追放された鉄道オタクの俺、悪役令嬢と辺境で蒸気機関車を作ったら王国最強になってた件。

黒崎隼人

文字の大きさ
3 / 24

第2話:悪役令嬢の断罪

しおりを挟む
 王宮から夜会の招待状が届いたのは、そんなある日のことだった。数少ない付き合いの残る、父の旧友である伯爵からのものだ。正直なところ、今の僕らが王宮へ顔を出すなど、晒し者にされに行くだけのようなものだ。父も行く気はないようだった。

「お前が行ってきなさい、アスター。腐っていても貴族は貴族。少しは顔を繋いでおかねばならん」

 父の言葉は、諦めが滲んでいたが、僕にとっては好機だった。ジークフリート王子やその取り巻きたちが集まる場所。彼らの会話の端々から、陰謀の証拠に繋がる情報が拾えるかもしれない。気が進まないふりをしながら、僕は招待を受けることにした。

 擦り切れた礼服に袖を通し、王宮の大広間に足を踏み入れる。煌びやかなシャンデリア、流れるような音楽、着飾った貴族たちの笑い声。全てが、没落した我が家とは別世界の光景だった。壁の花に徹し、目立たぬように人々の会話に耳を澄ませる。だが、聞こえてくるのは他愛のない噂話ばかり。やはり、収穫はないかと諦めかけた、その時だった。

 広間のざわめきが、すっと静まり返った。人々の視線が一点に集まる。その先に立っていたのは、第二王子ジークフリートと、彼の婚約者である公爵令嬢、セレスティーナ・フォン・リリーエングランツだった。

 セレスティーナ嬢は、まるで物語から抜け出してきたかのような絶世の美女だった。白銀の髪は月の光を集めて輝き、紫水晶のような瞳は聡明さと気高さを物語っている。だが、その美しい顔は青ざめ、誇り高い瞳は不安に揺れていた。

 対するジークフリート王子は、得意満面の笑みを浮かべていた。彼の隣には、これ見よがしに寄り添う男爵令嬢の姿がある。

「セレスティーナ! よくも俺を裏切ってくれたな!」

 王子の甲高い声が、静寂を切り裂いた。集まった貴族たちは、何事かと息を呑む。
「君が、この男爵令嬢に数々の嫌がらせを行い、あまつさえ階段から突き落とそうとしたことは、既に調査済みだ! なんと嫉妬深く、浅ましい女だ!」

 男爵令嬢は、王子の腕の中でか弱く震え、「そんな…ひどいです、セレスティーナ様…」と涙を浮かべている。見事な三文芝居だった。

 セレスティーナ嬢は、唇を強く結び、凛とした声で反論した。
「お待ちください、ジークフリート殿下。私はそのようなこと、決してしておりません。何かの間違いです」

「間違いだと? 証人もいるのだぞ!」
 王子が合図すると、数人の貴族が進み出て、口々にセレスティーナ嬢が男爵令嬢をいじめていたと「証言」し始めた。彼らは皆、ジークフリート王子の派閥に属する者たちだ。茶番劇にも程がある。

 僕は、その光景から目が離せなかった。これは、かつて父が陥れられた手口と全く同じだ。偽りの証拠と証言で追い詰め、社会的生命を奪う。僕は唇を噛んだ。なんという卑劣な男だ。

 そして僕は、思い出していた。前世で暇つぶしに読んだ、とあるウェブ小説のことを。その物語は、まさにこの世界が舞台だった。傲慢な王子、可憐なヒロイン(男爵令嬢)、そして、ヒロインをいじめる嫉妬深い「悪役令嬢」セレスティーナ。物語の終盤、彼女は王子に罪を着せられ、婚約を破棄され、没落していくのだ。まさか、自分が小説の世界に転生していたとは。そして、今まさに、その断罪イベントの真っ只中にいるとは。

「よって、今この時をもって、貴様との婚約を破棄する! 公爵令嬢セレスティーナ・フォン・リリーエングランツ! 貴様のような女は、我が隣にふさわしくない!」

 ジークフリートの宣言が、決定的な一撃となって広間に響き渡った。セレスティーナ嬢の顔から血の気が引き、その美しい瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。周囲の貴族たちは、同情するどころか、勝ち誇った王子を賞賛し、落ちぶれた彼女を嘲笑の目で見ている。

 許せなかった。彼らの卑劣なやり方も、理不尽に全てを奪われる彼女の姿も。アイゼンローデ家が受けた仕打ちと、セレスティーナ嬢の涙が、僕の中で重なった。ここで見て見ぬふりをすれば、僕は僕でなくなる。僕が積み上げてきた知識と、守るべき矜持が、それを許さなかった。

 気づいた時には、僕は人垣をかき分け、一歩前に踏み出していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は廃墟農園で異世界婚活中!~離婚したら最強農業スキルで貴族たちが求婚してきますが、元夫が邪魔で困ってます~

黒崎隼人
ファンタジー
「君との婚約を破棄し、離婚を宣言する!」 皇太子である夫から突きつけられた突然の別れ。 悪役令嬢の濡れ衣を着せられ追放された先は、誰も寄りつかない最果ての荒れ地だった。 ――最高の農業パラダイスじゃない! 前世の知識を活かし、リネットの農業革命が今、始まる! 美味しい作物で村を潤し、国を救い、気づけば各国の貴族から求婚の嵐!? なのに、なぜか私を捨てたはずの元夫が、いつも邪魔ばかりしてくるんですけど! 「離婚から始まる、最高に輝く人生!」 農業スキル全開で国を救い、不器用な元夫を振り回す、痛快!逆転ラブコメディ!

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。 だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。 契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。 農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。 そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。 戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!

元悪役令嬢、偽聖女に婚約破棄され追放されたけど、前世の農業知識で辺境から成り上がって新しい国の母になりました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢ロゼリアは、王太子から「悪役令嬢」の汚名を着せられ、大勢の貴族の前で婚約を破棄される。だが彼女は動じない。前世の記憶を持つ彼女は、法的に完璧な「離婚届」を叩きつけ、自ら自由を選ぶ! 追放された先は、人々が希望を失った「灰色の谷」。しかし、そこは彼女にとって、前世の農業知識を活かせる最高の「研究室」だった。 土を耕し、水路を拓き、新たな作物を育てる彼女の姿に、心を閉ざしていた村人たちも、ぶっきらぼうな謎の青年カイも、次第に心を動かされていく。 やがて「辺境の女神」と呼ばれるようになった彼女の奇跡は、一つの領地を、そして傾きかけた王国全体の運命をも揺るがすことに。 これは、一人の気高き令嬢が、逆境を乗り越え、最高の仲間たちと新しい国を築き、かけがえのない愛を見つけるまでの、壮大な逆転成り上がりストーリー!

勇者パーティを追放された地味な器用貧乏は、 魔王軍の女騎士とスローライフを送る

ちくわ食べます
ファンタジー
勇者パーティから「地味、英雄譚の汚点」と揶揄され追放された器用貧乏な裏方の僕。 帰る場所もなく死の森を彷徨っていたところ、偶然にも重傷を負った魔王軍四天王で最強の女騎士「黒鉄剣のリューシア」と遭遇する。 敵同士のはずなのに、なぜか彼女を放っておけなくて。治療し、世話をし、一緒に暮らすことになった僕。 これは追放された男と、敗北を重ね居場所を失った女の物語。

悪役令嬢に転生したけど、破滅エンドは王子たちに押し付けました

タマ マコト
ファンタジー
27歳の社畜OL・藤咲真帆は、仕事でも恋でも“都合のいい人”として生きてきた。 ある夜、交通事故に遭った瞬間、心の底から叫んだーー「もう我慢なんてしたくない!」 目を覚ますと、乙女ゲームの“悪役令嬢レティシア”に転生していた。 破滅が約束された物語の中で、彼女は決意する。 今度こそ、泣くのは私じゃない。 破滅は“彼ら”に押し付けて、私の人生を取り戻してみせる。

『レベルMAXの引退生活』 〜追放先でダラダラしていたら、いつの間にか世界最強の聖域になっていました〜

小林 れい
ファンタジー
「働いたら負け」と言って追放された最強聖女、成層圏で究極のニート生活を極める 〜神々がパシリで、寝顔が世界平和の象徴です〜 「お願いだから、私を一生寝かせておいて」 前世でブラック企業の社畜として命を削ったヒロイン・ユラリア。異世界に転生し、国を救う「聖女」として崇められるも、彼女の願いはただ一つ――「もう一歩も動きたくない」。 しかし、婚約者の第一王子からは「働かない聖女など不要だ!」と無情な婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。 「え、いいんですか? 本当に休んでいいんですね!?」 喜びに震えながら、ユラリアは人類未踏の死の荒野へと引きこもる。だが、彼女の「怠惰」を極めるための魔力は、いつしか世界の理(ことわり)さえも書き換えていった。 神龍王を巨大な「日除け」に。 料理の神を「おやつ担当の給食係」に。 妖精王を「全自動美容マシーン」に。 「面倒くさい」を原動力に開発された魔導家電や、異世界の娯楽(ゲーム)。挙句の果てには、地上を離れ、邸宅ごと空へと浮かび上がる! 地上の元婚約者が、聖女を失った王国の没落に泣きつこうとも、成層圏に住む彼女には豆粒ほどにも見えない。 神々さえもパシリにする史上最強のニート聖女が、夢の中でも二度寝を楽しむ、贅沢すぎる究極の休日が今、始まる!

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

処理中です...