追放された鉄道オタクの俺、悪役令嬢と辺境で蒸気機関車を作ったら王国最強になってた件。

黒崎隼人

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第2話:悪役令嬢の断罪

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 王宮から夜会の招待状が届いたのは、そんなある日のことだった。数少ない付き合いの残る、父の旧友である伯爵からのものだ。正直なところ、今の僕らが王宮へ顔を出すなど、晒し者にされに行くだけのようなものだ。父も行く気はないようだった。

「お前が行ってきなさい、アスター。腐っていても貴族は貴族。少しは顔を繋いでおかねばならん」

 父の言葉は、諦めが滲んでいたが、僕にとっては好機だった。ジークフリート王子やその取り巻きたちが集まる場所。彼らの会話の端々から、陰謀の証拠に繋がる情報が拾えるかもしれない。気が進まないふりをしながら、僕は招待を受けることにした。

 擦り切れた礼服に袖を通し、王宮の大広間に足を踏み入れる。煌びやかなシャンデリア、流れるような音楽、着飾った貴族たちの笑い声。全てが、没落した我が家とは別世界の光景だった。壁の花に徹し、目立たぬように人々の会話に耳を澄ませる。だが、聞こえてくるのは他愛のない噂話ばかり。やはり、収穫はないかと諦めかけた、その時だった。

 広間のざわめきが、すっと静まり返った。人々の視線が一点に集まる。その先に立っていたのは、第二王子ジークフリートと、彼の婚約者である公爵令嬢、セレスティーナ・フォン・リリーエングランツだった。

 セレスティーナ嬢は、まるで物語から抜け出してきたかのような絶世の美女だった。白銀の髪は月の光を集めて輝き、紫水晶のような瞳は聡明さと気高さを物語っている。だが、その美しい顔は青ざめ、誇り高い瞳は不安に揺れていた。

 対するジークフリート王子は、得意満面の笑みを浮かべていた。彼の隣には、これ見よがしに寄り添う男爵令嬢の姿がある。

「セレスティーナ! よくも俺を裏切ってくれたな!」

 王子の甲高い声が、静寂を切り裂いた。集まった貴族たちは、何事かと息を呑む。
「君が、この男爵令嬢に数々の嫌がらせを行い、あまつさえ階段から突き落とそうとしたことは、既に調査済みだ! なんと嫉妬深く、浅ましい女だ!」

 男爵令嬢は、王子の腕の中でか弱く震え、「そんな…ひどいです、セレスティーナ様…」と涙を浮かべている。見事な三文芝居だった。

 セレスティーナ嬢は、唇を強く結び、凛とした声で反論した。
「お待ちください、ジークフリート殿下。私はそのようなこと、決してしておりません。何かの間違いです」

「間違いだと? 証人もいるのだぞ!」
 王子が合図すると、数人の貴族が進み出て、口々にセレスティーナ嬢が男爵令嬢をいじめていたと「証言」し始めた。彼らは皆、ジークフリート王子の派閥に属する者たちだ。茶番劇にも程がある。

 僕は、その光景から目が離せなかった。これは、かつて父が陥れられた手口と全く同じだ。偽りの証拠と証言で追い詰め、社会的生命を奪う。僕は唇を噛んだ。なんという卑劣な男だ。

 そして僕は、思い出していた。前世で暇つぶしに読んだ、とあるウェブ小説のことを。その物語は、まさにこの世界が舞台だった。傲慢な王子、可憐なヒロイン(男爵令嬢)、そして、ヒロインをいじめる嫉妬深い「悪役令嬢」セレスティーナ。物語の終盤、彼女は王子に罪を着せられ、婚約を破棄され、没落していくのだ。まさか、自分が小説の世界に転生していたとは。そして、今まさに、その断罪イベントの真っ只中にいるとは。

「よって、今この時をもって、貴様との婚約を破棄する! 公爵令嬢セレスティーナ・フォン・リリーエングランツ! 貴様のような女は、我が隣にふさわしくない!」

 ジークフリートの宣言が、決定的な一撃となって広間に響き渡った。セレスティーナ嬢の顔から血の気が引き、その美しい瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。周囲の貴族たちは、同情するどころか、勝ち誇った王子を賞賛し、落ちぶれた彼女を嘲笑の目で見ている。

 許せなかった。彼らの卑劣なやり方も、理不尽に全てを奪われる彼女の姿も。アイゼンローデ家が受けた仕打ちと、セレスティーナ嬢の涙が、僕の中で重なった。ここで見て見ぬふりをすれば、僕は僕でなくなる。僕が積み上げてきた知識と、守るべき矜持が、それを許さなかった。

 気づいた時には、僕は人垣をかき分け、一歩前に踏み出していた。
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