婚約破棄＆追放コンボを決められた悪役令嬢ですが、前世の園芸知識と植物魔法で辺境を開拓したら、領地経営が楽しすぎる！

第13話「商業ギルドの来訪」

　枯れ谷の急成長と、そこに集まる富の噂を、商業ギルドが無視できるはずもなかった。
　やがて、ギルドマスター自らが率いる、正式な視察団が枯れ谷へと派遣されてきた。

　ギルドマスターのゲルトは、恰幅のいい中年男性で、その目は抜け目のない商人のそれだった。
　彼は、枯れ谷が荒れ地だという報告しか受けていなかったため、目の前に広がる光景に唖然としていた。

　整然と区画された豊かな畑。活気にあふれ、珍しい商品が並ぶ市場。そして、希望に満ちた表情で働く領民たち。
　これが、あの見捨てられた「枯れ谷」だとは、到底信じられなかった。

「これは……驚きましたな。イザベラ様、一体どのような魔法を使われたのですか」

　館で私と対面したゲルトは、感嘆のため息をつきながら言った。

「魔法だけではありませんわ、ギルドマスター。ここにいる皆の努力の賜物です」

　私は彼に、特産品のトマトソースやジャム、そして何より、疫病の特効薬を振る舞った。
　ゲルトは、その一つ一つの価値を即座に見抜き、商人の顔つきになった。

「素晴らしい……！ この品質、この独創性、間違いなく莫大な利益を生むでしょう。特にこの特効薬は、金銀財宝を積んでも惜しくないほどの価値がある！」

　彼は興奮した様子で立ち上がると、私に深々と頭を下げ、一つの提案を持ちかけてきた。

「イザベラ様。我々商業ギルドと、全面的な交易協定を結んでいただけないでしょうか。我々が枯れ谷の産物の独占販売権を頂き、その販路を大陸全土に保証いたします。その代わり、ギルドは枯れ谷を正式な交易拠点として認定し、その発展を全面的に支援することをお約束します」

　それは、枯れ谷が一個人の領地から、公的な経済活動の中心地として認められることを意味していた。
　この協定を結べば、枯れ谷はさらに経済的に発展し、その地位は盤石なものになるだろう。断る理由はなかった。

「謹んで、お受けいたします」

　私が承諾すると、ゲルトは満面の笑みを浮かべた。
　この日、枯れ谷と商業ギルドの間に固い盟約が結ばれた。
　見捨てられた辺境の地は、今や大陸の経済を動かす新たな拠点として、その歴史的な第一歩を踏み出したのである。