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番外編1:仮面公爵の秘めたる初恋
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カイウス・フォン・ヴォルフガングの記憶の片隅には、ずっと消えない光景があった。
それは、彼がまだ十五歳の少年だった頃のことだ。母の悲劇的な死の後、父から受け継いだ美しい顔を呪い、自ら仮面を被って心を閉ざしていた。ヴォルフガング家の庭園は、彼にとって唯一の安息の場所であり、同時に孤独を噛みしめる檻でもあった。
その日、父が王都から招いた貴族の中に、小さな少女が混じっていた。退屈したのか、彼女は一人で庭園に迷い込んできたのだ。銀色の髪を風に揺らし、まるで妖精のような少女だった。
カイウスは咄嗟に物陰に隠れようとしたが、間に合わなかった。少女は、仮面を被った異様な姿の彼を見つけてしまった。
(……怖がられるか、気味悪がられるか)
いつも通りの反応を予測し、カイウスは固く身をこわばらせた。
しかし、少女の反応は全く違っていた。
彼女は驚いたように少し目を見開いたが、すぐに駆け寄ってくると、彼の仮面を興味深そうに見上げた。
「まあ、素敵な仮面ですわね。でも、どうしてそんなものでお顔を隠しているの?」
カイウスが答えられずにいると、少女はふと、仮面の隙間から覗く彼の頬の傷に気づいた。だが、彼女は怯えなかった。それどころか、少し悲しそうに眉を寄せると、こう言ったのだ。
「痛かったでしょう? でも、大丈夫。貴方様の瞳は、夜空で一番綺麗な星の色をしていますもの。とっても、綺麗ですわ」
そう言って、彼女は無邪気ににこりと笑った。
その瞬間、カイウスの世界に、初めて光が差し込んだ気がした。
顔の傷でも、仮面でもなく、自分の瞳の色を「綺麗だ」と言ってくれた、初めての人間。その屈託のない笑顔と、鈴を転がすような声。
彼の凍てついていた心に、ぽっと温かな灯火がともった。
結局、すぐに侍女に呼ばれて、少女は去っていった。名前を聞くこともできなかった。
だが、その出会いは、カイウスの心に深く、深く刻まれた。いつかまた、あの少女に会える日が来るのなら。そう、淡い期待を抱きながら、彼は過酷な辺境の地で領主としての責務を果たし続けた。
そして、十年後。
王太子の婚約披露パーティーで、絶世の美女と謳われる公爵令嬢が、彼の前に現れた。
「私と、結婚してくださいませんか?」
その真っ直ぐな瞳を見た瞬間、カイウスは確信した。あの時の少女、レティシア・フォン・オーブリーだと。彼女は彼のことを覚えていないようだったが、構わなかった。
彼女からの思いもよらない結婚の申し込み。それは、他の誰かにとっては奇行だったかもしれない。
しかし、カイウス・フォン・ヴォルフガングにとって、それは十年越しの、運命の再会だったのだ。
だから彼は、あの契約結婚の提案を、迷うことなく受け入れた。これは、神が与えてくれた二度目のチャンスなのだと、彼は信じていたから。彼の秘めたる初恋が、ようやく実を結ぶ始まりの瞬間だった。
それは、彼がまだ十五歳の少年だった頃のことだ。母の悲劇的な死の後、父から受け継いだ美しい顔を呪い、自ら仮面を被って心を閉ざしていた。ヴォルフガング家の庭園は、彼にとって唯一の安息の場所であり、同時に孤独を噛みしめる檻でもあった。
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カイウスは咄嗟に物陰に隠れようとしたが、間に合わなかった。少女は、仮面を被った異様な姿の彼を見つけてしまった。
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しかし、少女の反応は全く違っていた。
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「まあ、素敵な仮面ですわね。でも、どうしてそんなものでお顔を隠しているの?」
カイウスが答えられずにいると、少女はふと、仮面の隙間から覗く彼の頬の傷に気づいた。だが、彼女は怯えなかった。それどころか、少し悲しそうに眉を寄せると、こう言ったのだ。
「痛かったでしょう? でも、大丈夫。貴方様の瞳は、夜空で一番綺麗な星の色をしていますもの。とっても、綺麗ですわ」
そう言って、彼女は無邪気ににこりと笑った。
その瞬間、カイウスの世界に、初めて光が差し込んだ気がした。
顔の傷でも、仮面でもなく、自分の瞳の色を「綺麗だ」と言ってくれた、初めての人間。その屈託のない笑顔と、鈴を転がすような声。
彼の凍てついていた心に、ぽっと温かな灯火がともった。
結局、すぐに侍女に呼ばれて、少女は去っていった。名前を聞くこともできなかった。
だが、その出会いは、カイウスの心に深く、深く刻まれた。いつかまた、あの少女に会える日が来るのなら。そう、淡い期待を抱きながら、彼は過酷な辺境の地で領主としての責務を果たし続けた。
そして、十年後。
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「私と、結婚してくださいませんか?」
その真っ直ぐな瞳を見た瞬間、カイウスは確信した。あの時の少女、レティシア・フォン・オーブリーだと。彼女は彼のことを覚えていないようだったが、構わなかった。
彼女からの思いもよらない結婚の申し込み。それは、他の誰かにとっては奇行だったかもしれない。
しかし、カイウス・フォン・ヴォルフガングにとって、それは十年越しの、運命の再会だったのだ。
だから彼は、あの契約結婚の提案を、迷うことなく受け入れた。これは、神が与えてくれた二度目のチャンスなのだと、彼は信じていたから。彼の秘めたる初恋が、ようやく実を結ぶ始まりの瞬間だった。
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