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第7話「その名は王国に響き渡る」
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王都での料理対決におけるリツの圧勝は、まるで伝説のように、瞬く間に王国全土へと広まっていった。「田舎の無名料理人が、美食協会の権威をたった一皿で打ち破った」というニュースは、民衆にとって痛快そのものだった。そして、革命の一皿となった「ロックボアのロースト」の味を確かめようと、多くの人々がリツの店、《畑のテーブル》を目指し始めた。
店は以前とは比べものにならないほどの活気に満ち溢れていた。王都からわざわざ馬車を乗り継いでやってくる貴族、噂を聞きつけた遠方の商人、そしてリツの料理に未来を見た若い料理人たち。店の前には、開店前から長蛇の列ができるのが当たり前の光景となった。予約は数ヶ月先まで埋まり、もはや街の小さなレストランではなく、王国で最も注目される美食の聖地となっていた。
「リツさん! こっちのテーブル、追加のパンをお願いします!」
「はーい、今行きます!」
店の中を忙しく飛び回るエリアの声が、活気ある喧騒に響く。彼女はもはや、ただの手伝いの少女ではない。リツが厨房で腕を振るう傍ら、客席全体に気を配り、最高のサービスを提供する、店の顔ともいえる存在に成長していた。
ガルドも、ただの用心棒ではなかった。彼はその厳格な見た目とは裏腹に、丁寧な接客で店の秩序を保ち、時にはリツに代わって客からの予約電話を受けるなど、店の運営に欠かせない大黒柱となっていた。
リツは、自分を信じ、支えてくれた仲間たちの存在の大きさを、改めて感じていた。この店は自分一人だけの店ではない。エリアがいて、ガルドがいて、そして料理を楽しみにしてくれる客たちがいて、初めて《畑のテーブル》なのだ。
ある日の営業後、リツは二人を前に、重大な提案をした。
「エリア、君をこの店の正式な副料理長に任命したい。そしてガルドさんには、店の支配人をお願いしたいんだ」
「えっ、私が、副料理長…?」
エリアは驚きに目を丸くする。まだまだリツから学ぶことばかりで、そんな大役が務まる自信はなかった。
「ああ。君の野菜に対する愛情と、味覚の確かさは本物だ。これからは、俺と一緒に厨房に立って、新しいメニューを考えてほしい」
「支配人、か。柄じゃねえんだがな」
ガルドは照れくさそうに頭を掻く。
「そんなことありません。ガルドさんがいてくれるから、俺たちは安心して料理に集中できるんです。店の経営面も、ぜひ力を貸してください」
リツの真剣な言葉に、二人は顔を見合わせた。そして、力強く頷く。
「…分かった。リツさんがそう言うなら、やってみる!」
「おう。お前たちの城だ。俺にできることなら、何でもやってやるさ」
こうして、《畑のテーブル》は新たな体制で、その未来へと歩み始めた。
さらに、リツのもとには「弟子にしてほしい」と懇願する若者たちが、国中から集まってくるようになった。リツは彼らを無下に断ることなく、熱意のある者を受け入れ、自身の持つ科学的な知識と、料理人としての哲学を惜しみなく伝え始めた。彼は、自分一人が有名になるのではなく、この国全体の食文化のレベルを引き上げたいと、心から願うようになっていたのだ。
一方、料理対決で権威を失墜させたバルトーク卿は、美食協会会長の座を追われることとなった。彼の時代は、完全に終わりを告げたのだ。
そして、美食協会の新しい会長には、旧体制に疑問を抱いていた若き改革派の貴族、クリフォード辺境伯が就任した。彼は、伝統を重んじつつも、新しい風を取り入れることの重要性を理解している人物だった。
そのクリフォード辺境伯が、ある日、自ら《畑のテーブル》を訪れた。彼はリツの料理に心からの感銘を受けると、深々と頭を下げた。
「リツ殿。貴殿のような素晴らしい料理人が、これまでの協会によって不当な扱いを受けていたことを、心からお詫び申し上げる。そして、一つ、お願いがある」
クリフォード辺境伯は、リツに美食協会の顧問に就任してほしいと要請した。腐敗した協会の古い体質を根本から変え、本当に美味いものが正当に評価される組織に生まれ変わらせるため、リツの革新的な力が必要だと言うのだ。
それは、かつて自分を潰そうとした組織からの、予期せぬ申し出だった。しかしリツは、その申し出を受けることにした。バルトーク卿個人への恨みはあっても、王国の食文化の未来を閉ざしたくはない。自分の知識や経験が、この国の食を豊かにするために役立つのであれば、喜んで協力しようと思ったのだ。
リツが協会の顧問に就任したことで、王国全体の食文化は大きな変革の時を迎える。リツが指導した新しい調理法や、科学的な農業の知識は、協会を通じて全国の料理人や農家へと広まっていく。それは、一人の追放された料理人が起こした、静かで、しかし偉大な食の革命だった。
リツと《畑のテーブル》の名は、もはや単なる人気店の枠を超え、王国史に刻まれる伝説として、人々の間で語り継がれていくことになるのだった。
店は以前とは比べものにならないほどの活気に満ち溢れていた。王都からわざわざ馬車を乗り継いでやってくる貴族、噂を聞きつけた遠方の商人、そしてリツの料理に未来を見た若い料理人たち。店の前には、開店前から長蛇の列ができるのが当たり前の光景となった。予約は数ヶ月先まで埋まり、もはや街の小さなレストランではなく、王国で最も注目される美食の聖地となっていた。
「リツさん! こっちのテーブル、追加のパンをお願いします!」
「はーい、今行きます!」
店の中を忙しく飛び回るエリアの声が、活気ある喧騒に響く。彼女はもはや、ただの手伝いの少女ではない。リツが厨房で腕を振るう傍ら、客席全体に気を配り、最高のサービスを提供する、店の顔ともいえる存在に成長していた。
ガルドも、ただの用心棒ではなかった。彼はその厳格な見た目とは裏腹に、丁寧な接客で店の秩序を保ち、時にはリツに代わって客からの予約電話を受けるなど、店の運営に欠かせない大黒柱となっていた。
リツは、自分を信じ、支えてくれた仲間たちの存在の大きさを、改めて感じていた。この店は自分一人だけの店ではない。エリアがいて、ガルドがいて、そして料理を楽しみにしてくれる客たちがいて、初めて《畑のテーブル》なのだ。
ある日の営業後、リツは二人を前に、重大な提案をした。
「エリア、君をこの店の正式な副料理長に任命したい。そしてガルドさんには、店の支配人をお願いしたいんだ」
「えっ、私が、副料理長…?」
エリアは驚きに目を丸くする。まだまだリツから学ぶことばかりで、そんな大役が務まる自信はなかった。
「ああ。君の野菜に対する愛情と、味覚の確かさは本物だ。これからは、俺と一緒に厨房に立って、新しいメニューを考えてほしい」
「支配人、か。柄じゃねえんだがな」
ガルドは照れくさそうに頭を掻く。
「そんなことありません。ガルドさんがいてくれるから、俺たちは安心して料理に集中できるんです。店の経営面も、ぜひ力を貸してください」
リツの真剣な言葉に、二人は顔を見合わせた。そして、力強く頷く。
「…分かった。リツさんがそう言うなら、やってみる!」
「おう。お前たちの城だ。俺にできることなら、何でもやってやるさ」
こうして、《畑のテーブル》は新たな体制で、その未来へと歩み始めた。
さらに、リツのもとには「弟子にしてほしい」と懇願する若者たちが、国中から集まってくるようになった。リツは彼らを無下に断ることなく、熱意のある者を受け入れ、自身の持つ科学的な知識と、料理人としての哲学を惜しみなく伝え始めた。彼は、自分一人が有名になるのではなく、この国全体の食文化のレベルを引き上げたいと、心から願うようになっていたのだ。
一方、料理対決で権威を失墜させたバルトーク卿は、美食協会会長の座を追われることとなった。彼の時代は、完全に終わりを告げたのだ。
そして、美食協会の新しい会長には、旧体制に疑問を抱いていた若き改革派の貴族、クリフォード辺境伯が就任した。彼は、伝統を重んじつつも、新しい風を取り入れることの重要性を理解している人物だった。
そのクリフォード辺境伯が、ある日、自ら《畑のテーブル》を訪れた。彼はリツの料理に心からの感銘を受けると、深々と頭を下げた。
「リツ殿。貴殿のような素晴らしい料理人が、これまでの協会によって不当な扱いを受けていたことを、心からお詫び申し上げる。そして、一つ、お願いがある」
クリフォード辺境伯は、リツに美食協会の顧問に就任してほしいと要請した。腐敗した協会の古い体質を根本から変え、本当に美味いものが正当に評価される組織に生まれ変わらせるため、リツの革新的な力が必要だと言うのだ。
それは、かつて自分を潰そうとした組織からの、予期せぬ申し出だった。しかしリツは、その申し出を受けることにした。バルトーク卿個人への恨みはあっても、王国の食文化の未来を閉ざしたくはない。自分の知識や経験が、この国の食を豊かにするために役立つのであれば、喜んで協力しようと思ったのだ。
リツが協会の顧問に就任したことで、王国全体の食文化は大きな変革の時を迎える。リツが指導した新しい調理法や、科学的な農業の知識は、協会を通じて全国の料理人や農家へと広まっていく。それは、一人の追放された料理人が起こした、静かで、しかし偉大な食の革命だった。
リツと《畑のテーブル》の名は、もはや単なる人気店の枠を超え、王国史に刻まれる伝説として、人々の間で語り継がれていくことになるのだった。
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