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第2話「追放されてきた悪役令嬢」
俺がスキルに目覚めてから数日が過ぎた。
まずは実験だ。俺は村の外れにある自分に与えられた小さな畑で、【絶対育成】の力を試していた。
「まずは土壌分析……なるほど、窒素とリンが致命的に足りないのか。じゃあ、土壌改良」
スキルを発動させると手のひらから淡い緑色の光が放たれ、地面に吸い込まれていく。すると、石ころだらけだった乾いた土が、まるで黒土のようにふかふかと潤っていくのがわかった。驚くべき効果だ。
次に、村の備蓄庫からこっそり拝借してきたトマトの種を植える。
「成長促進、そして品種改良。糖度を極限まで高めて栄養価も凝縮させろ」
俺の意思に応えるように、種から芽吹いた苗はぐんぐんと天に向かって伸びていく。数時間も経たないうちに青々とした葉を茂らせ、黄色い花を咲かせ、そして宝石のように真っ赤な実をつけた。信じられない光景だが、これが俺の力なのだ。
もぎ取ったトマトを一口かじる。
「……うまっ!」
脳天を突き抜けるような強烈な甘みと、それを引き立てる爽やかな酸味。果汁が口いっぱいに広がり、体に活力がみなぎっていくのを感じる。こんな美味いトマトは前世でも食べたことがない。これならいける。確かな手応えを感じ、俺は小さくガッツポーズをした。
***
そんな平穏な日々が続くと思っていたある日のことだ。
村に一台の馬車がやってきた。貴族が使うような豪華なものではなく、荷物を運ぶための質素でみすぼらしい荷馬車だった。村の入り口に止まった馬車から、一人の御者が忌々しそうに荷物を下ろした。そして続いて降りてきた人物を見て、村人たちが息を呑みひそひそと噂を始めた。
降りてきたのは、俺と同じくらいの歳の少女だった。泥と埃にまみれたドレスは所々が擦り切れ、顔も汚れている。しかしそんな姿でも、彼女がただ者ではないことは一目でわかった。ピンと伸びた背筋、気品を失わない顔立ち、そして全てを拒絶するかのような冷たい銀色の瞳。
「あれが、王都を追放されたっていう……」
「悪役令嬢、セラフィーナ様だ」
「聖女様に害をなそうとした、大罪人らしいぞ」
村人たちは恐怖と侮蔑が入り混じった目で、少女を遠巻きに眺めているだけだ。御者は最低限の荷物を地面に放り出すと、少女に一瞥もくれずさっさと馬車をUターンさせて去っていった。
たった一人、痩せた土地に置き去りにされた少女。
(悪役令嬢……)
その言葉に、俺は前世の記憶を刺激された。小説やゲームに出てくる、主人公の恋路を邪魔する高慢なライバルキャラクター。大抵、最後には断罪されて没落する役割の……。
「……物語の登場人物みたいだな」
そんな感想が自然と口から漏れた。だからだろうか。他の村人たちのような恐怖や偏見は俺にはなかった。ただ、一人で立ち尽くす彼女の姿がやけに寂しそうに見えた。
彼女――セラフィーナは、誰に助けを求めるでもなく、あてがわれた廃屋に向かって歩き出す。だが長旅と心労、そして空腹が限界だったのだろう。その足元がおぼつかなくなり、ふらりと体勢を崩した。
村人たちは見て見ぬふりだ。誰も助けようとしない。
俺は気づけば走り出していた。そして懐に隠し持っていた、あの真っ赤なトマトを彼女の前に差し出した。
「あの、これ……食うか?」
セラフィーナは驚いたように目を見開いた。その銀色の瞳が、差し出されたトマトと俺の顔を交互に見る。警戒と、わずかな困惑。そして腹の音が、くぅ、と小さく鳴った。
それが、俺と「悪役令嬢」セラフィーナの出会いだった。
まずは実験だ。俺は村の外れにある自分に与えられた小さな畑で、【絶対育成】の力を試していた。
「まずは土壌分析……なるほど、窒素とリンが致命的に足りないのか。じゃあ、土壌改良」
スキルを発動させると手のひらから淡い緑色の光が放たれ、地面に吸い込まれていく。すると、石ころだらけだった乾いた土が、まるで黒土のようにふかふかと潤っていくのがわかった。驚くべき効果だ。
次に、村の備蓄庫からこっそり拝借してきたトマトの種を植える。
「成長促進、そして品種改良。糖度を極限まで高めて栄養価も凝縮させろ」
俺の意思に応えるように、種から芽吹いた苗はぐんぐんと天に向かって伸びていく。数時間も経たないうちに青々とした葉を茂らせ、黄色い花を咲かせ、そして宝石のように真っ赤な実をつけた。信じられない光景だが、これが俺の力なのだ。
もぎ取ったトマトを一口かじる。
「……うまっ!」
脳天を突き抜けるような強烈な甘みと、それを引き立てる爽やかな酸味。果汁が口いっぱいに広がり、体に活力がみなぎっていくのを感じる。こんな美味いトマトは前世でも食べたことがない。これならいける。確かな手応えを感じ、俺は小さくガッツポーズをした。
***
そんな平穏な日々が続くと思っていたある日のことだ。
村に一台の馬車がやってきた。貴族が使うような豪華なものではなく、荷物を運ぶための質素でみすぼらしい荷馬車だった。村の入り口に止まった馬車から、一人の御者が忌々しそうに荷物を下ろした。そして続いて降りてきた人物を見て、村人たちが息を呑みひそひそと噂を始めた。
降りてきたのは、俺と同じくらいの歳の少女だった。泥と埃にまみれたドレスは所々が擦り切れ、顔も汚れている。しかしそんな姿でも、彼女がただ者ではないことは一目でわかった。ピンと伸びた背筋、気品を失わない顔立ち、そして全てを拒絶するかのような冷たい銀色の瞳。
「あれが、王都を追放されたっていう……」
「悪役令嬢、セラフィーナ様だ」
「聖女様に害をなそうとした、大罪人らしいぞ」
村人たちは恐怖と侮蔑が入り混じった目で、少女を遠巻きに眺めているだけだ。御者は最低限の荷物を地面に放り出すと、少女に一瞥もくれずさっさと馬車をUターンさせて去っていった。
たった一人、痩せた土地に置き去りにされた少女。
(悪役令嬢……)
その言葉に、俺は前世の記憶を刺激された。小説やゲームに出てくる、主人公の恋路を邪魔する高慢なライバルキャラクター。大抵、最後には断罪されて没落する役割の……。
「……物語の登場人物みたいだな」
そんな感想が自然と口から漏れた。だからだろうか。他の村人たちのような恐怖や偏見は俺にはなかった。ただ、一人で立ち尽くす彼女の姿がやけに寂しそうに見えた。
彼女――セラフィーナは、誰に助けを求めるでもなく、あてがわれた廃屋に向かって歩き出す。だが長旅と心労、そして空腹が限界だったのだろう。その足元がおぼつかなくなり、ふらりと体勢を崩した。
村人たちは見て見ぬふりだ。誰も助けようとしない。
俺は気づけば走り出していた。そして懐に隠し持っていた、あの真っ赤なトマトを彼女の前に差し出した。
「あの、これ……食うか?」
セラフィーナは驚いたように目を見開いた。その銀色の瞳が、差し出されたトマトと俺の顔を交互に見る。警戒と、わずかな困惑。そして腹の音が、くぅ、と小さく鳴った。
それが、俺と「悪役令嬢」セラフィーナの出会いだった。
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