追放された天才魔導具師、辺境から星の海へ〜魔法と科学で港町を世界一の宇宙港へ成り上がらせる〜

黒崎隼人

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第8話「空の罠と、徹底的な膿出し」

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 2号機の失敗から数日後。
 アストラル・ワンの会議室は、初号機の時とは比較にならないほどの重苦しい空気に包まれていた。
 テーブルの上には、2号機の残骸から回収された黒焦げのセンサー部品と、膨大な魔力記録の羊皮紙が散乱している。王都の投資家たちからは、出資の引き揚げをちらつかせる脅迫じみた書状が何通も届いていた。

「……つまり、こういうことか」

 ガルドが、鼻眼鏡の奥の目を血走らせながら、1枚の羊皮紙を指差した。

「機体のノズルの角度を測るセンサーが、実際には起きていない『急激な偏向』を検知したという誤信号を、制御回路に送ってしまった。そして、それを受け取った回路が、機体を『まっすぐにする』つもりで、逆にノズルを不適切な方向へ向けてしまい、スピン状態に陥ったと」

「はい。その通りです」

 レオンは深く頷いた。彼の目の下には、初号機の時以上の濃い隈が刻まれていた。

「問題は、なぜそのセンサーが誤信号を出したかです。地上の試験では、あのセンサーは何千回動かしても1度も異常を示しませんでした。しかし、高度100キロメートルの未知の環境――強烈な振動、大気の薄さ、そして魔力的なノイズが複合的に重なった『フライト環境』下で初めて、その脆弱性が顕在化したんです」

『宇宙機の開発において、実際に飛ばすことがいかに代替不可能なデータをもたらすか。それを、2号機は身をもって教えてくれた』

 レオンは、黒焦げのセンサー部品を手に取り、悔しげにそれを見つめた。
 初号機では予測の甘さを痛感し、2号機では未知の環境の恐ろしさを思い知らされた。星への道は、想像以上に険しく、残酷だった。

「で、どうするのよ? 原因が分かったところで、投資家たちはもう3号機を待ってはくれないわ。彼らは『2度あることは3度ある』と思っている」

 シルヴィアが、冷たい声で現実を突きつけた。彼女の言葉は厳しいが、それが商業ギルドとしての正当な評価だった。

「だからこそ、徹底的な『総点検』を行う必要があります」

 レオンは、机の上に新しい図面を広げた。そこには、2号機までとは全く異なる、より堅牢で精密な制御システムの設計が描かれていた。

「まず、ハードウェアの刷新。2号機で不具合を起こしたノズルセンサーを、より耐環境性の高い、軍用レベルの新型部品に変更します。そして、センサー信号を伝達する魔力伝導線の固定位置や経路を根本から見直し、振動によるノイズや断線のリスクを徹底的に排除する」

 その言葉に、ドルトンが身を乗り出した。

「配線の固定なら俺の出番だな。どんなに揺さぶられてもビクともしない、絶対的な装甲で包み込んでやる」

「お願いします。さらに、この対策は第1段だけでなく、同じ構造を持つ第2段、第3段のシステムにも水平展開します。1つでも不安要素があれば、すべてを潰す」

 レオンの目は、狂気じみた光を帯びていた。
 それは、2度の挫折を味わい、それでもなお立ち上がろうとする者の、執念の炎だった。

「そして、ソフトウェアの総点検も行います。地上での試験を、より実際のフライト環境に近づけるための新しい環境シミュレーターを構築し、設計の妥当性を再確認する。これを、2月に予定されている3号機の打ち上げまでに、すべてやり遂げます」

 その言葉に、会議室の空気がピリッと引き締まった。
 彼らは、2度の失敗を「致命的な痛手」ではなく、技術的な成熟を早めるための「徹底的な膿出し」と位置づけたのだ。

「……いいわ。投資家たちには、私からこう伝える。『我々は、未知の空の罠をすべて解き明かした。3号機は、もはや実験の域を脱し、事業として自立するための決定的な一歩となる』とね。だから、あなたは絶対に、3度目の正直を証明しなさい」

 シルヴィアが、挑戦的な笑みを浮かべて青年を見た。
 アリアもまた、力強く頷いた。

「町の人たちも、誰も諦めていないわ。みんな、3号機が飛ぶ日を心待ちにしている。だからレオンさん、私たちに、星の海を見せて」

「ああ、約束する。必ず」

 レオンは、仲間たちの顔を力強く見回した。
 彼らの心は、2度の失敗を経て、鋼のように鍛え上げられていた。
 3号機への道のりは、決して平坦ではない。しかし、彼らの不屈の精神は、空の神すらもねじ伏せるほどの凄絶な熱量を持って、次なる飛翔の準備を始めていたのである。
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