役立たずと追放された俺の農業スキル、実は作物を兵器や霊薬に進化させる最強の力でした。

黒崎隼人

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第2章:隠された真の能力

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 辺境の村『アルム』での生活が始まって、一ヶ月が過ぎた。
 俺の生活は、日の出と共に起き、畑を耕し、日没と共に眠るという、前世では考えられないほど健康的で、そして単調なものだった。
 貸してもらった畑は、村の人たちが言う通り、本当にひどい土地だった。水はけは悪いし、土はカチカチ。それでも俺は、前世でかじった家庭菜園の知識を総動員した。石を一つ一つ取り除き、近くの森から腐葉土を運び込んで土壌を改良し、小さな水路を掘って水はけを良くした。

「ふぅ……こんなもんか」

 額の汗を拭い、俺は自分の畑を見渡す。決して広くはないが、それでも俺だけの城だ。種屋で買った、この世界では一般的な野菜――カブのような見た目の『ポポ蕪』と、大根に似た『白根草』の種を蒔いた。
 スキル鑑定の時の屈辱は、まだ胸の奥で燻っている。【農業スキル Lv.1】。俺は時々、虚空に向かって「ステータス」と呟いてみるが、目の前に半透明のウィンドウが現れるわけでもない。スキルがどういう効果を持っているのか、レベルアップの条件は何なのか、一切が謎のままだった。

「まあ、普通に育ってくれれば御の字か……」

 そう自分に言い聞かせ、俺は毎日、来る日も来る日も作物の世話を続けた。雑草を抜き、水をやり、虫がついていないかを確認する。その作業は不思議と苦ではなく、むしろ土に触れていると心が落ち着いた。

 そして、種を蒔いてからさらに数週間後。事件は起きた。

「でっっっか!」

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。目の前にある『白根草』が、明らかに異常なサイズに育っていたのだ。通常、大人の腕くらいの太さになるらしいのだが、俺の畑のそれは、俺の太ももほどもある。しかも、引っこ抜いてみると、ずっしりと重く、肌は真珠のように艶やかで、みずみずしい香りを放っている。

「なんだこれ……肥料が効きすぎたのか?」

 半信半疑で、今度は『ポポ蕪』を抜いてみる。こちらも同様だった。子供の頭ほどの大きさに育っており、まるで宝石のように淡い紫色に輝いていた。
 俺はゴクリと唾を飲み込み、泥を洗い落とした白根草の一片をかじってみた。

「――うまっ!?」

 シャクッ、という軽快な歯ごたえと共に、口の中いっぱいに衝撃的な甘さと瑞々しさが広がった。梨と大根の良いところを凝縮したような、まさに極上の味。野菜嫌いの子供でも泣いて喜ぶレベルだ。ポポ蕪も同様に、信じられないほどクリーミーで濃厚な味わいだった。

「もしかして、これって……俺のスキルのおかげなのか?」

 呆然と巨大な野菜を眺めていると、背後から凛とした声が聞こえた。

「あなた、その作物……普通じゃないわね」

 振り返ると、そこに一人の少女が立っていた。歳は俺より少し下だろうか。亜麻色の髪をポニーテールにし、意志の強そうな翠色の瞳がまっすぐに俺を射抜いている。ただ、彼女は杖をついており、左足を引きずっているのが痛々しかった。

「驚かせてごめんなさい。私はミーヤ。この村でお世話になっているの」
「あ、いや、俺はコウサク。藤田耕作だ」

 彼女はミーヤと名乗った。村長の家で厄介になっているらしく、時々俺の畑を遠くから見ていたのだという。

「あなたの畑、ずっと気になっていたの。誰も手を出さなかった荒れ地が、日に日に見違えるようになっていくから。それで、今日収穫しているのを見て……その、ありえない大きさの野菜が見えたから、つい」

 ミーヤの目は、俺が持っている白根草に釘付けになっていた。その眼差しは、単なる好奇心だけではない。何かを見定めようとするような、鋭い光を宿している。

「これ、食べてみるか?」
「え、いいの?」

 俺が白根草のかけらを差し出すと、ミーヤは遠慮がちに受け取り、小さく口に含んだ。その瞬間、彼女の翠色の瞳が驚きに見開かれる。

「なっ……何、この味……!? 信じられない。魔力濃度も、生命力も、普通の作物の比じゃない……!」

 魔力濃度? 生命力? 聞き慣れない単語に俺が首を傾げると、ミーヤは興奮した様子で俺に詰め寄った。

「あなた、一体どんなスキルを持っているの!? こんな作物、王都の最高級品でもお目にかかれないわよ!」
「え、いや……俺のスキルは【農業スキル】ってやつで……ギルドでは無能だって笑われたんだけど」

 俺が正直に話すと、ミーヤは呆れたように、しかしどこか嬉しそうに溜息をついた。

「ギルドの連中は節穴ね……。ただの『農業スキル』が、こんな奇跡みたいな作物を生み出せるはずがないわ。あなたのスキルは、きっと何か特別な力……例えば、作物を『進化』させるような、伝説級の能力なのよ」

 進化させる、能力。
 その言葉は、まるで雷のように俺の頭を撃ち抜いた。そうだ、この異常な成長と味は、ただの農業スキルで説明がつくものではない。俺のスキルは、作物を次のステージへと押し上げる、とんでもないポテンシャルを秘めていたのだ。

「私、冒険者は引退したけど、見る目だけは自信があるの」
 ミーヤはそう言うと、悪戯っぽく笑った。彼女は元々、Aランクのパーティに所属するほどの優秀な冒険者だったが、ダンジョンで強力な魔物に遭遇し、足を負傷して引退を余儀なくされたのだという。
「あなたのその力、埋もれさせておくのはもったいないわ。私に協力させてくれない? この『進化作物』、絶対に高く売れる。私たちが組めば、大金持ちになれるわよ!」

 杖をつきながらも、その瞳はかつての冒険者の輝きを取り戻していた。
「無能」と笑われ、一人で始めた畑仕事。だが今、目の前には俺の能力を信じてくれる協力者がいる。そして、足元には奇跡の作物が転がっている。
 俺の異世界での人生は、ここからようやく、本当の意味で始まろうとしていた。
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