婚約破棄されて追放寸前だったのに、なぜか冷徹なはずの氷の公爵様から世界で一番甘く愛されています。

黒崎隼人

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第12話「世界で一番のプロポーズ」

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 全てが終わり、私たちはアシュフォード公爵邸の庭園にいた。
 あの夜会から数日。王宮はエドワード殿下の廃嫡問題で揺れ、エリアナは国を欺いた罪で、北の修道院へ幽閉されることが決まった。
 世間の噂は、あっという間に私を『悲劇の令嬢』として持ち上げたけれど、私はそんな喧騒から離れたこの場所で、静かな時間を過ごしていた。

「リゼット」

 背後から、キリアン様の優しい声がした。
 振り向くと、彼は月の光を浴びて、静かに立っていた。
 夜の庭園は、私が手入れした花々の香りで満ちている。

「キリアン様。今夜も月が綺麗ですね」

「ああ。だが、君の美しさには敵わない」

 彼は、当たり前のように、甘い言葉を口にする。
 最初の頃は戸惑っていたその言葉も、今では素直に受け止められるようになっていた。
 彼の銀色の瞳に、私が映っている。その瞳には、いつも深い愛情がたたえられていた。

「キリアン様には、感謝しかありません。私のために、全てを……」

「君のためだけではない。俺のためだ」

 彼は私の言葉を遮り、私の前に進み出た。
 そして、あの夜会と同じように、私の前に跪いた。

「えっ、キリアン様……!?」

 公爵である彼が、人前で跪くなど、ありえないことだ。
 驚く私を見上げ、彼は真剣な眼差しで、私の手を取った。

「リゼット・フォン・ヴァインベルク。俺は、君をずっと見てきた」

 彼の告白が始まる。

「初めて見たのは、10年以上前。宮廷の庭で、一人で花に話しかけていた君だ。その優しさに、心を奪われた。それからずっと、君だけを目で追っていた。エドワード殿下と幸せそうに話す君を見ては、胸を痛め、エリアナに苦しめられる君を見ては、無力な自分を呪った」

 彼の口から語られるのは、私が全く知らなかった、彼の長い長い片想いの物語だった。

「君を助け出す機会を、ずっと窺っていた。あんな形で君を無理やり連れ出すことになったのは、不本意だったが、後悔はしていない。俺は、誰にも君を渡したくなかった」

 彼の瞳が、熱を帯びる。
 それは、氷の仮面の下に隠されていた、燃えるような情熱の色だった。

「俺は、君を王太子の元から奪い取るために、公爵として力をつけ、準備をしてきた。俺のこれまでの人生は、全て君を手に入れるためのものだったと言ってもいい」

 信じられないほどの、一途な想い。
 私は、言葉を失って、ただ彼の顔を見つめることしかできなかった。

 彼は、懐から小さなベルベットの箱を取り出した。
 その蓋を開けると、中には、月光を宿したような美しいブルーダイヤモンドの指輪が輝いていた。

「リゼ...ット。俺の茶番の婚約者ではなく、本当の妻になってほしい。俺の隣で、一生笑っていてほしい。世界中の誰よりも、君を幸せにすると誓う」

 それは、世界で一番甘く、誠実なプロポーズだった。
 涙が、頬を伝って落ちる。
 でも、それはもう、悲しみの涙ではなかった。
 あふれんばかりの喜びと、愛しさが、温かい雫となってこぼれ落ちていく。

「……はい」

 私は、涙で濡れた笑顔で、精一杯頷いた。

「喜んで……。あなたの、お嫁さんになります」

 彼は、安堵したように息をつくと、私の指にそっと指輪をはめてくれた。
 ひんやりとした感触と、彼の手の温もりが、私の薬指に永遠の誓いを刻む。
 立ち上がった彼は、私を優しく抱きしめた。
 彼の胸の中で、私は幸せを噛みしめる。
 悪役令嬢と呼ばれた私の物語は、ここで終わる。
 そして、世界で一番愛される、アシュフォード公爵夫人としての、新しい物語が始まるのだ。
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