2 / 14
第1章:転生、そして「無能」の烙印
しおりを挟む
「――死んだな、これ」
それが、俺――藤田耕作(ふじたこうさく)、二十二歳、しがない大学生の人生最後の感想だった。
信号無視のトラックが視界いっぱいに広がったのが、俺の最後の記憶。激しい衝撃と浮遊感の後、次に目を開けた時、俺は真っ白な空間にぽつんと浮かんでいた。目の前には、後光が差しているとしか思えない、やたらと美しい女性が微笑んでいる。
「ようこそ、藤田耕作さん。私はこの世界を管理する女神とだけ名乗っておきましょう」
テンプレだ。ラノベで何度も読んだ、あまりにもお約束な展開。俺はどうやら、異世界転生とやらを果たしてしまったらしい。女神様曰く、俺は神々の気まぐれな賭けの対象に選ばれ、新たな人生を送るチャンスを与えられたのだとか。
「あなたには、お詫びと餞別として、一つだけ特別なスキルを授けます。どんな能力を望みますか?」
きた! チートスキル! 剣と魔法の世界で無双できるような、例えば「無限魔力」とか「全属性魔法適性MAX」とか、そういうやつだろ!
しかし、その時の俺はどうかしていた。いや、前世の平凡な日常が恋しかったのかもしれない。実家のベランダで、ミニトマトやハーブを育てるのがささやかな趣味だったことを、ふと思い出してしまったのだ。
「あの……農業に関するスキル、とかってありますか? 土をいじって、何かを育てるのが好きだったので」
俺の言葉に、女神様は一瞬きょとんとした顔をし、それから慈愛に満ちた笑みを深めた。
「わかりました。あなたに『農業スキル』を授けましょう。きっと、あなたの助けになるはずです」
そうして俺は、光に包まれて異世界『ヴェルディア』の大地へと降り立った。
緑豊かな草原、遠くに見える城壁都市。ファンタジーそのものの光景に胸を躍らせ、俺は早速、最寄りの街『リンドブルム』の冒険者ギルドへと向かった。まずは自分の能力を確かめ、生活の糧を得なければならない。
ギルドの中は、屈強な戦士や妖艶な魔法使いといった、いかにもな冒険者たちでごった返していた。俺は受付のお姉さんに促されるまま、水晶玉に手をかざす。これがスキル鑑定というやつらしい。
「えーっと、藤田耕作様、ですね。スキルは……」
受付嬢が困惑したような声を上げる。なんだなんだ、と周囲の冒険者たちの視線が突き刺さる。
「【農業スキル Lv.1】……以上、ですね」
その瞬間、ギルド内に一瞬の静寂が走り、次の瞬間、腹を抱えての大爆笑が巻き起こった。
「ブハハハ! 農業スキルだと!?」
「農民にでもなる気かよ、兄ちゃん!」
「魔物相手にクワでも振るうのか? 面白え!」
罵声と嘲笑の嵐。受付嬢の同情するような視線が、余計に心を抉った。この世界において、農業は戦闘能力のない、最底辺の職業。冒険者としては、まったく役に立たないハズレスキル。それが、俺が手に入れた唯一の力だった。
「無限魔力」でも「聖剣召喚」でもなく、「農業スキル」。あまりの落差に、俺は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
ギルドを追い出されるようにして外に出た俺は、すっかり自信を失っていた。冒険者として一攫千金を夢見るなんて、とんだ勘違いだった。俺にできることなんて、畑を耕すことくらいしかない。
なけなしの所持金をはたいて最低限の農具を買い、俺は街から離れた辺境の村へと向かった。幸い、村長はよそ者の俺に優しく、痩せこけた小さな土地を格安で貸してくれた。誰も作りたがらない、石ころだらけの荒れ地だ。
「まあ、ないよりはマシか……」
自嘲気味に呟き、俺はクワを握りしめた。こうして、俺の異世界生活は、英雄譚とは程遠い、泥と汗にまみれた農民暮らしから始まることになったのだ。
この時の俺はまだ知らない。この「無能」と笑われた農業スキルこそが、この世界の常識を根底から覆す、とんでもない可能性を秘めているということを。今はただ、目の前の石ころを取り除き、固い土を耕すことだけが、俺にできるすべてだった。
それが、俺――藤田耕作(ふじたこうさく)、二十二歳、しがない大学生の人生最後の感想だった。
信号無視のトラックが視界いっぱいに広がったのが、俺の最後の記憶。激しい衝撃と浮遊感の後、次に目を開けた時、俺は真っ白な空間にぽつんと浮かんでいた。目の前には、後光が差しているとしか思えない、やたらと美しい女性が微笑んでいる。
「ようこそ、藤田耕作さん。私はこの世界を管理する女神とだけ名乗っておきましょう」
テンプレだ。ラノベで何度も読んだ、あまりにもお約束な展開。俺はどうやら、異世界転生とやらを果たしてしまったらしい。女神様曰く、俺は神々の気まぐれな賭けの対象に選ばれ、新たな人生を送るチャンスを与えられたのだとか。
「あなたには、お詫びと餞別として、一つだけ特別なスキルを授けます。どんな能力を望みますか?」
きた! チートスキル! 剣と魔法の世界で無双できるような、例えば「無限魔力」とか「全属性魔法適性MAX」とか、そういうやつだろ!
しかし、その時の俺はどうかしていた。いや、前世の平凡な日常が恋しかったのかもしれない。実家のベランダで、ミニトマトやハーブを育てるのがささやかな趣味だったことを、ふと思い出してしまったのだ。
「あの……農業に関するスキル、とかってありますか? 土をいじって、何かを育てるのが好きだったので」
俺の言葉に、女神様は一瞬きょとんとした顔をし、それから慈愛に満ちた笑みを深めた。
「わかりました。あなたに『農業スキル』を授けましょう。きっと、あなたの助けになるはずです」
そうして俺は、光に包まれて異世界『ヴェルディア』の大地へと降り立った。
緑豊かな草原、遠くに見える城壁都市。ファンタジーそのものの光景に胸を躍らせ、俺は早速、最寄りの街『リンドブルム』の冒険者ギルドへと向かった。まずは自分の能力を確かめ、生活の糧を得なければならない。
ギルドの中は、屈強な戦士や妖艶な魔法使いといった、いかにもな冒険者たちでごった返していた。俺は受付のお姉さんに促されるまま、水晶玉に手をかざす。これがスキル鑑定というやつらしい。
「えーっと、藤田耕作様、ですね。スキルは……」
受付嬢が困惑したような声を上げる。なんだなんだ、と周囲の冒険者たちの視線が突き刺さる。
「【農業スキル Lv.1】……以上、ですね」
その瞬間、ギルド内に一瞬の静寂が走り、次の瞬間、腹を抱えての大爆笑が巻き起こった。
「ブハハハ! 農業スキルだと!?」
「農民にでもなる気かよ、兄ちゃん!」
「魔物相手にクワでも振るうのか? 面白え!」
罵声と嘲笑の嵐。受付嬢の同情するような視線が、余計に心を抉った。この世界において、農業は戦闘能力のない、最底辺の職業。冒険者としては、まったく役に立たないハズレスキル。それが、俺が手に入れた唯一の力だった。
「無限魔力」でも「聖剣召喚」でもなく、「農業スキル」。あまりの落差に、俺は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
ギルドを追い出されるようにして外に出た俺は、すっかり自信を失っていた。冒険者として一攫千金を夢見るなんて、とんだ勘違いだった。俺にできることなんて、畑を耕すことくらいしかない。
なけなしの所持金をはたいて最低限の農具を買い、俺は街から離れた辺境の村へと向かった。幸い、村長はよそ者の俺に優しく、痩せこけた小さな土地を格安で貸してくれた。誰も作りたがらない、石ころだらけの荒れ地だ。
「まあ、ないよりはマシか……」
自嘲気味に呟き、俺はクワを握りしめた。こうして、俺の異世界生活は、英雄譚とは程遠い、泥と汗にまみれた農民暮らしから始まることになったのだ。
この時の俺はまだ知らない。この「無能」と笑われた農業スキルこそが、この世界の常識を根底から覆す、とんでもない可能性を秘めているということを。今はただ、目の前の石ころを取り除き、固い土を耕すことだけが、俺にできるすべてだった。
5
あなたにおすすめの小説
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
平凡な村人だと思われていた俺、実は神々が恐れる最強存在でした〜追放されたけど、無自覚チートで気づけば世界の頂点〜
uzura
ファンタジー
平凡な村人・レオンは、勇者パーティの荷物持ちとして蔑まれ、ある日「役立たず」として追放される。
だが、彼の正体は神々が恐れ、世界の理を超越する“創世の加護”を持つ唯一の存在だった。
本人はまったくの無自覚——それでも歩くたび、出会うたび、彼によって救われ、惹かれていく者たちが増えていく。
裏切った勇者たちは衰退し、彼を捨てた者たちは後悔に沈む。
やがて世界は、レオン中心に回り始める。
これは、最弱を装う最強が、知らぬ間に神々を超える物語。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
勇者パーティを追放された地味な器用貧乏は、 魔王軍の女騎士とスローライフを送る
ちくわ食べます
ファンタジー
勇者パーティから「地味、英雄譚の汚点」と揶揄され追放された器用貧乏な裏方の僕。
帰る場所もなく死の森を彷徨っていたところ、偶然にも重傷を負った魔王軍四天王で最強の女騎士「黒鉄剣のリューシア」と遭遇する。
敵同士のはずなのに、なぜか彼女を放っておけなくて。治療し、世話をし、一緒に暮らすことになった僕。
これは追放された男と、敗北を重ね居場所を失った女の物語。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる