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第5章「過去への訣別、未来への宣言」
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宰相による陰湿な妨害を、住民たちと、そしてクラウス様の陰からの支援によって乗り越えた辺境の地は、以前にも増して力強く復興の道を歩んでいました。汚された貯水池は濾過装置を作って浄化し、畑の警備体制はより強固なものになりました。逆境は、私たちをさらに強くしたのです。
そんなある夜、再びクラウス様が、今度はお忍びで私の元を訪れました。護衛もつけず、たった一人で。月明かりの下、彼の表情はいつになく真剣で、そして苦悩に満ちていました。
「セレスティア。話がある」
私たちは、初めて二人で植えたじゃがいもの畑の脇に腰を下ろしました。夜風が、豊かに育った葉をさわさわと揺らしています。
「手紙、読みましたわ。ご支援、感謝いたします。あなたのおかげで、皆、希望を失わずに済みました」
「……礼を言われるようなことではない」
彼はしばらく黙り込んだ後、意を決したように口を開きました。
「君を追放した、本当の理由を話さなければならない」
その言葉に、私は息を呑みました。彼の口から語られたのは、衝撃的な真実でした。
あの婚約破棄の茶番劇は、すべて、日に日に権力を増していくゲルトナー宰相から私を守るための、苦肉の策だったというのです。宰相は、私の実家であるリーゼンベルク公爵家を失脚させた後、その息の根を完全に止めるため、私をスキャンダルに巻き込んで処刑する計画を立てていました。それに気づいたクラウス様は、宰相の計画の先手を取り、あえて「追放」という形で私を王都から逃がしたのだ、と。
「君を悪役令嬢に仕立て上げ、傷つけたことは事実だ。弁解の余地もない。だが、あのまま王都にいれば、君は命を落としていた。私には、それしか君を守る方法が思いつかなかったんだ」
彼の声は、深い悔恨に震えていました。ずっと私を憎んでいると思っていた元夫が、実は私を守ろうとしていた。その事実は、確かに私の胸を打ちました。しかし、それはもう、あまりにも遠い過去の物語でした。
「……そうでしたの。知りませんでしたわ」
私の声は、自分でも驚くほど落ち着いていました。
「そんなに思い悩む必要はありませんのに。結果として、私はこうして元気にやっていますから」
「セレスティア……」
「むしろ、感謝したいくらいですわ。もしあのまま、あなたの隣で公爵令嬢として生きていたら、今の私はありませんでした。土に触れる喜びも、自分の手で何かを生み出す達成感も、皆と笑いあうこの温かさも、知らずに一生を終えたことでしょう」
私は立ち上がり、大きく実ったじゃがいもの葉を優しく撫でました。
「だから、もういいのです。クラウス様」
私は彼に向き直り、はっきりと告げました。
「あなたのしたことは、許しも、責めもしません。ただ、受け入れます。そして、もう二度と、あなたの保護は必要ありません」
これは、私の、真の意味での「離婚宣言」でした。彼が私を守るためにした行為。その行為の根底には、「セレスティアは庇護されるべき弱い存在だ」という認識があったのでしょう。でも、私はもう違う。私は、自分の足で立ち、自分の力で仲間たちを守れる。
「私は、この辺境の地で、ここの人々と共に生きていきます。あなたの庇護の下ではなく、あなたと対等な立場で」
私の言葉は、静かに、しかし刃のように鋭く、彼の心を貫いたようでした。彼は呆然とした表情で私を見つめています。その瞳には、私の強さに対する驚きと、そして、はっきりと拒絶されたことへのショックが浮かんでいました。
「……そうか。君は、もう、そこまで強くなったのだな」
彼は力なく笑いました。その笑顔は、ひどく寂しげに見えました。
彼は、私の「強さ」に惹かれている。それは、私にも分かりました。彼がかつて捨てた人形が、いつの間にか、彼の手の届かない場所で輝く星になっていた。それに気づいた時、彼は初めて本当の意味で私を求め始めたのかもしれません。
しかし、私はもう彼の元へは戻らない。
クラウス様は、復縁を願う言葉を口にすることすらできずに、ただ打ちひしがれていました。彼が私にしてくれたことへの感謝と、それでも過去には戻れないという私の決意。月明かりの下、二人の間には、埋めることのできない深い溝が横たわっていました。
この夜を境に、私たちの関係は完全に変わりました。元夫婦でも、敵でもない。これから始まるであろう、もっと複雑で、そして困難な関係への、序章が始まったのです。
そんなある夜、再びクラウス様が、今度はお忍びで私の元を訪れました。護衛もつけず、たった一人で。月明かりの下、彼の表情はいつになく真剣で、そして苦悩に満ちていました。
「セレスティア。話がある」
私たちは、初めて二人で植えたじゃがいもの畑の脇に腰を下ろしました。夜風が、豊かに育った葉をさわさわと揺らしています。
「手紙、読みましたわ。ご支援、感謝いたします。あなたのおかげで、皆、希望を失わずに済みました」
「……礼を言われるようなことではない」
彼はしばらく黙り込んだ後、意を決したように口を開きました。
「君を追放した、本当の理由を話さなければならない」
その言葉に、私は息を呑みました。彼の口から語られたのは、衝撃的な真実でした。
あの婚約破棄の茶番劇は、すべて、日に日に権力を増していくゲルトナー宰相から私を守るための、苦肉の策だったというのです。宰相は、私の実家であるリーゼンベルク公爵家を失脚させた後、その息の根を完全に止めるため、私をスキャンダルに巻き込んで処刑する計画を立てていました。それに気づいたクラウス様は、宰相の計画の先手を取り、あえて「追放」という形で私を王都から逃がしたのだ、と。
「君を悪役令嬢に仕立て上げ、傷つけたことは事実だ。弁解の余地もない。だが、あのまま王都にいれば、君は命を落としていた。私には、それしか君を守る方法が思いつかなかったんだ」
彼の声は、深い悔恨に震えていました。ずっと私を憎んでいると思っていた元夫が、実は私を守ろうとしていた。その事実は、確かに私の胸を打ちました。しかし、それはもう、あまりにも遠い過去の物語でした。
「……そうでしたの。知りませんでしたわ」
私の声は、自分でも驚くほど落ち着いていました。
「そんなに思い悩む必要はありませんのに。結果として、私はこうして元気にやっていますから」
「セレスティア……」
「むしろ、感謝したいくらいですわ。もしあのまま、あなたの隣で公爵令嬢として生きていたら、今の私はありませんでした。土に触れる喜びも、自分の手で何かを生み出す達成感も、皆と笑いあうこの温かさも、知らずに一生を終えたことでしょう」
私は立ち上がり、大きく実ったじゃがいもの葉を優しく撫でました。
「だから、もういいのです。クラウス様」
私は彼に向き直り、はっきりと告げました。
「あなたのしたことは、許しも、責めもしません。ただ、受け入れます。そして、もう二度と、あなたの保護は必要ありません」
これは、私の、真の意味での「離婚宣言」でした。彼が私を守るためにした行為。その行為の根底には、「セレスティアは庇護されるべき弱い存在だ」という認識があったのでしょう。でも、私はもう違う。私は、自分の足で立ち、自分の力で仲間たちを守れる。
「私は、この辺境の地で、ここの人々と共に生きていきます。あなたの庇護の下ではなく、あなたと対等な立場で」
私の言葉は、静かに、しかし刃のように鋭く、彼の心を貫いたようでした。彼は呆然とした表情で私を見つめています。その瞳には、私の強さに対する驚きと、そして、はっきりと拒絶されたことへのショックが浮かんでいました。
「……そうか。君は、もう、そこまで強くなったのだな」
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しかし、私はもう彼の元へは戻らない。
クラウス様は、復縁を願う言葉を口にすることすらできずに、ただ打ちひしがれていました。彼が私にしてくれたことへの感謝と、それでも過去には戻れないという私の決意。月明かりの下、二人の間には、埋めることのできない深い溝が横たわっていました。
この夜を境に、私たちの関係は完全に変わりました。元夫婦でも、敵でもない。これから始まるであろう、もっと複雑で、そして困難な関係への、序章が始まったのです。
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