戦闘力ゼロと追放された俺のスキルは、全ての最適解を導き出す【データ分析】。論理的に成り上がり気づけば一国の宰相に

黒崎隼人

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第5話「遺跡の罠と最適攻略ルート」

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 黒鉄の森は、その名の通り鉄分を多く含んだ黒い土壌と不気味にねじくれた木々が立ち並ぶ場所だった。空気は重く、時折遠くからモンスターの咆哮が聞こえてくる。

「本当にこっちで合ってるのか? こっちは獣道だぞ」
 フェンが不審そうな顔で俺に尋ねる。俺はスキルのマップ表示に従い、冒険者が使う街道を外れてけもの道を進んでいた。

「ああ。こっちが最適ルートだ。街道を進むとブラッドウルフの群れと遭遇する確率が83%だが、このルートなら15%まで下げられる」
「……なんでそんなことが分かるんだ?」
「俺のスキルだと言っただろう」

 俺の視界にはリアルタイムで更新されるマップとモンスターの分布予測が表示されている。フェンはまだ半信半半疑のようだが、リノアは「アッシュさんの言う通りにすれば大丈夫です」と俺に全幅の信頼を寄せている。

 しばらく進むと開けた場所に出た。そこには古代の石材で造られた巨大な遺跡の入り口が口を開けていた。
「ここか……」
 フェンがごくりと喉を鳴らす。入り口の周りにはいくつもの真新しい戦闘の跡があった。他の冒険者が挑み、そして敗れ去った痕跡だろう。

「よし行くぞ。気を引き締めろ」
 俺たちは遺跡の中へと足を踏み入れた。内部はひんやりとしていて薄暗い。壁には古代の文字が刻まれているが、風化していて読むことはできない。

 最初の通路を進んでいると俺のスキルが警告を発した。
 《警告:前方3メートル、床に感圧式の罠》
 《種類:毒矢。作動した場合の生存確率:65%(リノアの治癒魔法込み)》
 《回避ルート:通路の右端、壁から30センチのラインを歩行》

「ストップ。そこから先、床に罠がある。全員俺のすぐ後ろを、俺が歩いた場所と寸分違わずについてこい」
 俺は慎重にスキルが示した安全地帯を選んで歩を進める。フェンは訝しげな顔をしながらも、リノアと共に俺の後ろについてきた。
 俺たちが通り過ぎた直後、カチリと小さな音がして俺たちが避けた床から無数の毒矢が飛び出した。

「ひっ……!」
 リノアが小さな悲鳴を上げる。フェンも信じられないといった表情で毒矢が突き刺さった壁を見ていた。
「……なんで分かったんだ?」
「だからスキルだ」
 俺がそう言うと、フェンは今度こそ何も言わずにうなずいた。ようやく俺の能力を少しは認めたらしい。

 遺跡の奥へ進むと広間に出た。そこには一体のストーンゴーレムがガーディアンとして待ち構えていた。
「グルオオオ!」
 ゴーレムが雄叫びを上げ、その巨大な岩の拳を振り上げてくる。

「フェン、前に出ろ! 俺が指示を出す!」
「おう!」
 フェンは二本の短剣を抜きゴーレムに向かって駆け出した。

 《戦闘シミュレーション開始》
 《対象:ストーンゴーレム》
 《特徴:物理防御力が極めて高い。関節部が弱点。動きは遅い》
 《フェンの最適行動パターンを算出》

「フェン! 奴の攻撃パターンは単純だ! 大振りの後1.5秒の硬直がある! 懐に潜り込んで右膝の関節を狙え!」
「了解!」
 フェンはゴーレムの拳をひらりとかわし、その巨体に肉薄する。そして俺が指示した通り右膝の関節部分に短剣を突き立てた。

 ガキンと硬い音はしたがゴーレムは体勢を崩す。
「いいぞ! 次は左肘だ! 奴が体勢を立て直す前に畳みかけろ!」
 俺の指示は矢継ぎ早に飛ぶ。フェンはまるで俺の手足のように的確にゴーレムの弱点を突いていく。彼女の身体能力は凄まじく、俺の分析能力と組み合わせることでその戦闘力は何倍にも跳ね上がっていた。

「リノア! フェンの足元に補助魔法を! 移動速度を上げるんだ!」
「は、はい!」
 リノアの魔法でフェンの動きがさらに加速する。

 数分後、ストーンゴーレムは全身の関節を破壊され動きを止めた。
「はぁ、はぁ……。す、すごい……。あたしがゴーレムをほとんど無傷で……」
 フェンは自分の手を見つめ呆然とつぶやいている。

「お前の力と俺の頭脳の合わせ技だ。それより奥へ進むぞ」
 広間の奥には小さな祭壇があった。そしてその上には一冊の古い本が置かれている。
「これだ……! これに一族の病気を治す方法が……!」
 フェンが駆け寄りその本を手に取った。

 その瞬間、遺跡全体が大きく揺れ始めた。天井からパラパラと石屑が落ちてくる。
 《警告:トラップ作動。遺跡の崩壊が開始されました》
 《脱出までのリミット:180秒》
 《最適脱出ルートをマップに表示》

「まずい、脱出するぞ! 全速力で走れ!」
 俺たちは来た道を引き返し始めた。だが通路は次々と崩れ道を塞いでいく。
「こっちだ! この壁はもろい!」
 俺はスキルが示した強度の低い壁を指差す。フェンがその壁にタックルすると簡単に崩れて新しい道が開けた。

 俺たちは迷路のような遺跡の中をスキルのナビゲーションだけを頼りに走り抜ける。後ろからは轟音と共に天井が崩落してくる。
 そしてリミットぎりぎりで、俺たちは遺跡の入り口から外へと転がり出した。
 直後、遺跡は完全に崩壊し土煙が舞い上がった。

「ぜぇ……ぜぇ……。助かった……」
 フェンはその場に座り込み、手にした本を大事そうに抱きしめた。
「あんたすごいな……。本当に成功確率78.2%だったのかもしれない」
 彼女は初めて俺に尊敬の念がこもった視線を向けた。

「言っただろ。全てはデータ通りだ」
 俺は息を整えながら不敵に笑った。

 こうして俺たちは誰もが不可能だと思っていたAランク依頼を見事に達成した。
 俺のスキル【データ分析】は戦闘においても最強の武器になる。そのことをこの世界の誰もがまだ知らない。
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