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第7話「ニセモノ騒動とブランド戦略」
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成功には模倣がつきものだとは言うけれど、ここまで露骨だと逆に清々しい。
俺は目の前に置かれた「物体」を見下ろして、深いため息をついた。
「……で、これが黄金商会の新商品か?」
「はい。その名も『黄金巻き』だそうです」
テオが苦虫を噛み潰したような顔で報告する。
包みを開くと、そこにあったのは、黒く焦げたパン生地で具材を巻いた、極太のサンドイッチのようなものだった。
「海苔の代わりに黒パンを使ったのか。アイデアは悪くないが……」
一口かじってみる。
硬い。パサパサしている。具材の肉は脂っこく、ソースの味が濃すぎて舌が痺れる。
「まずいな」
「まずいですよね。でも、値段がうちの半額なんです」
リリアナが悔しそうに唇を噛んだ。
「ガルドったら、『方角なんて関係ない、どこを向いて食っても美味いのが本物の料理だ』なんて宣伝して、大量に売りさばいてるんです。安いから、子供たちや労働者が流れてしまって……」
安かろう悪かろうで市場を荒らす。大資本の典型的なやり口だ。
おかげで、うちの『福巻き』の売上はここ数日でガクンと落ちていた。「なんだ、黒い巻き物なんて大したことないじゃないか」という悪評が、本家である俺たちにも飛び火しているのだ。
ブランドイメージの毀損。これは深刻だ。
「カイさん、どうしますか? うちも値下げしますか?」
リリアナが不安げに尋ねる。
「いや、値下げ競争に乗ったら負けだ。向こうは資金力がある。消耗戦になれば潰されるのはうちの方だ」
俺は『黄金巻き』の残骸を皿に置いた。
「ニセモノが出回ったとき、本家がやるべきことは一つ。圧倒的な『本物感』を見せつけることだ」
「本物感?」
「ああ。ガルドは『方角なんて関係ない』と言ったな? それはつまり、食という行為における『精神性』を否定したってことだ」
俺はニヤリと笑った。
「なら、うちは逆を行く。もっと面倒くさく、もっと格式高く、そして最高に美味い。そういう『プレミアムな体験』を提供するんだ」
翌日、銀の葉商会の店頭には新しい看板が掲げられた。
『本日より、会員制「極・恵方巻き」の予約を開始します』
限定二十食。価格は従来の三倍。
使用するのは、俺が徹夜で品種改良を重ねた『特選白米』と、最高級の天然リバーモス。具材には、新鮮な海の幸(行商人に無理を言って取り寄せた)と、俺のスキルで糖度を極限まで高めた卵焼き。
さらに、購入者には「恵方コンパス」というおまけをつけることにした。木片に磁石を埋め込んだだけの簡単なものだが、これで正確な吉方位を知ることができる。
「こんなに高くして、売れるんでしょうか……」
リリアナは心配そうだったが、俺には勝算があった。
人は「限定」と「高級」に弱い。特に、黄金商会の粗悪品に失望した層ほど、本物を求めるはずだ。
その日の午後、店にやってきたのは、意外な人物だった。
身なりの良い老紳士。後ろには執事のような男を従えている。
「ここで『極・恵方巻き』とかいうものが食えると聞いてな」
老紳士は鋭い眼光で俺たちを見渡した。
「黄金商会のあれは酷いものだった。家畜の餌かと思ったよ。ここは違うのかね?」
「ええ、保証します。ただし、作法は守っていただきますよ」
俺は恭しく頭を下げた。
老紳士は一本の太巻きを受け取り、渡されたコンパスを見て方角を確認した。そして、躊躇なくかぶりつく。
サクッ、パリッ。
静寂の中、海苔の歯切れの良い音が響く。
老紳士の目が大きく見開かれた。
一本を食べ終えるまでの数分間、彼は身じろぎもせず、ただひたすらに味わっていた。
やがて、彼は満足げに口元を拭った。
「……素晴らしい。穀物の甘み、海草の香り、具材の調和。そして何より、静寂の中で食と向き合うこの時間。これこそが食事だ」
彼は懐から金貨を取り出し、カウンターに置いた。
「釣りはいらん。また来る」
老紳士が去った後、リリアナが震える声で言った。
「あの方……この街の領主様ですよ!?」
「えっ」
「お忍びで視察に来てたんです! 領主様が認めたとなれば、もう勝負あったも同然です!」
俺たちは顔を見合わせて、ハイタッチをした。
本物は裏切らない。ガルドの安売り攻勢は、逆に「本物」の価値を高める結果となったのだ。
俺は目の前に置かれた「物体」を見下ろして、深いため息をついた。
「……で、これが黄金商会の新商品か?」
「はい。その名も『黄金巻き』だそうです」
テオが苦虫を噛み潰したような顔で報告する。
包みを開くと、そこにあったのは、黒く焦げたパン生地で具材を巻いた、極太のサンドイッチのようなものだった。
「海苔の代わりに黒パンを使ったのか。アイデアは悪くないが……」
一口かじってみる。
硬い。パサパサしている。具材の肉は脂っこく、ソースの味が濃すぎて舌が痺れる。
「まずいな」
「まずいですよね。でも、値段がうちの半額なんです」
リリアナが悔しそうに唇を噛んだ。
「ガルドったら、『方角なんて関係ない、どこを向いて食っても美味いのが本物の料理だ』なんて宣伝して、大量に売りさばいてるんです。安いから、子供たちや労働者が流れてしまって……」
安かろう悪かろうで市場を荒らす。大資本の典型的なやり口だ。
おかげで、うちの『福巻き』の売上はここ数日でガクンと落ちていた。「なんだ、黒い巻き物なんて大したことないじゃないか」という悪評が、本家である俺たちにも飛び火しているのだ。
ブランドイメージの毀損。これは深刻だ。
「カイさん、どうしますか? うちも値下げしますか?」
リリアナが不安げに尋ねる。
「いや、値下げ競争に乗ったら負けだ。向こうは資金力がある。消耗戦になれば潰されるのはうちの方だ」
俺は『黄金巻き』の残骸を皿に置いた。
「ニセモノが出回ったとき、本家がやるべきことは一つ。圧倒的な『本物感』を見せつけることだ」
「本物感?」
「ああ。ガルドは『方角なんて関係ない』と言ったな? それはつまり、食という行為における『精神性』を否定したってことだ」
俺はニヤリと笑った。
「なら、うちは逆を行く。もっと面倒くさく、もっと格式高く、そして最高に美味い。そういう『プレミアムな体験』を提供するんだ」
翌日、銀の葉商会の店頭には新しい看板が掲げられた。
『本日より、会員制「極・恵方巻き」の予約を開始します』
限定二十食。価格は従来の三倍。
使用するのは、俺が徹夜で品種改良を重ねた『特選白米』と、最高級の天然リバーモス。具材には、新鮮な海の幸(行商人に無理を言って取り寄せた)と、俺のスキルで糖度を極限まで高めた卵焼き。
さらに、購入者には「恵方コンパス」というおまけをつけることにした。木片に磁石を埋め込んだだけの簡単なものだが、これで正確な吉方位を知ることができる。
「こんなに高くして、売れるんでしょうか……」
リリアナは心配そうだったが、俺には勝算があった。
人は「限定」と「高級」に弱い。特に、黄金商会の粗悪品に失望した層ほど、本物を求めるはずだ。
その日の午後、店にやってきたのは、意外な人物だった。
身なりの良い老紳士。後ろには執事のような男を従えている。
「ここで『極・恵方巻き』とかいうものが食えると聞いてな」
老紳士は鋭い眼光で俺たちを見渡した。
「黄金商会のあれは酷いものだった。家畜の餌かと思ったよ。ここは違うのかね?」
「ええ、保証します。ただし、作法は守っていただきますよ」
俺は恭しく頭を下げた。
老紳士は一本の太巻きを受け取り、渡されたコンパスを見て方角を確認した。そして、躊躇なくかぶりつく。
サクッ、パリッ。
静寂の中、海苔の歯切れの良い音が響く。
老紳士の目が大きく見開かれた。
一本を食べ終えるまでの数分間、彼は身じろぎもせず、ただひたすらに味わっていた。
やがて、彼は満足げに口元を拭った。
「……素晴らしい。穀物の甘み、海草の香り、具材の調和。そして何より、静寂の中で食と向き合うこの時間。これこそが食事だ」
彼は懐から金貨を取り出し、カウンターに置いた。
「釣りはいらん。また来る」
老紳士が去った後、リリアナが震える声で言った。
「あの方……この街の領主様ですよ!?」
「えっ」
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