役立たずと追放された俺の農業スキル、実は作物を兵器や霊薬に進化させる最強の力でした。

黒崎隼人

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第1章:転生、そして「無能」の烙印

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「――死んだな、これ」

 それが、俺――藤田耕作(ふじたこうさく)、二十二歳、しがない大学生の人生最後の感想だった。
 信号無視のトラックが視界いっぱいに広がったのが、俺の最後の記憶。激しい衝撃と浮遊感の後、次に目を開けた時、俺は真っ白な空間にぽつんと浮かんでいた。目の前には、後光が差しているとしか思えない、やたらと美しい女性が微笑んでいる。

「ようこそ、藤田耕作さん。私はこの世界を管理する女神とだけ名乗っておきましょう」

 テンプレだ。ラノベで何度も読んだ、あまりにもお約束な展開。俺はどうやら、異世界転生とやらを果たしてしまったらしい。女神様曰く、俺は神々の気まぐれな賭けの対象に選ばれ、新たな人生を送るチャンスを与えられたのだとか。

「あなたには、お詫びと餞別として、一つだけ特別なスキルを授けます。どんな能力を望みますか?」

 きた! チートスキル! 剣と魔法の世界で無双できるような、例えば「無限魔力」とか「全属性魔法適性MAX」とか、そういうやつだろ!
 しかし、その時の俺はどうかしていた。いや、前世の平凡な日常が恋しかったのかもしれない。実家のベランダで、ミニトマトやハーブを育てるのがささやかな趣味だったことを、ふと思い出してしまったのだ。

「あの……農業に関するスキル、とかってありますか? 土をいじって、何かを育てるのが好きだったので」

 俺の言葉に、女神様は一瞬きょとんとした顔をし、それから慈愛に満ちた笑みを深めた。
「わかりました。あなたに『農業スキル』を授けましょう。きっと、あなたの助けになるはずです」

 そうして俺は、光に包まれて異世界『ヴェルディア』の大地へと降り立った。

 緑豊かな草原、遠くに見える城壁都市。ファンタジーそのものの光景に胸を躍らせ、俺は早速、最寄りの街『リンドブルム』の冒険者ギルドへと向かった。まずは自分の能力を確かめ、生活の糧を得なければならない。
 ギルドの中は、屈強な戦士や妖艶な魔法使いといった、いかにもな冒険者たちでごった返していた。俺は受付のお姉さんに促されるまま、水晶玉に手をかざす。これがスキル鑑定というやつらしい。

「えーっと、藤田耕作様、ですね。スキルは……」

 受付嬢が困惑したような声を上げる。なんだなんだ、と周囲の冒険者たちの視線が突き刺さる。

「【農業スキル Lv.1】……以上、ですね」

 その瞬間、ギルド内に一瞬の静寂が走り、次の瞬間、腹を抱えての大爆笑が巻き起こった。

「ブハハハ! 農業スキルだと!?」
「農民にでもなる気かよ、兄ちゃん!」
「魔物相手にクワでも振るうのか? 面白え!」

 罵声と嘲笑の嵐。受付嬢の同情するような視線が、余計に心を抉った。この世界において、農業は戦闘能力のない、最底辺の職業。冒険者としては、まったく役に立たないハズレスキル。それが、俺が手に入れた唯一の力だった。
「無限魔力」でも「聖剣召喚」でもなく、「農業スキル」。あまりの落差に、俺は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 ギルドを追い出されるようにして外に出た俺は、すっかり自信を失っていた。冒険者として一攫千金を夢見るなんて、とんだ勘違いだった。俺にできることなんて、畑を耕すことくらいしかない。
 なけなしの所持金をはたいて最低限の農具を買い、俺は街から離れた辺境の村へと向かった。幸い、村長はよそ者の俺に優しく、痩せこけた小さな土地を格安で貸してくれた。誰も作りたがらない、石ころだらけの荒れ地だ。

「まあ、ないよりはマシか……」

 自嘲気味に呟き、俺はクワを握りしめた。こうして、俺の異世界生活は、英雄譚とは程遠い、泥と汗にまみれた農民暮らしから始まることになったのだ。
 この時の俺はまだ知らない。この「無能」と笑われた農業スキルこそが、この世界の常識を根底から覆す、とんでもない可能性を秘めているということを。今はただ、目の前の石ころを取り除き、固い土を耕すことだけが、俺にできるすべてだった。
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