追放された天才魔導具師、辺境から星の海へ〜魔法と科学で港町を世界一の宇宙港へ成り上がらせる〜

黒崎隼人

文字の大きさ
10 / 15

第9話「3000の祈りと、星のまちの息吹」

しおりを挟む
 ストライダー3号機の打ち上げ予定日まで、残すところ1ヶ月と迫ったある日のこと。
 キイの町は、これまでにない異様な熱気と喧騒に包まれていた。初号機、2号機の喪失という重い過去を背負いながらも、町の人々の顔に悲壮感はない。むしろ、何度地に落ちようとも空を睨み続けるアストラル・ワンの不屈の姿勢が、辺境の漁師町に強烈な誇りと一体感をもたらしていたのだ。

 町の中央広場には、色鮮やかなのぼり旗が何本も立てられ、海風にはためいていた。そこには「挑み続けよう、空の彼方へ」「アストラル・ワン応援団」といった力強い文字が躍っている。
 広場の一角に設けられた特設テントでは、領主代行のアリアが、ひっきりなしに訪れる住民や他領からの来客対応に追われていた。

「アリア様! 隣の領地から、応援メッセージの羊皮紙がさらに50枚届きました! これで総数は3000枚を超えます!」

 興奮した様子の文官が、山のような羊皮紙の束を抱えて駆け込んでくる。彼女は目を丸くしながらも、嬉しそうにその束を受け取った。

「3000枚……すごいわね。キイの町だけでなく、王国中からこんなにたくさんの思いが寄せられるなんて」

「ええ! それに、打ち上げ当日の見学会には、王都の貴族や他国の商人たちも含めて、数千人規模の観客が押し寄せるとの報告が入っています。急遽、宿屋の増築や臨時馬車の運行を手配しなければなりません!」

 文官の報告に、アリアは心地よい目眩を覚えた。
 かつて、人口減少と産業の衰退に喘ぎ、「ただ忘れ去られるのを待つだけ」だったこの最南端の町が、今や王国で最も熱い視線を集める「星のまち」としてブランド化しつつある。飛翔体見学会という新たな観光資源は、交通インフラの整備や関連商品の販売を生み出し、町に莫大な経済的波及効果をもたらしていたのだ。

『レオンさんの無謀な夢が、本当にこの町を変えてしまった』

 アリアは、広場の奥に作られた真新しい石造りの建物を眩しそうに見つめた。
 それは、地元の公立魔導学校に新設された「宇宙探究コース」の学び舎であり、子供から大人までが星の軌道や魔導工学を学べる「宇宙ふれあいホール」だった。レオンたちが持ち込んだ最先端の技術は、単なる見世物ではなく、地元の子供たちの人生観を揺さぶる生きた教材となり、全国から宇宙を志す若者たちをこの辺境の町へと呼び寄せる磁力となっていたのだ。

「アリア、忙しそうだな。少し休憩しないか?」

 背後から声をかけられ、振り返ると、油と煤で顔を黒く汚したレオンが立っていた。彼の手には、金属の筒に厳重に保管された分厚い羊皮紙の束――集まった3000名の応援メッセージを特殊な魔力で縮小転写した特製シール――が握られている。

「レオンさん! ちょうどよかった。見て、またこんなに応援の声が届いたのよ。みんな、3号機の打ち上げを心待ちにしているわ」

 アリアが満面の笑みで羊皮紙の束を示すと、レオンは少し照れたように頭を掻いた。

「ああ、商業ギルドのシルヴィアからも聞いている。見学会のチケットは即日完売、町の宿は数ヶ月先まで満室らしいな。俺たちが失敗続きの不良債権だと思っていた投資家たちも、この熱狂ぶりを見て手のひらを返したように追加融資を申し出てきているそうだ」

「ふふっ、シルヴィアの交渉術のおかげでもあるけれど、何よりレオンさんたちが決して諦めなかったからよ。2度の失敗を糧にして、さらに強い機体を作り上げようとする姿に、みんな心を打たれているの」

 真っすぐな言葉に、彼は手元の金属筒を強く握りしめた。

「この3000名の想いは、すべて3号機の装甲に刻み込んで、星の軌道まで持っていく。俺たちの機体は、もはやアストラル・ワンだけのものじゃない。このキイの町、いや、王国全体の未来を乗せた『希望の象徴』なんだ」

 レオンの瞳には、かつて王立魔導院を追放された時の反骨心だけでなく、重い責任と深い感謝の光が宿っていた。
 2人は並んで、崖の向こうにそびえ立つ巨大な発射塔を見上げた。あの鋼の塔の頂には、すでに3号機の白銀の機体が据え付けられ、最終調整の時を待っている。

「今度こそ、絶対に届けるさ。俺たちの『好機』を」

 青年の静かな誓いは、賑やかな広場の喧騒の中で、アリアの耳にだけ確かに届いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...