、元気だして。リリィがなんとかする!」
そう言うと、リリィは自慢の猫耳をぴんと立て、鼻をくんくんとさせた。
「森に行こう! リリィの鼻なら、美味しいもの、いっぱい見つけられるもん!」
その言葉に、梓ははっと顔を上げた。そうだ、この世界には豊かな自然がある。それに、私には現代から持ち込んだ食材もあるじゃないか。
***
翌日、梓とリリィは二人で森へ向かった。リリィの鋭い嗅覚は本物だった。香り高いキノコや、甘い木の実、滋養のある薬草などを次々と見つけ出す。まるで宝探しみたいだ、と二人は夢中になった。
食堂に戻った梓は、森の恵みと、日本から持ってきた秘密兵器である切り干し大根や高野豆腐、ひじきといった乾物を組み合わせることにした。
スキル【絶対味覚の調理人】は、未知の食材の最適な調理法すら閃かせてくれる。
森のキノコと薬草、そして切り干し大根を煮込んだスープ。高野豆腐を異世界の鳥の出汁でじっくりと煮含めた、優しい味の煮物。
完成した新メニューを【鑑定】してみると、驚くべき効果が表示された。
【森の恵みと乾物の滋養スープ:効果・滋養強壮(大)、魔力回復(中)】
「これなら……!」
肉やパンがなくても、お客さんを満足させられるかもしれない。
その日の夜、店を開けると、事情を知らない冒険者たちがやってきた。
「お、今日は肉料理はないのか?」
「すみません、今日は森の恵みを使った特別メニューなんです」
半信半疑でスープを口にした冒険者たちは、次の瞬間、目を見開いた。
「な、なんだこれ! 身体の奥から力が湧いてくる!」
「魔力が回復していく……! ポーションよりすごいぞ!」
新メニューは、たちまち冒険者たちの間で大評判となった。肉体や魔力を酷使する彼らにとって、安くて美味しく、絶大な効果を持つ梓の料理は、まさに命綱だったのだ。
危機を乗り越え、店が再び活気を取り戻したその時、店の扉が勢いよく開いた。
「アズサ、無事か!」
そこに立っていたのは、事情を知って任務先から駆けつけた、鬼の形相のジークフリートだった。
「お前たちか。アズサの店にちょっかいを出したというのは」
彼の背後で青ざめるバルガスたちを一瞥し、ジークフリートは静かに剣の柄に手をかける。騎士団長の本気の怒りを前に、商人たちは悲鳴をあげて逃げ出していった。
「ジークさん……」
駆けつけてくれた彼の姿に、梓は心からの安堵を覚える。
「すまない。俺がもっと早く気づいていれば……」
「ううん、大丈夫。私の店は、私とリリィで守ったから」
誇らしげに胸を張る梓と、その隣で得意げに尻尾を揺らすリリィを見て、ジークフリートは知らず知らずのうちに、その口元を緩ませるのだった。
ある日の夜。開店準備を進めていたところ、店の扉が乱暴に開かれた。入ってきたのは、見るからに悪徳商人といった風情の肥えた男と、その用心棒らしき屈強な男たちだった。
「ここが噂の食堂か。なるほど、なかなか趣のある作りだ」
商人は値踏みするような視線で店内を見回し、梓に向かって高圧的に言い放った。
「俺は王都で商売をしているバルガスという者だ。単刀直入に言おう。この店を我々に譲渡してもらいたい。もちろん、相応の対価は支払う」
その後ろには、この国の実権を狙うヴァルター宰相の影がちらついている。宰相は、騎士団の強化に繋がるこの店の力を、自分のものにしようと画策していたのだ。
「お断りします。この店は、私にとって大切な場所なので」
梓が毅然とした態度で断ると、バルガスの顔が歪んだ。
「ほう。賢明ではないな。後悔することになるぞ」
捨て台詞を残して彼らが去った翌日から、陰湿な嫌がらせが始まった。王都から仕入れていた肉や野菜、小麦粉といった食材が、一切店に届かなくなったのだ。どの業者に連絡しても、バルガス様の命令で卸せないと断られてしまう。
現代のスーパーで買い出しをして持ち込むにも、毎日大勢の冒険者や騎士たちの胃袋を満たすほどの量となれば、梓一人の力と資金では限界があった。
食材がなければ、料理は作れない。食堂は、開店休業状態に追い込まれてしまった。
「私のせいで……」
カウンターに突っ伏し、落ち込む梓。そんな彼女の頭を、小さな手が優しく撫でた。
「アズサ様、元気だして。リリィがなんとかする!」
そう言うと、リリィは自慢の猫耳をぴんと立て、鼻をくんくんとさせた。
「森に行こう! リリィの鼻なら、美味しいもの、いっぱい見つけられるもん!」
その言葉に、梓ははっと顔を上げた。そうだ、この世界には豊かな自然がある。それに、私には現代から持ち込んだ食材もあるじゃないか。
***
翌日、梓とリリィは二人で森へ向かった。リリィの鋭い嗅覚は本物だった。香り高いキノコや、甘い木の実、滋養のある薬草などを次々と見つけ出す。まるで宝探しみたいだ、と二人は夢中になった。
食堂に戻った梓は、森の恵みと、日本から持ってきた秘密兵器である切り干し大根や高野豆腐、ひじきといった乾物を組み合わせることにした。
スキル【絶対味覚の調理人】は、未知の食材の最適な調理法すら閃かせてくれる。
森のキノコと薬草、そして切り干し大根を煮込んだスープ。高野豆腐を異世界の鳥の出汁でじっくりと煮含めた、優しい味の煮物。
完成した新メニューを【鑑定】してみると、驚くべき効果が表示された。
【森の恵みと乾物の滋養スープ:効果・滋養強壮(大)、魔力回復(中)】
「これなら……!」
肉やパンがなくても、お客さんを満足させられるかもしれない。
その日の夜、店を開けると、事情を知らない冒険者たちがやってきた。
「お、今日は肉料理はないのか?」
「すみません、今日は森の恵みを使った特別メニューなんです」
半信半疑でスープを口にした冒険者たちは、次の瞬間、目を見開いた。
「な、なんだこれ! 身体の奥から力が湧いてくる!」
「魔力が回復していく……! ポーションよりすごいぞ!」
新メニューは、たちまち冒険者たちの間で大評判となった。肉体や魔力を酷使する彼らにとって、安くて美味しく、絶大な効果を持つ梓の料理は、まさに命綱だったのだ。
危機を乗り越え、店が再び活気を取り戻したその時、店の扉が勢いよく開いた。
「アズサ、無事か!」
そこに立っていたのは、事情を知って任務先から駆けつけた、鬼の形相のジークフリートだった。
「お前たちか。アズサの店にちょっかいを出したというのは」
彼の背後で青ざめるバルガスたちを一瞥し、ジークフリートは静かに剣の柄に手をかける。騎士団長の本気の怒りを前に、商人たちは悲鳴をあげて逃げ出していった。
「ジークさん……」
駆けつけてくれた彼の姿に、梓は心からの安堵を覚える。
「すまない。俺がもっと早く気づいていれば……」
「ううん、大丈夫。私の店は、私とリリィで守ったから」
誇らしげに胸を張る梓と、その隣で得意げに尻尾を揺らすリリィを見て、ジークフリートは知らず知らずのうちに、その口元を緩ませるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる