13 / 16
第12話「世界で一番のプロポーズ」
しおりを挟む
全てが終わり、私たちはアシュフォード公爵邸の庭園にいた。
あの夜会から数日。王宮はエドワード殿下の廃嫡問題で揺れ、エリアナは国を欺いた罪で、北の修道院へ幽閉されることが決まった。
世間の噂は、あっという間に私を『悲劇の令嬢』として持ち上げたけれど、私はそんな喧騒から離れたこの場所で、静かな時間を過ごしていた。
「リゼット」
背後から、キリアン様の優しい声がした。
振り向くと、彼は月の光を浴びて、静かに立っていた。
夜の庭園は、私が手入れした花々の香りで満ちている。
「キリアン様。今夜も月が綺麗ですね」
「ああ。だが、君の美しさには敵わない」
彼は、当たり前のように、甘い言葉を口にする。
最初の頃は戸惑っていたその言葉も、今では素直に受け止められるようになっていた。
彼の銀色の瞳に、私が映っている。その瞳には、いつも深い愛情がたたえられていた。
「キリアン様には、感謝しかありません。私のために、全てを……」
「君のためだけではない。俺のためだ」
彼は私の言葉を遮り、私の前に進み出た。
そして、あの夜会と同じように、私の前に跪いた。
「えっ、キリアン様……!?」
公爵である彼が、人前で跪くなど、ありえないことだ。
驚く私を見上げ、彼は真剣な眼差しで、私の手を取った。
「リゼット・フォン・ヴァインベルク。俺は、君をずっと見てきた」
彼の告白が始まる。
「初めて見たのは、10年以上前。宮廷の庭で、一人で花に話しかけていた君だ。その優しさに、心を奪われた。それからずっと、君だけを目で追っていた。エドワード殿下と幸せそうに話す君を見ては、胸を痛め、エリアナに苦しめられる君を見ては、無力な自分を呪った」
彼の口から語られるのは、私が全く知らなかった、彼の長い長い片想いの物語だった。
「君を助け出す機会を、ずっと窺っていた。あんな形で君を無理やり連れ出すことになったのは、不本意だったが、後悔はしていない。俺は、誰にも君を渡したくなかった」
彼の瞳が、熱を帯びる。
それは、氷の仮面の下に隠されていた、燃えるような情熱の色だった。
「俺は、君を王太子の元から奪い取るために、公爵として力をつけ、準備をしてきた。俺のこれまでの人生は、全て君を手に入れるためのものだったと言ってもいい」
信じられないほどの、一途な想い。
私は、言葉を失って、ただ彼の顔を見つめることしかできなかった。
彼は、懐から小さなベルベットの箱を取り出した。
その蓋を開けると、中には、月光を宿したような美しいブルーダイヤモンドの指輪が輝いていた。
「リゼ...ット。俺の茶番の婚約者ではなく、本当の妻になってほしい。俺の隣で、一生笑っていてほしい。世界中の誰よりも、君を幸せにすると誓う」
それは、世界で一番甘く、誠実なプロポーズだった。
涙が、頬を伝って落ちる。
でも、それはもう、悲しみの涙ではなかった。
あふれんばかりの喜びと、愛しさが、温かい雫となってこぼれ落ちていく。
「……はい」
私は、涙で濡れた笑顔で、精一杯頷いた。
「喜んで……。あなたの、お嫁さんになります」
彼は、安堵したように息をつくと、私の指にそっと指輪をはめてくれた。
ひんやりとした感触と、彼の手の温もりが、私の薬指に永遠の誓いを刻む。
立ち上がった彼は、私を優しく抱きしめた。
彼の胸の中で、私は幸せを噛みしめる。
悪役令嬢と呼ばれた私の物語は、ここで終わる。
そして、世界で一番愛される、アシュフォード公爵夫人としての、新しい物語が始まるのだ。
あの夜会から数日。王宮はエドワード殿下の廃嫡問題で揺れ、エリアナは国を欺いた罪で、北の修道院へ幽閉されることが決まった。
世間の噂は、あっという間に私を『悲劇の令嬢』として持ち上げたけれど、私はそんな喧騒から離れたこの場所で、静かな時間を過ごしていた。
「リゼット」
背後から、キリアン様の優しい声がした。
振り向くと、彼は月の光を浴びて、静かに立っていた。
夜の庭園は、私が手入れした花々の香りで満ちている。
「キリアン様。今夜も月が綺麗ですね」
「ああ。だが、君の美しさには敵わない」
彼は、当たり前のように、甘い言葉を口にする。
最初の頃は戸惑っていたその言葉も、今では素直に受け止められるようになっていた。
彼の銀色の瞳に、私が映っている。その瞳には、いつも深い愛情がたたえられていた。
「キリアン様には、感謝しかありません。私のために、全てを……」
「君のためだけではない。俺のためだ」
彼は私の言葉を遮り、私の前に進み出た。
そして、あの夜会と同じように、私の前に跪いた。
「えっ、キリアン様……!?」
公爵である彼が、人前で跪くなど、ありえないことだ。
驚く私を見上げ、彼は真剣な眼差しで、私の手を取った。
「リゼット・フォン・ヴァインベルク。俺は、君をずっと見てきた」
彼の告白が始まる。
「初めて見たのは、10年以上前。宮廷の庭で、一人で花に話しかけていた君だ。その優しさに、心を奪われた。それからずっと、君だけを目で追っていた。エドワード殿下と幸せそうに話す君を見ては、胸を痛め、エリアナに苦しめられる君を見ては、無力な自分を呪った」
彼の口から語られるのは、私が全く知らなかった、彼の長い長い片想いの物語だった。
「君を助け出す機会を、ずっと窺っていた。あんな形で君を無理やり連れ出すことになったのは、不本意だったが、後悔はしていない。俺は、誰にも君を渡したくなかった」
彼の瞳が、熱を帯びる。
それは、氷の仮面の下に隠されていた、燃えるような情熱の色だった。
「俺は、君を王太子の元から奪い取るために、公爵として力をつけ、準備をしてきた。俺のこれまでの人生は、全て君を手に入れるためのものだったと言ってもいい」
信じられないほどの、一途な想い。
私は、言葉を失って、ただ彼の顔を見つめることしかできなかった。
彼は、懐から小さなベルベットの箱を取り出した。
その蓋を開けると、中には、月光を宿したような美しいブルーダイヤモンドの指輪が輝いていた。
「リゼ...ット。俺の茶番の婚約者ではなく、本当の妻になってほしい。俺の隣で、一生笑っていてほしい。世界中の誰よりも、君を幸せにすると誓う」
それは、世界で一番甘く、誠実なプロポーズだった。
涙が、頬を伝って落ちる。
でも、それはもう、悲しみの涙ではなかった。
あふれんばかりの喜びと、愛しさが、温かい雫となってこぼれ落ちていく。
「……はい」
私は、涙で濡れた笑顔で、精一杯頷いた。
「喜んで……。あなたの、お嫁さんになります」
彼は、安堵したように息をつくと、私の指にそっと指輪をはめてくれた。
ひんやりとした感触と、彼の手の温もりが、私の薬指に永遠の誓いを刻む。
立ち上がった彼は、私を優しく抱きしめた。
彼の胸の中で、私は幸せを噛みしめる。
悪役令嬢と呼ばれた私の物語は、ここで終わる。
そして、世界で一番愛される、アシュフォード公爵夫人としての、新しい物語が始まるのだ。
25
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?
ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」
華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。
目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。
──あら、デジャヴ?
「……なるほど」
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
【完結】愛で結ばれたはずの夫に捨てられました
ユユ
恋愛
「出て行け」
愛を囁き合い、祝福されずとも全てを捨て
結ばれたはずだった。
「金輪際姿を表すな」
義父から嫁だと認めてもらえなくても
義母からの仕打ちにもメイド達の嫌がらせにも
耐えてきた。
「もうおまえを愛していない」
結婚4年、やっと待望の第一子を産んだ。
義務でもあった男児を産んだ。
なのに
「不義の子と去るがいい」
「あなたの子よ!」
「私の子はエリザベスだけだ」
夫は私を裏切っていた。
* 作り話です
* 3万文字前後です
* 完結保証付きです
* 暇つぶしにどうぞ
「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました
ほーみ
恋愛
その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。
「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」
そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。
「……は?」
まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。
兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います
きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で……
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる