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第1話「役立たずの地図製作者」
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「レイン、お前は今日でクビだ」
一切の感情を排した冷たい声が、薄暗い洞窟に響き渡った。
声の主は俺が所属するパーティー『赤き獅子の爪痕』のリーダー、アルド。燃えるような赤髪を揺らし、腰に差した長剣の柄に手をかけながら、ゴミでも見るような目で俺を見下ろしている。
『やっぱり、こうなるのか……』
心のどこかで覚悟はしていた。俺の職業は【地図製作者(マッパー)】。戦闘能力はゼロ。冒険者としてはあまりに不向きな、いわゆるハズレ職業だ。
このパーティーでの俺の役割はダンジョンの構造を記録し、安全なルートを確保すること。それと皆の荷物持ちだ。だが、アルドたちはもっと直接的な戦力を求めていた。
「どうしてですか、アルドさん。俺はこれまでずっとパーティーのために……」
「うるさい!貴様の地図作りはいつもノロノロと時間がかかりすぎる!そのせいで何度、危険な目に遭ったと思ってる!」
魔法使いのセーラが扇子で口元を隠しクスクスと笑う。僧侶のマルクは気まずそうに目をそらし、盗賊のジンは壁に寄りかかって爪をいじっているだけ。誰も俺をかばってはくれない。
「だがな、レイン。貴様がただの荷物持ちとしてそれなりに働いてきたことには感謝してやらんこともない。だから温情だ。これだけくれてやる」
アルドが足元に放り投げたのは古びた革袋。中身は銅貨数枚と干し肉が二切れ。三日も生きられない雀の涙ほどの餞別だった。
「ここは『忘却の深淵』の第五階層だ。ここから一人で地上に戻れるなら、せいぜい頑張るんだな。まあ、貴様のような役立たずには無理だろうが」
高笑いを響かせながらアルドたちは背を向ける。彼らが持つ松明の光が遠ざかり、俺は完全な暗闇と静寂の中に一人取り残された。
背後からは得体の知れない魔物のうめき声が聞こえてくる。
『冗談じゃない……こんな場所に一人で置いていくなんて……』
膝から崩れ落ち、冷たい石の床に手をつく。絶望がじわじわと身体を蝕んでいく。
これまで必死にパーティーに貢献しようと、寝る間も惜しんで地図を作ってきた。誰もやりたがらない雑用も率先して引き受けた。それなのに、この仕打ちだ。
悔しさと虚しさで視界が滲む。
その時、不意に脳内へ直接、声のようなものが響いた。
《熟練度が規定値に到達しました。スキル【地図製作者】が進化します》
『……は?』
なんだ、今の声は。幻聴か?
しかしその声に呼応するように、身体の奥から温かい何かが湧き上がってくるのを感じた。
目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がる。ゲームのステータス画面のような、今まで見たこともないものだ。
【スキル: 絶対領域把握(ワールド・マッピング) Lv.1】
・効果1: マッピング…視認、あるいは踏破した領域の三次元構造、オブジェクト配置(魔物、宝箱、罠など)を自動的に記録し、脳内マップに表示する。
・効果2: マーキング…マップ上の任意の地点に印を設置する。
・効果3: リモート・ビューイング…マーキングした地点の現在の様子を遠隔視できる。
・効果4: マーキング・テレポート…マーキングした地点へ瞬時に転移できる。(消費MP: 距離に依存)
『絶対領域……把握?』
意味が分からない。だが説明を読む限り、とんでもないスキルに進化したことだけは理解できた。
特に最後の『マーキング・テレポート』。転移魔法なんて王宮魔術師でも一部の天才しか使えないと言われる超希少魔法だ。それが俺のスキルに……?
試しに目の前の壁に向かって『マーキング』と念じてみる。すると壁に淡い光の印が灯った。
次にすぐ隣の、二歩ほど離れた場所へ『テレポート』と念じる。
瞬間、視界がぐにゃりと歪み、次の瞬間には俺はマーキングした壁の隣に立っていた。
乗り物酔いに似た感覚が少しだけ残るが、確かに移動している。
『……すごい。本当に転移できた』
これが俺の力?今まで役立たずだと罵られてきた、俺だけの力?
ふと、ある考えが頭をよぎる。このダンジョンに入ってから今まで、俺はずっと地図を描き続けてきた。それはつまりこの第五階層までの道はすべて、俺の頭の中に記録されているということだ。
俺は脳内に浮かんだマップを開く。それは今まで俺が羊皮紙に描いてきた平面的な地図とは全く違った。洞窟の凹凸、通路の傾斜、水たまりの位置まで、全てが立体的にそして完璧に再現されている。
『このスキルのマッピング能力……俺が今までやってきたこととは次元が違う』
マップ上には赤い点で魔物の位置が表示され、黄色い点で宝箱らしき反応まで示されている。そして俺が今いる場所からダンジョンの入り口までの最短ルートが、青い光の線で示されていた。
『この力があれば、一人でも地上に戻れる……!』
絶望の淵から一筋の光明が差した。
いや、戻るだけじゃない。
マップを見るとアルドたちが進んだルートの先には、おびただしい数の赤い点が密集しているエリアがあった。おそらく強力なモンスターの巣だ。彼らは俺という地図を失ったことで、自ら死地へと向かっている。
『自業自得だ』
冷たい感情が胸をよぎる。彼らに教えてやる義理はもうない。
それよりもマップにはもう一つ、気になる表示があった。アルドたちとは逆方向の、これまで誰も踏み入れたことのない未踏破エリア。そこに一際大きく輝く黄色い点があった。伝説級のアイテムでも眠っているのかもしれない。
『行ってみたい……』
好奇心が恐怖を上回る。
今まで俺は常にパーティーの足手まといにならないよう、安全な道ばかりを選んできた。自分の意思で道を決めることなんて一度もなかった。
でも今は違う。俺にはこの力がある。
俺は自分の意思で、自分の道を選べるんだ。
俺は大きく息を吸い込むと未踏破エリアの入り口付近に『マーキング』を行い、そして強く念じた。
『マーキング・テレポート!』
再び視界が歪む。
次に目を開けた時、俺は先ほどまでいた場所から数百メートル離れた未知の通路に立っていた。
ひんやりとした空気が肌を撫でる。これから何が待ち受けているのか、期待と不安で胸が高鳴った。
役立たずの地図製作者の物語はここで終わった。
そして今日この瞬間から、俺だけの冒険が始まるのだ。
一切の感情を排した冷たい声が、薄暗い洞窟に響き渡った。
声の主は俺が所属するパーティー『赤き獅子の爪痕』のリーダー、アルド。燃えるような赤髪を揺らし、腰に差した長剣の柄に手をかけながら、ゴミでも見るような目で俺を見下ろしている。
『やっぱり、こうなるのか……』
心のどこかで覚悟はしていた。俺の職業は【地図製作者(マッパー)】。戦闘能力はゼロ。冒険者としてはあまりに不向きな、いわゆるハズレ職業だ。
このパーティーでの俺の役割はダンジョンの構造を記録し、安全なルートを確保すること。それと皆の荷物持ちだ。だが、アルドたちはもっと直接的な戦力を求めていた。
「どうしてですか、アルドさん。俺はこれまでずっとパーティーのために……」
「うるさい!貴様の地図作りはいつもノロノロと時間がかかりすぎる!そのせいで何度、危険な目に遭ったと思ってる!」
魔法使いのセーラが扇子で口元を隠しクスクスと笑う。僧侶のマルクは気まずそうに目をそらし、盗賊のジンは壁に寄りかかって爪をいじっているだけ。誰も俺をかばってはくれない。
「だがな、レイン。貴様がただの荷物持ちとしてそれなりに働いてきたことには感謝してやらんこともない。だから温情だ。これだけくれてやる」
アルドが足元に放り投げたのは古びた革袋。中身は銅貨数枚と干し肉が二切れ。三日も生きられない雀の涙ほどの餞別だった。
「ここは『忘却の深淵』の第五階層だ。ここから一人で地上に戻れるなら、せいぜい頑張るんだな。まあ、貴様のような役立たずには無理だろうが」
高笑いを響かせながらアルドたちは背を向ける。彼らが持つ松明の光が遠ざかり、俺は完全な暗闇と静寂の中に一人取り残された。
背後からは得体の知れない魔物のうめき声が聞こえてくる。
『冗談じゃない……こんな場所に一人で置いていくなんて……』
膝から崩れ落ち、冷たい石の床に手をつく。絶望がじわじわと身体を蝕んでいく。
これまで必死にパーティーに貢献しようと、寝る間も惜しんで地図を作ってきた。誰もやりたがらない雑用も率先して引き受けた。それなのに、この仕打ちだ。
悔しさと虚しさで視界が滲む。
その時、不意に脳内へ直接、声のようなものが響いた。
《熟練度が規定値に到達しました。スキル【地図製作者】が進化します》
『……は?』
なんだ、今の声は。幻聴か?
しかしその声に呼応するように、身体の奥から温かい何かが湧き上がってくるのを感じた。
目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がる。ゲームのステータス画面のような、今まで見たこともないものだ。
【スキル: 絶対領域把握(ワールド・マッピング) Lv.1】
・効果1: マッピング…視認、あるいは踏破した領域の三次元構造、オブジェクト配置(魔物、宝箱、罠など)を自動的に記録し、脳内マップに表示する。
・効果2: マーキング…マップ上の任意の地点に印を設置する。
・効果3: リモート・ビューイング…マーキングした地点の現在の様子を遠隔視できる。
・効果4: マーキング・テレポート…マーキングした地点へ瞬時に転移できる。(消費MP: 距離に依存)
『絶対領域……把握?』
意味が分からない。だが説明を読む限り、とんでもないスキルに進化したことだけは理解できた。
特に最後の『マーキング・テレポート』。転移魔法なんて王宮魔術師でも一部の天才しか使えないと言われる超希少魔法だ。それが俺のスキルに……?
試しに目の前の壁に向かって『マーキング』と念じてみる。すると壁に淡い光の印が灯った。
次にすぐ隣の、二歩ほど離れた場所へ『テレポート』と念じる。
瞬間、視界がぐにゃりと歪み、次の瞬間には俺はマーキングした壁の隣に立っていた。
乗り物酔いに似た感覚が少しだけ残るが、確かに移動している。
『……すごい。本当に転移できた』
これが俺の力?今まで役立たずだと罵られてきた、俺だけの力?
ふと、ある考えが頭をよぎる。このダンジョンに入ってから今まで、俺はずっと地図を描き続けてきた。それはつまりこの第五階層までの道はすべて、俺の頭の中に記録されているということだ。
俺は脳内に浮かんだマップを開く。それは今まで俺が羊皮紙に描いてきた平面的な地図とは全く違った。洞窟の凹凸、通路の傾斜、水たまりの位置まで、全てが立体的にそして完璧に再現されている。
『このスキルのマッピング能力……俺が今までやってきたこととは次元が違う』
マップ上には赤い点で魔物の位置が表示され、黄色い点で宝箱らしき反応まで示されている。そして俺が今いる場所からダンジョンの入り口までの最短ルートが、青い光の線で示されていた。
『この力があれば、一人でも地上に戻れる……!』
絶望の淵から一筋の光明が差した。
いや、戻るだけじゃない。
マップを見るとアルドたちが進んだルートの先には、おびただしい数の赤い点が密集しているエリアがあった。おそらく強力なモンスターの巣だ。彼らは俺という地図を失ったことで、自ら死地へと向かっている。
『自業自得だ』
冷たい感情が胸をよぎる。彼らに教えてやる義理はもうない。
それよりもマップにはもう一つ、気になる表示があった。アルドたちとは逆方向の、これまで誰も踏み入れたことのない未踏破エリア。そこに一際大きく輝く黄色い点があった。伝説級のアイテムでも眠っているのかもしれない。
『行ってみたい……』
好奇心が恐怖を上回る。
今まで俺は常にパーティーの足手まといにならないよう、安全な道ばかりを選んできた。自分の意思で道を決めることなんて一度もなかった。
でも今は違う。俺にはこの力がある。
俺は自分の意思で、自分の道を選べるんだ。
俺は大きく息を吸い込むと未踏破エリアの入り口付近に『マーキング』を行い、そして強く念じた。
『マーキング・テレポート!』
再び視界が歪む。
次に目を開けた時、俺は先ほどまでいた場所から数百メートル離れた未知の通路に立っていた。
ひんやりとした空気が肌を撫でる。これから何が待ち受けているのか、期待と不安で胸が高鳴った。
役立たずの地図製作者の物語はここで終わった。
そして今日この瞬間から、俺だけの冒険が始まるのだ。
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