才能を妬まれ追放された元星付き料理人、畑作チートで異世界をグルメ革命。目指すは宇宙一のレストランです

黒崎隼人

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エピローグ「十年後の食卓」

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 《畑のテーブル》の開店から、十年が経過した。
 あの小さなレストランは、今や大陸一と評価される名店となり、その名は伝説の料理人として、吟遊詩人の歌の題材になるほどだった。リツの隣には、公私にわたる最高のパートナーとなったエリアが、変わらない笑顔で立っている。彼女は副料理長としてだけでなく、店の経営においてもその才能を発揮し、今やリツにとってなくてはならない存在だ。支配人となったガルドは、昔の無骨さはそのままに、そこに温かな眼差しを加え、大勢の従業員たちを厳しくも優しく見守っていた。
 ある日のディナータイム。店の隅にある、窓から畑が見える特等席に、すっかり年老いた一人の客が静かに座っていた。背筋は曲がり、かつての威光は見る影もない。だが、その瞳は、目の前の料理を愛おしむように、穏やかな光を宿していた。
 かつて、リツを王国から追い出そうと画策した、バルトーク元美食協会会長だった。
 権力の座から降りた彼は、一度、全てのプライドを捨ててこの店を訪れた。そして、一口料理を食べた瞬間、自分がどれほど愚かで、狭い世界に生きていたかを悟ったのだという。以来、彼は身分を隠し、この店の料理を心から愛する、ただの一人の常連客となっていた。
 リツが、彼のテーブルに静かに歩み寄る。
「バルトーク様。今宵の料理は、お口に合いましたでしょうか」
 リツは、彼の正体を知りながらも、何も言わずに一人の客として接し続けていた。それが、リツなりのけじめだった。
 バルトークは、ゆっくりと顔を上げた。その顔には、深い皺が刻まれている。
「…ああ。いつ来ても、君の料理は素晴らしい。心に染みる」
 彼は、しばらく窓の外の豊かな畑を眺めた後、ぽつりと言った。
「君は、この国の食の歴史を変えた。そして、わしの凝り固まった舌と心をも救ってくれた。…わしは、間違っていたよ」
 それは、十年の時を経て、ようやく口にできた、心からの謝罪の言葉だった。
 リツは何も言わず、ただ静かに微笑み、深く一礼してその場を去った。過去の遺恨は、もうどこにもなかった。ただ、美味しい料理を愛する二人の人間が、そこにいるだけだった。
 その夜、全ての営業が終わり、店の屋根裏部屋から、リツとエリアは満天の星を眺めていた。この部屋は、二人がささやかな夢を語り合う、お気に入りの場所だ。
「ねえ、リツ。本当に宇宙一のレストラン、まだ目指してるの?」
 エリアが、リツの肩にこてんと頭を乗せながら尋ねる。
「もちろん。当たり前じゃないか」
 リツは夜空に浮かぶ、ひときわ明るい星を指さした。
「次は、あの星でしか採れないっていう『星屑茸』で、スープを作ってみたいな。きっと、とんでもない味がするぞ」
「もう、またそんな夢みたいなこと言って。でも…」
 エリアは顔を上げ、リツの瞳をじっと見つめた。
「…でも、リツとなら、本当に叶えられそうな気がするから、不思議」
 二人は顔を見合わせ、穏やかに笑い合った。
 彼らの物語は、ここで一旦の幕を閉じる。しかし、畑から始まった二人の美味しい冒険に、終わりはない。その夢は、この異世界の空を越えて、いつかきっと、果てしない宇宙へと広がっていくのだろう。
 レストラン《畑のテーブル》の厨房には、今日も温かな灯りがともっている。
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