過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました

黒崎隼人

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第7話「聖獣の怒りと代官の末路」

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 山のような巨体となった聖獣フェンを前に、ゲッコー代官とその兵士たちは完全に戦意を喪失していた。恐怖に顔を引きつらせ、誰もがその場から一歩も動けずにいる。

「ひ、ひぃぃぃ……! な、なんだこいつは……化け物か……!」

 ゲッコーは地面にへたり込んだまま、無様に後ずさった。彼の傲慢な態度は見る影もない。

 カイトはそんな彼らを冷ややかに見下ろしながら、静かに告げた。

「ここは、俺たちの町だ。お前たちのような悪党に好き勝手させる場所じゃない。今すぐ立ち去れ」

 しかしゲッコーは強欲なだけでなく、愚かでもあった。恐怖に震えながらも、目の前の富を諦めきれないらしい。

「お、おのれ、小僧……! たかが獣一匹に脅されて、この私が引き下がるとでも思うか! や、やれ! 皆でかかれば、こんな図体のでかいだけの犬ころなど、どうということはない!」

 兵士たちはお互いの顔を見合わせ、明らかに尻込みしている。しかし代官の命令は絶対だ。数人の兵士が、震える足で鬨の声を上げフェンに向かって剣を構えて突撃してきた。

「グルォォォォォッ!」

 フェンは天を揺るがすほどの雄叫びを上げた。それは単なる威嚇ではなかった。聖獣の咆哮には魔力が込められている。音の衝撃波が兵士たちを襲い、彼らはまるで木の葉のように吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。剣や鎧は砕け散り、兵士たちは気を失って動かなくなる。

 フェンは誰一人傷つけてはいない。ただ、その圧倒的な力の差を見せつけただけだった。

 残りの兵士たちは、その光景に完全に心を折られた。武器を投げ捨て、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。

「ま、待て! お前たち! 私を置いていくな!」

 ゲッコーが情けない悲鳴を上げるが、もはや誰も彼の言うことなど聞かない。あっという間にその場に残されたのは、カイトたち町の人々と腰を抜かして動けないゲッコー代官だけになった。

 フェンは巨大な顔をゲッコーに近づけ、牙を剥き出しにして唸り声を上げる。その鼻息だけで、ゲッコーの体は吹き飛ばされそうになった。

「ひぃぃ! た、助けてくれ! 命だけは! 命だけはお助けを!」

 ゲッコーは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、必死に命乞いを始めた。

 カイトはそんな彼に、静かな怒りを込めて問いかけた。

「お前は、この町の人々の命と暮らしを奪おうとした。それを許されると思うのか?」

「も、申し訳ありませんでした! 私が、私が全て間違っておりました! 税の件は撤回いたします! ですから、どうか……!」

「謝って済む問題じゃない」

 カイトが冷たく言い放つと、ゲッコーの顔が絶望に染まった。

 その時、町の背後から新たな一団が近づいてくるのが見えた。それはミーナが手配した商業ギルドの警備隊と、彼女が連絡を取っていた正規の王国騎士団の一隊だった。

「カイト! 遅くなってごめん!」

 ミーナが馬から飛び降りて駆け寄ってくる。

「代官の悪行の証拠は、全部ギルドで集めておいたんだ。これで王都に訴えれば、あいつはおしまいだよ!」

 王国騎士団を率いる隊長が、威厳のある声でゲッコーに告げる。

「ゲッコー子爵! 貴殿を、領民への不当な搾取および度重なる職権濫用の容疑で拘束する! おとなしく投降しなさい!」

 騎士たちに取り押さえられ、ゲッコーは最後の悪あがきとばかりに叫んだ。

「は、離せ! 私は貴族だぞ! こんな田舎の者どもの言い分など、誰が信じるものか!」

「残念だったな、ゲッコー。あんたの悪事は、あんたが思っているよりずっと王都に知れ渡ってるんだよ」

 ミーナが冷たく言い放つ。彼女の商業ギルドの情報網は、すでにゲッコーの不正の証拠を山のように掴んでいたのだ。

 縄を打たれ、連行されていくゲッコーはカイトを怨嗟の目で見つめていたが、カイトはもう彼に関心を払わなかった。

 ゲッコー代官が去った後、町は大きな歓声に包まれた。人々は抱き合い、自分たちの手で町を守り抜いたことを喜び合った。

 カイトは元の可愛らしい子犬の姿に戻ったフェンの頭を、優しく撫でた。

「ありがとう、フェン。お前がいなければ、どうなっていたか」

 フェンは嬉しそうに、カイトの手に顔をすり寄せた。

 この一件は、すぐに王都へと報告された。辺境の小さな町が聖獣の力を借りて悪代官を撃退したという話は、尾ひれがついて王宮の貴族たちの間でも大きな話題となった。

 そしてこの出来事は、ヴェルデの町とカイトの運命を、王国の中心へと引き寄せる大きなきっかけとなる。

 カイト自身は、ただ平穏な日常が戻ってきたことに安堵していた。しかし彼の知らないところで、運命の歯車はすでに大きく、そして急速に回り始めていたのだった。
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