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第6話「風神の悪戯、そして2号機の上昇」
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初号機の空中分解から、わずか9ヶ月後。
キイの町の星港は、再び異常な熱気に包まれていた。冬の冷たい空気を切り裂くようにそびえ立つ発射塔には、前号機よりもさらに洗練された白銀の機体「ストライダー2号機」が鎮座している。
前回の教訓を糧に、機体の内部には数百回にも及ぶ燃焼実験で得られた緻密なデータが反映されていた。ガルドの固形魔力結晶はより均一に調整され、レオンの自律型安全結界は、過剰に狭かったマージンを見直し、機体がより柔軟に、かつ安全に空を飛べるよう最適化されていた。
しかし、彼らの前に立ちはだかるのは、計算式や論理回路だけでは計り知れない、大自然という巨大な壁だった。
「……本日の打ち上げは、強風のため延期とします」
レオンの重苦しい声が、地下の管制室に響いた。
予定されていた打ち上げ日は12月14日。しかし、外は荒れ狂う風神が海と崖を殴りつけるような猛烈な嵐だった。発射塔の防護結界がミシミシと悲鳴を上げ、機体を支えるドルトンの鋼の腕が、ギリギリの強度で風に耐えている。
「くそっ! 機体の準備は完璧なのに、風1つで足止めとはな!」
ドルトンが壁を殴りつけ、悔しげに顔を歪めた。
風の強い日に打ち上げを強行すれば、機体は空中で姿勢を崩し、最悪の場合は発射塔に激突する危険性がある。それを避けるためには、どれだけ準備が整っていても、自然が牙を収めるのを待つしかなかった。
「……仕方ありません。顧客の荷物を預かっている以上、少しでも危険があれば止めるのが私たちのルールです」
アリアが、ドルトンをなだめるように静かな声で言った。彼女の目には、落胆の色はなかった。むしろ、初号機の失敗から立ち直り、ここまでこれたことに対する誇りのようなものが宿っていた。
シルヴィアもまた、手元の水晶板で顧客との通信を捌きながら、冷静に状況を分析していた。
「投資家たちには、天候不順による延期と説明しておくわ。彼らも、無理をして2度目の失敗をされるよりは、確実な成功を望んでいるはずよ。……とはいえ、あまり長く待たせるわけにはいかないけれど」
延期による焦りは、確実に技術者たちの心を削っていた。
しかし、レオンは管制室の窓から外の荒れ狂う海を見つめ、静かにつぶやいた。
「風は、必ず止みます。俺たちは、その時を待つだけです」
『焦るな。機体は逃げない。ここで無理をすれば、9ヶ月の努力がすべて無駄になる』
彼は深く深呼吸をし、自分自身に言い聞かせるように、計器盤の数値を1つ1つ確認し始めた。その目には、狂気にも似た情熱と、極限まで研ぎ澄まされた冷静さが同居していた。
そして、その祈りが通じたかのように、4日後の12月18日。
まるで風神が悪戯に飽きたかのように、キイの町の空は嘘のように晴れ渡り、風は凪いでいた。
「風速、規定値内。発射塔の固定結界、解除準備」
レオンの声が、再び管制室に響き渡った。
見学場には、4日前よりもさらに多くの人々が詰めかけていた。遠方から訪れた商人や、わざわざ王都から視察に来た貴族たちの姿もある。初号機の失敗は、逆に「彼らがどこまでやれるのか」という好奇心を世界中に巻き起こしていたのだ。
「全職員、最終退避結界を起動せよ」
彼の声に、誰もが固唾を呑んで水晶板を見つめた。
アリアは両手を強く握り締め、祈るように目を閉じた。ガルドは鼻眼鏡の奥の目をギラつかせ、ドルトンは無意識に腕組みをして筋肉を強張らせていた。シルヴィアだけが、計算機を弾きながら冷静に時間の経過を追っている。
「30秒前。……20、10」
初号機の時と同じ、運命のカウントダウン。
しかし、管制室の空気は前回とは全く違っていた。そこには、ただ成功を信じるだけでなく、あらゆる事態を想定し、覚悟を決めた者たちの重厚な静けさがあった。
「5、4、3、2、1……」
「点火(イグニッション)!」
レオンが魔力石を押し込んだ瞬間、再び世界が轟音と黄金の炎に包まれた。
発射塔から解き放たれた2号機は、初号機と同じように力強く空へ向かって突き進んでいく。
「離昇(リフトオフ)しました! 機体、予定の軌道へ向けて上昇中!」
青年の叫び声と共に、水晶板の光点が凄まじい速度で高度を上げていく。
5秒。10秒。20秒。
初号機が空中で散った魔の5秒を、2号機はあっさりと通過した。
推進炉からの魔力炎は安定しており、計算通りの推力を発揮している。修正された予測プロセスは、完璧に機能していた。
「推力、正常! 第1段魔力結晶、燃焼終了。分離結界、作動!」
レオンの声が、歓喜に震えた。
上空数万メートルの彼方で、役目を終えた第1段の推進筒が切り離され、機体はさらに軽く、さらに速くなっていく。
「第2段魔力結晶、点火! 燃焼安定!」
管制室に、地鳴りのような歓声が上がった。ドルトンが天井に向かって咆哮し、ガルドがガッツポーズを作った。アリアの目から、今度こそ安堵の涙がこぼれ落ちた。
「フェアリング(荷物保護殻)、開頭成功! 積荷の観測魔導具は無事です!」
レオンの報告に、見学場からも大歓声が沸き起こった。
星の軌道まで、あと少し。誰もが、2号機が初号機の雪辱を果たし、王国の民間技術が初めて星の海へ到達する瞬間に立ち会えると信じて疑わなかった。
しかし、空は彼らに、さらなる残酷な試練を用意していた。
キイの町の星港は、再び異常な熱気に包まれていた。冬の冷たい空気を切り裂くようにそびえ立つ発射塔には、前号機よりもさらに洗練された白銀の機体「ストライダー2号機」が鎮座している。
前回の教訓を糧に、機体の内部には数百回にも及ぶ燃焼実験で得られた緻密なデータが反映されていた。ガルドの固形魔力結晶はより均一に調整され、レオンの自律型安全結界は、過剰に狭かったマージンを見直し、機体がより柔軟に、かつ安全に空を飛べるよう最適化されていた。
しかし、彼らの前に立ちはだかるのは、計算式や論理回路だけでは計り知れない、大自然という巨大な壁だった。
「……本日の打ち上げは、強風のため延期とします」
レオンの重苦しい声が、地下の管制室に響いた。
予定されていた打ち上げ日は12月14日。しかし、外は荒れ狂う風神が海と崖を殴りつけるような猛烈な嵐だった。発射塔の防護結界がミシミシと悲鳴を上げ、機体を支えるドルトンの鋼の腕が、ギリギリの強度で風に耐えている。
「くそっ! 機体の準備は完璧なのに、風1つで足止めとはな!」
ドルトンが壁を殴りつけ、悔しげに顔を歪めた。
風の強い日に打ち上げを強行すれば、機体は空中で姿勢を崩し、最悪の場合は発射塔に激突する危険性がある。それを避けるためには、どれだけ準備が整っていても、自然が牙を収めるのを待つしかなかった。
「……仕方ありません。顧客の荷物を預かっている以上、少しでも危険があれば止めるのが私たちのルールです」
アリアが、ドルトンをなだめるように静かな声で言った。彼女の目には、落胆の色はなかった。むしろ、初号機の失敗から立ち直り、ここまでこれたことに対する誇りのようなものが宿っていた。
シルヴィアもまた、手元の水晶板で顧客との通信を捌きながら、冷静に状況を分析していた。
「投資家たちには、天候不順による延期と説明しておくわ。彼らも、無理をして2度目の失敗をされるよりは、確実な成功を望んでいるはずよ。……とはいえ、あまり長く待たせるわけにはいかないけれど」
延期による焦りは、確実に技術者たちの心を削っていた。
しかし、レオンは管制室の窓から外の荒れ狂う海を見つめ、静かにつぶやいた。
「風は、必ず止みます。俺たちは、その時を待つだけです」
『焦るな。機体は逃げない。ここで無理をすれば、9ヶ月の努力がすべて無駄になる』
彼は深く深呼吸をし、自分自身に言い聞かせるように、計器盤の数値を1つ1つ確認し始めた。その目には、狂気にも似た情熱と、極限まで研ぎ澄まされた冷静さが同居していた。
そして、その祈りが通じたかのように、4日後の12月18日。
まるで風神が悪戯に飽きたかのように、キイの町の空は嘘のように晴れ渡り、風は凪いでいた。
「風速、規定値内。発射塔の固定結界、解除準備」
レオンの声が、再び管制室に響き渡った。
見学場には、4日前よりもさらに多くの人々が詰めかけていた。遠方から訪れた商人や、わざわざ王都から視察に来た貴族たちの姿もある。初号機の失敗は、逆に「彼らがどこまでやれるのか」という好奇心を世界中に巻き起こしていたのだ。
「全職員、最終退避結界を起動せよ」
彼の声に、誰もが固唾を呑んで水晶板を見つめた。
アリアは両手を強く握り締め、祈るように目を閉じた。ガルドは鼻眼鏡の奥の目をギラつかせ、ドルトンは無意識に腕組みをして筋肉を強張らせていた。シルヴィアだけが、計算機を弾きながら冷静に時間の経過を追っている。
「30秒前。……20、10」
初号機の時と同じ、運命のカウントダウン。
しかし、管制室の空気は前回とは全く違っていた。そこには、ただ成功を信じるだけでなく、あらゆる事態を想定し、覚悟を決めた者たちの重厚な静けさがあった。
「5、4、3、2、1……」
「点火(イグニッション)!」
レオンが魔力石を押し込んだ瞬間、再び世界が轟音と黄金の炎に包まれた。
発射塔から解き放たれた2号機は、初号機と同じように力強く空へ向かって突き進んでいく。
「離昇(リフトオフ)しました! 機体、予定の軌道へ向けて上昇中!」
青年の叫び声と共に、水晶板の光点が凄まじい速度で高度を上げていく。
5秒。10秒。20秒。
初号機が空中で散った魔の5秒を、2号機はあっさりと通過した。
推進炉からの魔力炎は安定しており、計算通りの推力を発揮している。修正された予測プロセスは、完璧に機能していた。
「推力、正常! 第1段魔力結晶、燃焼終了。分離結界、作動!」
レオンの声が、歓喜に震えた。
上空数万メートルの彼方で、役目を終えた第1段の推進筒が切り離され、機体はさらに軽く、さらに速くなっていく。
「第2段魔力結晶、点火! 燃焼安定!」
管制室に、地鳴りのような歓声が上がった。ドルトンが天井に向かって咆哮し、ガルドがガッツポーズを作った。アリアの目から、今度こそ安堵の涙がこぼれ落ちた。
「フェアリング(荷物保護殻)、開頭成功! 積荷の観測魔導具は無事です!」
レオンの報告に、見学場からも大歓声が沸き起こった。
星の軌道まで、あと少し。誰もが、2号機が初号機の雪辱を果たし、王国の民間技術が初めて星の海へ到達する瞬間に立ち会えると信じて疑わなかった。
しかし、空は彼らに、さらなる残酷な試練を用意していた。
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