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第16話「食欲には勝てない」
一方、アルカディアを目指して進軍する王国の討伐軍は深刻な問題に直面していた。
食糧不足である。
王太子アルフレッドが「民から徴収すればよい」と軽く言った兵糧の確保は、そもそも国内が不作であるため全く計画通りに進んでいなかった。集められた兵糧は一万の兵士が長い行軍を維持するには、あまりにも心もとなかったのだ。
進軍が長引くにつれ配給される食料は日に日に減っていった。最初は硬い黒パンと干し肉だったものが薄い粥だけになり、そして今やその粥すら満足に配給されない有様だった。
兵士たちの士気は地に落ちていた。
「腹が……減った……」
「何が聖戦だ。俺たちは、飢え死にするためにこんな辺境まで来たのか……」
「王都に帰りたい……」
不満と絶望が軍全体に蔓延していた。指揮官たちは兵士たちを叱咤するが、空腹で力も入らない兵士たちにはもはや馬の耳に念仏だ。
そんな彼らが長い丘を越えた時、目の前に信じがたい光景が広がった。
見渡す限りの黄金色の小麦畑。風に揺れるその様はまるで金色の海のようだ。木々には見たこともないほど大きく、瑞々しい果実がたわわに実っている。
そしてその中央に位置する、巨大な木の壁に囲まれた都市『アルカディア』。
兵士たちは自分たちの目を疑った。自分たちが飢えに苦しんでいるというのに、目の前にはこの世の楽園のような光景が広がっている。
「あれが……反逆者の町……?」
「嘘だろ……。俺たちの国より、よっぽど豊かじゃないか……」
その時だった。風向きが変わり、都市の方からなんとも言えない香ばしい匂いが流れてきた。
焼きたてのパンの匂い。じっくり煮込まれたシチューの匂い。
その悪魔的なまでに魅力的な香りは、飢えた兵士たちの理性を容赦なく破壊した。
ゴクリ、と誰かが唾を飲み込む音がやけに大きく響く。
もはや彼らの頭の中に「戦い」という選択肢はなかった。兵士たちの心は「食いたい」という、純粋で抗いがたい生物としての根源的な欲求で満たされていた。
戦意は完全に崩壊した。いや、戦意という概念そのものが強烈な食欲の前に消し飛んでしまったのだ。指揮官が「全軍、突撃準備!」と叫んでも、誰一人として武器を構えようとはしない。皆ただよだれを垂らしながら、目の前の楽園を見つめているだけだった。
討伐軍はまだ一人の敵兵とも出会っていない。
だがその心はすでに完全に敗北していた。
食糧不足である。
王太子アルフレッドが「民から徴収すればよい」と軽く言った兵糧の確保は、そもそも国内が不作であるため全く計画通りに進んでいなかった。集められた兵糧は一万の兵士が長い行軍を維持するには、あまりにも心もとなかったのだ。
進軍が長引くにつれ配給される食料は日に日に減っていった。最初は硬い黒パンと干し肉だったものが薄い粥だけになり、そして今やその粥すら満足に配給されない有様だった。
兵士たちの士気は地に落ちていた。
「腹が……減った……」
「何が聖戦だ。俺たちは、飢え死にするためにこんな辺境まで来たのか……」
「王都に帰りたい……」
不満と絶望が軍全体に蔓延していた。指揮官たちは兵士たちを叱咤するが、空腹で力も入らない兵士たちにはもはや馬の耳に念仏だ。
そんな彼らが長い丘を越えた時、目の前に信じがたい光景が広がった。
見渡す限りの黄金色の小麦畑。風に揺れるその様はまるで金色の海のようだ。木々には見たこともないほど大きく、瑞々しい果実がたわわに実っている。
そしてその中央に位置する、巨大な木の壁に囲まれた都市『アルカディア』。
兵士たちは自分たちの目を疑った。自分たちが飢えに苦しんでいるというのに、目の前にはこの世の楽園のような光景が広がっている。
「あれが……反逆者の町……?」
「嘘だろ……。俺たちの国より、よっぽど豊かじゃないか……」
その時だった。風向きが変わり、都市の方からなんとも言えない香ばしい匂いが流れてきた。
焼きたてのパンの匂い。じっくり煮込まれたシチューの匂い。
その悪魔的なまでに魅力的な香りは、飢えた兵士たちの理性を容赦なく破壊した。
ゴクリ、と誰かが唾を飲み込む音がやけに大きく響く。
もはや彼らの頭の中に「戦い」という選択肢はなかった。兵士たちの心は「食いたい」という、純粋で抗いがたい生物としての根源的な欲求で満たされていた。
戦意は完全に崩壊した。いや、戦意という概念そのものが強烈な食欲の前に消し飛んでしまったのだ。指揮官が「全軍、突撃準備!」と叫んでも、誰一人として武器を構えようとはしない。皆ただよだれを垂らしながら、目の前の楽園を見つめているだけだった。
討伐軍はまだ一人の敵兵とも出会っていない。
だがその心はすでに完全に敗北していた。
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