追放された鉄道オタクの俺、悪役令嬢と辺境で蒸気機関車を作ったら王国最強になってた件。

黒崎隼人

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第1話:没落貴族の夢と鉄の意志

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「また鉄の絵か、アスター」

 父であるアイゼンローデ子爵の疲れた声が、書斎に響いた。机に広げられた羊皮紙には、異世界に似つかわしくない、黒鉛で描かれた精密な機械の図面。二本のレールの上に乗る、鉄の塊――蒸気機関車の構想図だ。

 僕、アスター・フォン・アイゼンローデは、かつて日本の鉄道会社に勤めていた、ごく普通の男だった。激務の帰り道、踏切事故に巻き込まれ、次に目覚めた時には、この剣と魔法の世界の貴族の長男として生まれ変わっていた。

 アイゼンローデ家。その名はかつて、土木技術の名門として王国に轟いていた。橋を架け、街道を整備し、堅牢な城壁を築く。その技術は人々の生活を豊かにし、王国を発展させた。しかし、今は見る影もない。流行病のように国中に蔓延した魔力至上主義の波が、全てを洗い流してしまった。

 魔法の力こそが絶対。土を掘り、石を積む技術など野蛮で時代遅れだと、彼らは言った。そして、その筆頭にいたのが、第二王子ジークフリートを中心とする派閥だった。彼らは巧みな情報操作で父の事業を失敗に追い込み、多額の負債を押し付け、アイゼンローデ家を没落させたのだ。僕が物心ついた頃には、家にはかつての栄光を物語る古い設計図と、返済しきれない借金だけが残されていた。

 父は希望を失い、酒に溺れる日も少なくない。だが、僕には諦めることなどできなかった。前世で、僕は鉄道がどれほど人の世を変えるかを知っている。鉄のレールが国土を繋ぎ、蒸気の力が人や物を運び、経済を活性化させ、文化を交流させる。あの力強い鉄輪の響き、大地を揺るがす駆動音。それをこの世界で再現することが、僕の新たな人生の目標であり、アイゼンローデ家を再興させる唯一の道だと信じていた。

「父上、これはただの絵ではありません。未来です」
 僕は立ち上がり、設計図を指し示した。
「この『鉄の馬車』が走れば、馬車の何倍もの荷物を、何倍もの速さで運べます。遠い街まで一日でたどり着き、山で採れた鉱石が、その日のうちに港へ届く。我々の技術は古びてなどいない。ただ、時代がまだ追いついていないだけです」

 しかし、父の瞳に宿る光は弱々しいままだった。
「夢物語だ、アスター。我々にそんな力はない。王子に睨まれた我らを、誰が支援するというのだ」

 父の言う通り、状況は絶望的だ。だが、僕は証拠を探し続けていた。ジークフリート王子たちが、どのようにして父を陥れたのか。その金の流れ、関与した貴族たちの名前。いつか全てを白日の下に晒し、正当な評価を取り戻す。そのために、今は力を蓄え、知識を深めるしかない。

「諦めません。必ず、このアイゼンローデの名の下に、鉄路を敷いてみせます」

 僕の言葉に、父は何も答えず、ただ静かに溜め息をつくだけだった。

 書斎の窓から見える領地は、痩せ細り、活気がない。民もまた、僕たちと同じように希望を失いかけている。このままではいけない。僕の夢は、僕一人のためのものではない。この家を、この領地を、そしてこの国を蘇らせるための、鉄の意志なのだ。

 僕は再び机に向かい、黒鉛を握りしめた。レールの幅、車輪の大きさ、ボイラーの圧力。前世の記憶を頼りに、一つ一つの数値を羊皮紙に刻み込んでいく。まだ誰も知らない未来の設計図。それが、僕の唯一の武器であり、反撃の狼煙だった。この鉄の夢が現実となる日を、僕は静かに、しかし燃えるような情熱をもって待ち続けていた。
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