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第7話「王都を覆う不穏な影と、偽りの聖女」
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私が辺境の地で村おこしに奮闘している一方、華やかな王都では、深刻で不穏な影が静かに、しかし確実に広がりつつあった。
事の発端は、聖女リリアの「聖なる力」による豊穣の祝福が、年々その効果を失いつつあったことだ。最初のうちは、人々も「今年はたまたま天候が悪かったのだろう」と気にも留めていなかった。しかし、その“たまたま”が二年、三年と続けば、話は変わってくる。
そして今年の天候は、輪をかけて不順だった。春には長雨が続き、夏には日照りが大地を干上がらせた。結果、エルベライト王国全土が、記録的な大凶作に見舞われたのだ。
貴族たちの間では、次第にリリアの力に対する疑念の声が上がり始めた。「本当に聖女様には、土地を祝福するお力があるのか?」「以前はもっと豊作だったはずだが……」
民衆の不満は、日々の食糧価格の高騰という形で、より直接的に彼らの生活を圧迫していた。パンを求める人々の列は日に日に長くなり、その表情からは笑顔が消えて久しい。
そんな状況にあって、ただ一人、王太子ジークハルトだけが、「リリアは疲れているだけだ。彼女を疑うなど許さん!」と頑なに彼女を庇い続けていた。しかし、日に日に痩せこけていく民衆の姿と、空っぽになっていく国の食糧庫を前に、彼の表情から焦りの色が消えることはなかった。
実は、リリアの力の正体は、彼女が生まれながらに持っていた古代の魔道具を利用したものだった。そのペンダント型の魔道具は、周囲の土地や人々から生命力、すなわちマナを微量ずつ搾取し、それを奇跡の力と見せかけて凝縮・放出する機能を持っていたのだ。彼女が王都に来てからというもの、その力を過信し、乱用し続けた結果、魔道具そのものが限界に近づいていた。そして何より、王都周辺の土地そのものが、本来持っていた活力を根こそぎ奪われ、砂漠化の一歩手前まで追い込まれていたのだ。
もちろん、力の源であるリリア自身も、その減衰にはとっくに気づいていた。祈りを捧げても、以前のように作物が育たない。民衆からの期待の眼差しが、今は非難の刃となって突き刺さる。いつか全てが暴かれ、破滅が訪れる。その恐怖に、彼女は夜ごと怯えていた。
そんな八方塞がりの王宮に、ある日、驚くべき報告がもたらされた。リッテンハイム公爵領の管轄官からの定期報告書に、信じがたい一文が記されていたのだ。
『――王国全土が凶作に喘ぐ中、唯一の例外が存在する。かつてエリアーナ・リッテンハイム嬢が追放された辺境地帯、『霧の谷』周辺のみ、前代未聞と呼べるほどの豊作に沸いている、との由。』
飢えと混乱に陥る王国にとって、その報告は一筋の光となるのか。それとも、新たな混乱を招く火種となるのか。
報告書を読み終えた国王は、深く長い溜息をつくと、重い口を開いた。
「……真相を調査せねばなるまい。ジークハルトよ。そなた自ら辺境へ赴き、ことの次第を確かめて参れ」
父王の厳粛な命令に、ジークハルトは顔をこわばらせながらも、力なくうなずくことしかできなかった。
かつて自分が断罪し、追放した女の名前。それが今、国の命運を左右する鍵として、再び彼の前に現れたのだ。
事の発端は、聖女リリアの「聖なる力」による豊穣の祝福が、年々その効果を失いつつあったことだ。最初のうちは、人々も「今年はたまたま天候が悪かったのだろう」と気にも留めていなかった。しかし、その“たまたま”が二年、三年と続けば、話は変わってくる。
そして今年の天候は、輪をかけて不順だった。春には長雨が続き、夏には日照りが大地を干上がらせた。結果、エルベライト王国全土が、記録的な大凶作に見舞われたのだ。
貴族たちの間では、次第にリリアの力に対する疑念の声が上がり始めた。「本当に聖女様には、土地を祝福するお力があるのか?」「以前はもっと豊作だったはずだが……」
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そんな状況にあって、ただ一人、王太子ジークハルトだけが、「リリアは疲れているだけだ。彼女を疑うなど許さん!」と頑なに彼女を庇い続けていた。しかし、日に日に痩せこけていく民衆の姿と、空っぽになっていく国の食糧庫を前に、彼の表情から焦りの色が消えることはなかった。
実は、リリアの力の正体は、彼女が生まれながらに持っていた古代の魔道具を利用したものだった。そのペンダント型の魔道具は、周囲の土地や人々から生命力、すなわちマナを微量ずつ搾取し、それを奇跡の力と見せかけて凝縮・放出する機能を持っていたのだ。彼女が王都に来てからというもの、その力を過信し、乱用し続けた結果、魔道具そのものが限界に近づいていた。そして何より、王都周辺の土地そのものが、本来持っていた活力を根こそぎ奪われ、砂漠化の一歩手前まで追い込まれていたのだ。
もちろん、力の源であるリリア自身も、その減衰にはとっくに気づいていた。祈りを捧げても、以前のように作物が育たない。民衆からの期待の眼差しが、今は非難の刃となって突き刺さる。いつか全てが暴かれ、破滅が訪れる。その恐怖に、彼女は夜ごと怯えていた。
そんな八方塞がりの王宮に、ある日、驚くべき報告がもたらされた。リッテンハイム公爵領の管轄官からの定期報告書に、信じがたい一文が記されていたのだ。
『――王国全土が凶作に喘ぐ中、唯一の例外が存在する。かつてエリアーナ・リッテンハイム嬢が追放された辺境地帯、『霧の谷』周辺のみ、前代未聞と呼べるほどの豊作に沸いている、との由。』
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報告書を読み終えた国王は、深く長い溜息をつくと、重い口を開いた。
「……真相を調査せねばなるまい。ジークハルトよ。そなた自ら辺境へ赴き、ことの次第を確かめて参れ」
父王の厳粛な命令に、ジークハルトは顔をこわばらせながらも、力なくうなずくことしかできなかった。
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